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第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

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 食堂に戻った僕は、胡椒の粒を房から切り分けていく。

「お? 今度は何やってんだ?」

 ラズロさんがやって来た。

「胡椒の実が出来上がったので、バラバラにして乾燥させるんですよ」

「いやいや、昨日種届いてそんな……」

 僕の手元を覗き込み、パフィを見て、「すっげぇなぁ、魔女ってどうなってんだ?」と呟く。

 驚いてるラズロさんをチラッと見てから、パフィは身体を丸めて寝てしまった。

「オレも手伝うぞ」

 カゴにたっぷり入った胡椒の実をラズロさんと二人で茎から外していく。
 赤い実と緑の実の違いを聞かれたので、パフィに教わったことをそのまま伝えると、感心したみたいで、見比べたりしていた。

「面白ぇなぁ。この胡椒も、ギルドに卸すのか?」

「うーん、どうでしょう。乾燥させるのに時間がかかるし、育つのにパフィの持つ時間を使うみたいです」

『それなら私のを使えば良いわ』

 聞いたことのある声がして顔を上げると、食堂のまん中に白と黒の大蛇がとぐろを巻いていた。アマーリアーナ様だ。いつの間に?
 パフィを見ると、気付いてたのか、起き上がってアマーリアーナ様の大蛇を見ていた。

『何しに来た、アマーリアーナ』

 大蛇の口から赤く二又に分かれた舌がチロチロと飛び出す。

『ご挨拶ね、パシュパフィッツェ。
進捗具合を確かめに来たら、時間の話をしていたから加わっただけよ?』

 古の魔女。しかもどっちも使い魔の姿。
 なんと言うか、すごい図だよね。
 隣を見るとラズロさんが固まってた。

『中は確認出来ていないけれど、なかなか良いダンジョンが出来たようね。さすがパシュパフィッツェと言うべきかしらね』

『確認が済んだならさっさと帰れ』

『怖い事』

 楽しそう?に身体を揺らす大蛇。
 もしかしてアレ、笑ってるのかなぁ。

 今更なんだけど、なんでアマーリアーナ様の使い魔って大蛇なんだろう?

『催促に来た訳でも邪魔しに来た訳でもないわ。本当に具合を見に来ただけだから。
でも、そうね。せっかく来たのだし、お願いばかりも申し訳ないから私の持つ時をあのダンジョンにあげるわ』

『……どういうつもりだ』

『そのままよ。そうだわ、私も魔女だから薬を作るのよ。必要になったら生薬を分けてもらえたら嬉しいわ』

 アマーリアーナ様が僕を見て言う。

『パフィが良いなら』

『構わん、たっぷり使ってこの年増を戦々恐々とさせてやれ』

 ほほほほほほ、とアマーリアーナ様と言うか、大蛇が笑う。
 うん、慣れたつもりでいたけど、やっぱりちょっとこの状況はすごいかも。

『さっそくいただいて良いかしら?』

 カゴの中から赤い実と緑の実を取り出してアマーリアーナ様の前に行く。
 身を乗り出した大蛇は、首を左右に振って僕の手の中の胡椒の実を確認する。

『魔力を宿した実と言うのは、初めて見るわ。
本当に面白い』

 そう言って僕の手から実を口に咥えるようにして受け取ると、そのまま飲み込んだ。
 ……え、飲むの?

『ではね』

 しっぽをガラガラと鳴らし、大蛇──アマーリアーナ様は消えた。

「なんだったんだろうね?」

 パフィに訊く。

『言葉の通りだ。アマーリアーナはおまえに時間をくれた』

 僕に時間?

『早く胡椒を作れ。まったくあんなに渡しおって』

 ぶつぶつ言い出したパフィ。

「パフィこそ、何が食べたいか決まったの?」

『そうだった! 胡椒をこれでもかとかけて辛くなった焼いた鶏肉がよいぞ』

 あ、美味しそう。

「じゃあそれにしよう」

『うむ。楽しみだ』

 はぐらかしてるけど、魔女の時間と言うのは、実は貴重なものなんじゃないかな。
 でも、言いたくなさそうだから、そのままにしておこう。いつか教えてくれるかも知れないし。
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