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第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

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 気になっている事を尋ねる。

「次は薬ですか?」

 質問すると、ティール様が頷いた。
 パフィはここではテイムされた猫のフリをする。

「北の国と取り引き不可になって支障を来たすのは薬剤になります。こちらも例の如く作成していただきますが、魔法薬学の棟の近くになりますね」

 魔法薬学。話には聞いているけど、よく分からない。

「レンレンもわざわざ出て来るとは思わんが、一度捕まると面倒でなぁ」

「そうなんですよねぇ」

 二人が遠い目をする。

「おぅ、出来たぞ」

 大皿一杯に盛られた料理が、テーブルの真ん中に置かれる。
 ぐつぐつと表面が煮立ってる。

「魚の切り身と使い残した芋の上にクリームソースをかけて、パンの粉をまぶしたもんだ」

 他のテーブルから声が上がる。
 同じ料理があちこちに振る舞われているみたいだ。

「いいだろ?」

 ザックさんの言葉にラズロさんが頷く。

「美味いうちに食ってくれ。独り占めは性に合わん」

「ありがとよ」

 そう言ってザックさんは厨房に戻って行く。

 よくは見えないけど、他のテーブルにはそんなに料理が置かれてなかった。
 外に食事に来たとしても、たくさん食べられるかと言ったら、そうではないんだろうな。

 何かしたい。
 こうして自分の目で見ると、いつも通りで良いのかな、って気持ちになる。
 殿下もお忍びで都の中を見て回ったらしい。
 きっと同じ気持ちになって、何とかしなくちゃと思ったに違いない。
 僕と違って殿下は力があるから、余計にその思いが強いと思う。

「……焦るなよ」

 ラズロさんの言葉に顔を上げる。

「みんなでやってかなきゃなんないんだ。
貴族だけの力じゃなく、平民の力も使って、この国は立ち直らなくちゃいけない」

 貴族を優先して平民の自由を認めない北の国。
 平等を望んで王家を壊して、結局新しい階級によって支配される南の国。

 僕たちのいるこの国は、貴族という立場も残しつつ、平民と協力する国を目指してる。
 その為にも、上から押し付けるだけじゃなくて、僕たち平民も参加しないといけないんだって。

「力のある者だけでこの世は回ってない。オレ達のような弱い奴らの方が大多数を占めるんだ」

「力があろうとなかろうと、皆、生きていますし、考えもします。たとえ一人ひとりの力は弱く、一見非効率であっても、人は成長するものです。
皆で一緒に育っていけば良いんです」

 ティール様の言葉にラズロさんが驚いてる。

「珍しくまともな事言うじゃねぇの?!」

 得意げな顔をするティール様。

「熱でもあるんじゃないのか? もしかして海で溺れたか?」

「ラズロと一緒にいました、溺れておりませんよ」

「おまえも少しは人並みになったなぁ」

 しみじみと言うラズロさんがおかしくて笑ってしまう。
 本当に、言いたい放題だ。
 その後も二人は軽い言い合いをしていた。

『今夜、ここを離れる』

 パフィが僕にだけ聞こえる声で言った。

『アマーリアーナから少し前に知らせが来てな。
魔法使いと騎士には伝えてある。
おまえは裏庭のダンジョンに海を作り、薬草の育つダンジョンを作っておくが良い』

「すぐ戻るの?」

『さぁな』

 アマーリアーナ様。
 パフィと同じ古の魔女。

『まぁ、今回のはいつもの集まりだからな、問題はないだろう』

「でも、来るんでしょう?」

 ナインさんの前世である、クロウリーさんを殺したとされる魔女、も。

『何も仕掛けてこなければ、ただの茶会だろうよ』

「気をつけてね」

 僕の言葉にしっぽを揺らした。



 その日の深夜、パフィは僕の元から離れた。
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