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第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

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 蜂蜜をギルドに引き取ってもらいに行ったラズロさんは、たくさんの花を抱えて帰って来た。
 僕のしたいことをちゃんと分かってくれるラズロさんは、本当に優しいと思う。
 二人でダンジョンに入ってジャッロたちに花をあげると、喜んで花の上を飛び回ってた。

「ここにも花はわんさか咲いてっけど、外からの花はたまのご馳走みたいなもんなのかね」

「そうかも知れませんね。あんな貴重な蜂蜜をもらうんですから、花、たくさんあげたいですよね」

 心なしか、ジャッロたちが機嫌が良いように見える。

「今回も高値で売れたぜー。誰が買ってんのかなぁ、買取額であの値段だ、普通の金持ちぐらいじゃ買えない値段だぞ?」

「東の国を通して北の国が買っているそうです。なんでも魔力と大変相性が良いみたいで、増強剤になるってパフィが言ってました」

 ぽかんとした顔をしたラズロさんは、次の瞬間には大笑いし始めた。

「ざまぁねぇなぁ!」

 ざまぁねぇ?

「だってそうだろうよ。自分達からこっちとは一切取り引きしねぇって啖呵切った手前、咽喉から手が出る程欲しいものが出てきたってのに、くれとは言えないんだぜ?
直接やりとりすりゃあまだ安く済むだろうに、東の国を挟めばその分高くつく」

 あぁ、なるほど。

「商売の基本ですね」

「そうだ、アシュリー。
あぁ、愉快愉快。馬鹿共には良い薬だ」

 ラズロさんは満面の笑みを浮かべた。
 悪いことをしたら、やっぱり悪いことは自分に返ってくるものだよね。
 少し反省して欲しいけど、そんな簡単なことでもないんだろうな。



 夏は葉物野菜が豊富だ。
 今年は豊作なのか、ラズロさんがたくさん買ってきてくれた。

「最近ここ、前より利用者増えたの知ってるか?」

 葉物野菜はサラダにしようと、根本を落として一枚一枚洗っていたら、ラズロさんも手伝ってくれた。

「はい、上級官の人たちも前より見かけるようになりましたね」

 第二王子のことがあってから、上級官だろうな、という見た目の人を目にすることが増えた。

「だからな、予算が増えたんだよ」

「殿下に感謝しないとですね」

「その通りだ。休憩時間に出入りする奴も増えたからな」

 夏の暑い空気が苦手で、食堂の中は風を起こして窓の外に流れるようにしてる。
 そう言えば、ティール様が作ってくれる術符と、寒い場所を繋いだら涼しくなるんじゃ?
 あ、でも繋いでこちらの暑さがいっちゃうのは駄目かな。
 パフィが裏庭のダンジョンに、春夏秋冬の層を作るって言ってたから、そうなったら出来るかな?

「ここはいくらか涼しいな」

 殿下だった。
 始めの頃は緊張していたラズロさんも、最近は限られた人しかいないときは、殿下に対しての態度が少し変わった。優しくなったって言うか。
 面倒見が良いから、殿下もそんな風に見てるんだろうな。

 ラズロさんは濡れた手を拭いて、氷室からミルクを持って来た。蜂蜜らしきとろりとしたものを入れてかき混ぜて、カウンターに腰掛けた殿下に渡す。
 あの蜂蜜、ジャッロたちのだよね?
 僕の視線に気付いたラズロさんはにやりと笑う。

「いつもいつも全部売り出すのももったいねぇからな、少しだけ取っておいた」

「本来なら食堂の料理に使ってもらうべきなのに、国がこの有様だからな、すまない」

「多過ぎても使いきれないし、ここの飯しか食えなくなっても困るから、たまにで良いんですよ」

 ラズロさんが言うと、殿下は目を細めて柔らかく微笑んだ。

「それは分かる。僕はアシュリーの作る料理を食べ始めてから、あちらの料理を口にしたいと思わなくなった」

「素材やらなんやらはあっちの方が上等ですけどね、アシュリーの作る料理は安心しますから。
たまにならご馳走も良い。でも毎日は飽きる。アシュリーの作る飯はそういうもんです」

 褒められて恥ずかしいけど、嬉しいので、ありがとうございます、と答える。

「アシュリーも飲め」

 もう一つの器をラズロさんに差し出されて、慌てて手を拭いて受け取る。
 口にしたミルクは、氷室で冷やされて冷たくて、蜂蜜の濃い甘さが美味しかった。
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