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第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

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 公衆浴場の建設には、食堂の裏にお風呂を作ってくれた人たちが受け持つことになったみたい。
 経験の有無は大きいんだって。
 ただ、その人たちだけでは人手が足りないから、広場で毎朝募集をかけて、未経験の人でも出来ることを手伝ってもらい、その日の仕事が終わる時に給金を払う。
 そうすることできちんとお金が手に入って、ちゃんとご飯が食べられる。とても大事なことだと思う。
 おなかが空くと心細くなる。僕はそんな思いをしたことないけど、想像するだけでこんなに辛いんだから、実際にそうなったら……。
 だから、その日その日にちゃんと支払われる仕組みを、ずっと続けて欲しいなって思った。

 女の人や子供、お年寄りや力のない人たち向けの仕事をノエルさんの生家であるオブディアン家が用意してくれたんだって。
 僕も大好きな羽毛布団に使う水鳥を育てる仕事。
 落とした羽根だけを使う。むしったら駄目。
 僕のいた村では昔、水鳥をしめてから羽根を取っていたらしいんだけど、そうすると羽根がとっても痛むんだって。鳥も命を落とすし、羽根も悪くなってしまうから良いことがないということで、水鳥が落とした羽根だけを使うようになった。
 その分とても時間がかかる。村では子供が生まれると布団を作って、身体の成長に合わせて布団を打ち直しして、そのたびに羽根を足していく。
 オブディアン家の人たちは、村と同じやり方をしてくれるらしい。値段は高くなるだろうけど、貴族の人たちからでも広まれば良いな。

 これまで貴族の屋敷で働いていた人たちには、他の貴族の屋敷への奉公の斡旋だとか、ギルドでのお仕事などが紹介されていってるみたいで、国をあげての失業対策が始まった。
 あと、教会も炊き出しなんかをしてくれているみたい。

「広場にいる奴らの表情が少しずつ明るくなってきたな」

 まだ始まって二週間だけど、前のような暗い雰囲気は薄まってきているのだとラズロさんが教えてくれる。

「国が自分達を見捨てないって分かるだけで、気持ちは上向くもんだ」

「そうですよね」

 突然王都のあちこちの井戸に毒がまかれて、それが落ち着いたと思ったら沢山の貴族が処罰されて、仕事を失って……。
 国にとって、自分たちがどうでも良い存在なのだと思ったら、北の国や南の国からの誘惑に負けてしまいそうだよね。
 それでも、不満を持つ人は出て来るんだろうけど……。

「人の事より、アシュリーさんも大分大変だとノエル先生から聞いてますけども」

 ちら、と横目で見てくるラズロさん。僕は笑った。

「これまでいくつのダンジョンを作った?」

「まだ一つだけですよ」

 さすがにダンジョンを作るのは沢山の魔力を使うから、僕の作業は毎日じゃない。
 取り急ぎ海を、と言うことで作ったダンジョンは、とにかく広く、深さがある。
 海のダンジョンは二階層に分けた。
 一つめの階層は、浅瀬って言って、子供の僕でも膝までいかないぐらいの深さしかない。
 岩場を沢山作って、いよいよ明日、海と繋げる。
 浅瀬の術符はナインさんが作ってくれるらしい。もう片方の、深い海?はティール様が。

 海を見たことがない僕に、殿下やトキア様、クリフさん、ノエルさんが沢山の本や絵を持ってきて見せてくれた。
 殿下も見たことがないから楽しみだっておっしゃってた。

「ラズロさんは海を見たことありますか?」

「あるぞ。若い時にな、すこーしだけ旅をした事があってな、その時に見た」

「絵は沢山見せてもらいましたけど、本物ってどんな風なのかな、って思うんです」

「海はな、とにかくでかくてな、空も広くて、高くて、自分がちっぽけに感じる」

「それは、良くない意味でですか?」

 僕の質問にラズロさんは首を横に振った。

「なんつーのかな、あまりに周りのものが大きくってな、自分の悩みなんてどうでも良いって思えてきたんだよな、オレの場合は。それぐらい、海も空も大きくてな。
……うん、上手く言えねぇけどな、寝っ転がって空を見て、打ち寄せる海の、波の音を聞いてたらな、海や空の一部に自分もなったような気になったんだよ」

 …………分からない。
 全然分からない。
 きっと、見たらひと目で分かるんだろうな。
 
 いつか僕も、海を見てみたいなぁ。
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