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第二章 マレビト

034-1

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 朝、いつものようにメルとコッコのお世話をする為にダンジョンに向かおうとしたら、パフィに止められた。
 ノエルさんとクリフさんがやって来て、ダンジョンの中に入って行くのを見送る。
 いつも通りに見えたから、何も考えずにダンジョンに入ろうとしたけど、昨日、あっち側の人たちが入れるようにしたんだった。

 僕はラズロさんとパフィと一緒に二人が戻ってきた時用に朝食の準備をする。

『まあ、釣れて一匹ぐらいだろう』

 意地悪な言い方をするパフィに、なんとも言えない気持ちになるけど、僕の中にちょっとずつ諦めみたいな気持ちも湧いてきてたりする。
 第二王子たちは良い王様になる可能性を自分から捨ててるんだよね。自分たちだけが良い思いをする為に王様になろうとしてる。その為に半分血のつながった兄さんの命を狙って、自分の立場を安定させる為に、いずれ戦争することまで考えてる。関係ない、沢山の人たちが命を落としたり、怪我をするのに。そんなこと考えない。自分たちはその場に行かないから気にしないんだろうな。

「あちら側の食事にも毒が入れば良いのに」

 思わず呟いてしまった。
 僕の心無い言葉にラズロさんがぎょっとした顔をする。パフィの、マグロのしっぽまでぴん、と立ってる。
 酷いことを言ってるなって、自分でも思う。

「……アシュリーさん、怒ってらっしゃるの?」

「実際にそうしようという気持ちはないんですけど、自分たちがしていることを逆にされたら、少しは気持ちが分かるって言うか、目がさめるのかと思ったんです」

 だって、ダンジョンでジャッロたちに襲われて痛い思いをするのは第二王子でも、第二妃様でも、伯父という人でもないから、被害が出ても止めないんだろうなって思って。

 なるほどなぁ、と答えてマグロの二又のしっぽが揺れる。

『面白いかも知らんなぁ』

 目を閉じ、何かを考えている様子のパフィ。

『あちら側を誘発して配下の者たちを始末し、おまえに矛先が向くように仕向けてから魔女の弟子に手を出したと暴れようかとも思っていたのだがな』

 パフィの弟子になった記憶はないけど、そこは否定しないで話を聞く。

『混沌の魔女が、受け身と言うのも、つまらんものな?』

 あ、これ、やばい事になる奴だ。
 にやりと笑うマグロを見てラズロさんが引きつった顔になる。
 余計な事を言ってしまった気がする。

「でもそれじゃ、パフィの名を悪く言われるかも知れないから、僕は嫌だよ」

『そんなものは第一王子派の力でなんとでもなるだろう』

 止めようと思ったんだけど、駄目だった。
 目がキラキラしてる。楽しいことを思い付いた時にさせる目。マグロの目までキラキラになるなんて。

『むしろ、奴らの本当の姿を暴露する機会なのではないか? 受け身よりもそちらの方が好みだしな』

 ……こうなったパフィを止められる人っていたっけ?
 自分で言い出してしまったことに後悔する。
 悪いことは、少なくともパフィの前では言っちゃいけなかった……。
 僕の気持ちを分かってくれたのか、ラズロさんにぽん、と肩を叩かれた。
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