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第二章 マレビト
032-4
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三日と開けずに夜の街に繰り出していたラズロさんは、宵鍋に着くなり、飲まねば損とばかりにエールを飲み始めた。いつもは味わってるのに、水のように飲んじゃってるけど、大丈夫なのかなぁ……。
雨季に入り、空気が水を含んだように重く感じる日が増えていたから、エールの冷たさは美味しいのかも知れないけど。
ノエルさんの顔を伺うと、僕の視線に気付いて、ラズロさんをちらりと横目で見て苦笑した。
テーブルに所狭しと並べられた料理は、フルールの口に入ることなく平らげられていった。
ノエルさんとクリフさんは沢山食べる。二人とも細く見えるのに、何処に入るのかと思う程によく食べる。
「なぁ、ぼん」
声をかけられたような気がして振り向くと、隣のテーブルの人たちだった。宵鍋で何度か見たことのある人たち。顔見知りという奴で、見掛ければ会釈する、そのぐらいの関係だったと思う。
「このうさぎ、本当はスライムだってザックに聞いたんだが、本当か?」
「本当です」
フルールの額に浮かぶテイムされた印を見て、おじさんたちはほぉほぉ、と頷いた。
「もし良かったらなんだが、この皿に残った料理をこのスライム、うさぎ? に食べてもらいたい」
そう言って指差したテーブルの上には、たくさんの皿が並んでいて、料理が少しずつ残っていた。
「調子に乗って頼み過ぎてな、一番食いたいもんが食べきれん。かと言って残すのもザックに申し訳なくてな」
「そうなんですね。この子、フルールは好き嫌いがないのと、いつもおなかを空かせているので、分けていただけるのは嬉しいです」
「そうか! ありがとな!」
フルールの前に置かれた皿には、さっきまで山盛りの料理が入っていたにも関わらず、ちょっと話をしている間にぺろりと平らげてしまって、からっぽだ。
おじさんは皿の中の料理をフルールの皿に入れた。フルールは鼻をヒクヒクさせ、僕を見上げる。
「食べて良いよ」
長い耳がぴょこぴょこと揺れ、フルールの手が皿の中に入る。ソースがたっぷりかかった肉の塊を、両手でしっかりと挟んで口にする。
「どう見てもうさぎにしか見えんが、スライムってのは噂に違わず何でも食えるんだな」
食べ終わるとまた別の料理が皿に入って、フルールが食べていく。
ひと通り食べきれないでいた料理を分けてもらった後、お姉さんがたっぷり料理がもられた皿を持ってきてフルールの前に置き、からっぽになった皿を持って行った。
山盛りの料理を見て、驚く隣のおじさんたち。
「そんなに食えるのか?」
「食べますよ」
フルールは器用に料理を両手で挟み、ひたすら食べていく。すぐに料理の山は崩れていく。
「すっげぇ……」
食べ終わると次の皿がきて、それもさっきと同じ早さで食べていく。
おじさんたちは言葉もなく、ぽかんとした顔でフルールが食べていく様子を見ていた。
「あの、一番食べたい料理、頼まなくて良いんですか?」
頼んでる様子がなかったから、ちょっと心配になって聞いてみた。僕に言われてはっ、とした顔になると、店内を歩き回るお姉さんに料理を頼んでいた。
「悪ぃ悪ぃ。あまりの食べっぷりに見入ってたわ」
ありがとな、と礼を言われたけど、僕のほうこそフルールのご飯ありがとうございます、と礼を言った。
フルールはとにかく沢山食べたいのに、最近は食堂で料理があまることが少なくて、思いっきり食べさせてあげられてない。だから宵鍋はフルールにとって、大切な場所。
「ザックさんの所に行ってきます」と声をかけると、三人から「気を付けて」と言われた。
厨房に入ると、いつものように洗い物がたっぷり積み上がっていて、ザックさんは忙しそうに調理していた。
「お邪魔します」
「アシュリーか、助かる」
さっそく洗い物を始める。洗い終えた皿は、重ならないように並べて風の魔法で水気を飛ばす。この一瞬では当然乾ききりはしないけど、布巾で拭く手間が減るので、食堂でもやってる。
「ザックさん」
「ん?」
「ジャガイモが大量にあるんです。おすすめの料理ありませんか?」
「ジャガイモなぁ」と呟いて、フライパンの大きく揺らし、肉を上下ひっくり返す。
「クロケットなんかどうだ?」
クロケット。それなら確かにジャガイモを沢山使う。
「ジャガイモだけで作るのが一般的だが、他にも入れてやると旨くなるぞ」
なるほど、と納得して頷く。
「あとは、そうだな。前にアシュリーからマヨネーズの作り方を教えてもらってから、思い付いたソースがある」
マヨネーズから思い付いたソース?
「茹でた卵を粗めに刻んで、同じように粗めに刻んでおいたタマネギをマヨネーズに混ぜる。濃厚な味になってなかなか良いぞ」
マヨネーズソースに茹で卵とタマネギの粗みじん切り……タマネギのシャキシャキした食感が美味しそう。黄身の味でマヨネーズはもっと味がはっきりしそうだけど、白身の甘さって言うか、あの食感は合う気がする。
「そのソースを使ったメニューはありますか?」
もし、もうメニューにあるなら、食べてみたい!
ザックさんは眉間に皺を寄せて、ため息を吐いた。
「ソースが濃い目だからな、のせる方はそんなに味の主張が無い奴が良いとは思うんだがなぁ、今のところピンとくるものがなくてな、メニューには入れてない。
白身の魚を焼いた奴にのせて食ってみたら、まぁそれなりの味にはなるんだがな、もうちょっと欲しい」
白身魚と、ソース……十分美味しそうだけど。
「そうか……クロケットのように、魚も揚げてみるかな」
「美味しそうです。揚げ物の油分が、ソースの酸っぱさで和らぎそうだし」
うん、良いな、やってみる、とザックさんは頷いた。
「メニューにのったら絶対に食べます」
「おぅ、味が浮かんできたからな、そう待たせないと思うぞ」
皿洗いがひと通り終わって、テーブルに戻ると、ラズロさんがテーブルに突っ伏して寝ていた。ノエルさんとクリフさんは静かにエールを飲んで、ラズロさんをそのまま寝かせてる。
ノエルさんの横に座って、ラズロさんを起こさないように小声で話しかける。
「寝ちゃったんですか?」
苦笑いを浮かべながら、ノエルさんが頷く。
「飲み溜めなんか、出来る訳ないのにね」
確かに、聞いたことないけど、眠るラズロさんの顔はしあわせそうだったから、まぁ良いのかな、と思った。
でも、明日は二日酔いになってそうだから、たまねぎスープを作ろうかな。
雨季に入り、空気が水を含んだように重く感じる日が増えていたから、エールの冷たさは美味しいのかも知れないけど。
ノエルさんの顔を伺うと、僕の視線に気付いて、ラズロさんをちらりと横目で見て苦笑した。
テーブルに所狭しと並べられた料理は、フルールの口に入ることなく平らげられていった。
ノエルさんとクリフさんは沢山食べる。二人とも細く見えるのに、何処に入るのかと思う程によく食べる。
「なぁ、ぼん」
声をかけられたような気がして振り向くと、隣のテーブルの人たちだった。宵鍋で何度か見たことのある人たち。顔見知りという奴で、見掛ければ会釈する、そのぐらいの関係だったと思う。
「このうさぎ、本当はスライムだってザックに聞いたんだが、本当か?」
「本当です」
フルールの額に浮かぶテイムされた印を見て、おじさんたちはほぉほぉ、と頷いた。
「もし良かったらなんだが、この皿に残った料理をこのスライム、うさぎ? に食べてもらいたい」
そう言って指差したテーブルの上には、たくさんの皿が並んでいて、料理が少しずつ残っていた。
「調子に乗って頼み過ぎてな、一番食いたいもんが食べきれん。かと言って残すのもザックに申し訳なくてな」
「そうなんですね。この子、フルールは好き嫌いがないのと、いつもおなかを空かせているので、分けていただけるのは嬉しいです」
「そうか! ありがとな!」
フルールの前に置かれた皿には、さっきまで山盛りの料理が入っていたにも関わらず、ちょっと話をしている間にぺろりと平らげてしまって、からっぽだ。
おじさんは皿の中の料理をフルールの皿に入れた。フルールは鼻をヒクヒクさせ、僕を見上げる。
「食べて良いよ」
長い耳がぴょこぴょこと揺れ、フルールの手が皿の中に入る。ソースがたっぷりかかった肉の塊を、両手でしっかりと挟んで口にする。
「どう見てもうさぎにしか見えんが、スライムってのは噂に違わず何でも食えるんだな」
食べ終わるとまた別の料理が皿に入って、フルールが食べていく。
ひと通り食べきれないでいた料理を分けてもらった後、お姉さんがたっぷり料理がもられた皿を持ってきてフルールの前に置き、からっぽになった皿を持って行った。
山盛りの料理を見て、驚く隣のおじさんたち。
「そんなに食えるのか?」
「食べますよ」
フルールは器用に料理を両手で挟み、ひたすら食べていく。すぐに料理の山は崩れていく。
「すっげぇ……」
食べ終わると次の皿がきて、それもさっきと同じ早さで食べていく。
おじさんたちは言葉もなく、ぽかんとした顔でフルールが食べていく様子を見ていた。
「あの、一番食べたい料理、頼まなくて良いんですか?」
頼んでる様子がなかったから、ちょっと心配になって聞いてみた。僕に言われてはっ、とした顔になると、店内を歩き回るお姉さんに料理を頼んでいた。
「悪ぃ悪ぃ。あまりの食べっぷりに見入ってたわ」
ありがとな、と礼を言われたけど、僕のほうこそフルールのご飯ありがとうございます、と礼を言った。
フルールはとにかく沢山食べたいのに、最近は食堂で料理があまることが少なくて、思いっきり食べさせてあげられてない。だから宵鍋はフルールにとって、大切な場所。
「ザックさんの所に行ってきます」と声をかけると、三人から「気を付けて」と言われた。
厨房に入ると、いつものように洗い物がたっぷり積み上がっていて、ザックさんは忙しそうに調理していた。
「お邪魔します」
「アシュリーか、助かる」
さっそく洗い物を始める。洗い終えた皿は、重ならないように並べて風の魔法で水気を飛ばす。この一瞬では当然乾ききりはしないけど、布巾で拭く手間が減るので、食堂でもやってる。
「ザックさん」
「ん?」
「ジャガイモが大量にあるんです。おすすめの料理ありませんか?」
「ジャガイモなぁ」と呟いて、フライパンの大きく揺らし、肉を上下ひっくり返す。
「クロケットなんかどうだ?」
クロケット。それなら確かにジャガイモを沢山使う。
「ジャガイモだけで作るのが一般的だが、他にも入れてやると旨くなるぞ」
なるほど、と納得して頷く。
「あとは、そうだな。前にアシュリーからマヨネーズの作り方を教えてもらってから、思い付いたソースがある」
マヨネーズから思い付いたソース?
「茹でた卵を粗めに刻んで、同じように粗めに刻んでおいたタマネギをマヨネーズに混ぜる。濃厚な味になってなかなか良いぞ」
マヨネーズソースに茹で卵とタマネギの粗みじん切り……タマネギのシャキシャキした食感が美味しそう。黄身の味でマヨネーズはもっと味がはっきりしそうだけど、白身の甘さって言うか、あの食感は合う気がする。
「そのソースを使ったメニューはありますか?」
もし、もうメニューにあるなら、食べてみたい!
ザックさんは眉間に皺を寄せて、ため息を吐いた。
「ソースが濃い目だからな、のせる方はそんなに味の主張が無い奴が良いとは思うんだがなぁ、今のところピンとくるものがなくてな、メニューには入れてない。
白身の魚を焼いた奴にのせて食ってみたら、まぁそれなりの味にはなるんだがな、もうちょっと欲しい」
白身魚と、ソース……十分美味しそうだけど。
「そうか……クロケットのように、魚も揚げてみるかな」
「美味しそうです。揚げ物の油分が、ソースの酸っぱさで和らぎそうだし」
うん、良いな、やってみる、とザックさんは頷いた。
「メニューにのったら絶対に食べます」
「おぅ、味が浮かんできたからな、そう待たせないと思うぞ」
皿洗いがひと通り終わって、テーブルに戻ると、ラズロさんがテーブルに突っ伏して寝ていた。ノエルさんとクリフさんは静かにエールを飲んで、ラズロさんをそのまま寝かせてる。
ノエルさんの横に座って、ラズロさんを起こさないように小声で話しかける。
「寝ちゃったんですか?」
苦笑いを浮かべながら、ノエルさんが頷く。
「飲み溜めなんか、出来る訳ないのにね」
確かに、聞いたことないけど、眠るラズロさんの顔はしあわせそうだったから、まぁ良いのかな、と思った。
でも、明日は二日酔いになってそうだから、たまねぎスープを作ろうかな。
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