129 / 271
第二章 マレビト
032-2
しおりを挟む
ダンジョンから食堂に戻ったラズロさんとノエルさんは休憩している。僕はメルのミルクを鍋に移し入れて、弱火で煮始めた。僕のいた村では、牛のミルクは加熱する。
一見キレイに見えても、そうじゃないものが入ってることもあるからだと教えられた。
「アシュリーは偉いよね」
ミルクコーヒーを飲みながら、ノエルさんが言った。
「僕ですか?」
そう、とノエルさんは頷く。
「村でやっていた、良いとされる事をさ、今でもちゃんと守ってるでしょ? 面倒だからとやらなくなってもおかしくないのに、そうやってミルクも欠かさず消毒してる」
「火を通したミルクと、していないミルクだと、していないミルクの方がさらりとして美味しいんですけど、加熱したミルクの味に慣れてしまってるからか、どうも落ち着かないんです」
見えない何かが怖い、って言うのも大きい。
「アシュリーは結構潔癖なんじゃないかと、オレは思う訳よ」
ラズロさんがそう言うと、ノエルさんがすかさず「ラズロは杜撰なだけ」と指摘していた。
指摘されたラズロさんはうぐ、と呻いたかと思うと、別の話題を振った。
「そ、それはそうと、ノエル。アシュリーを守る手筈は整ってるんだよな?」
勿論、と答えてノエルさんは頷く。
「アシュリーに関係する人物は全員保護対象になってるからね、ラズロ、君もだよ」
「え」
固まるラズロさん。
「当然でしょう? アシュリーに一番多く接するのはラズロなんだから、ラズロがあっち側に捕まったり、取り込まれるのは致命的な事ぐらい、分かるよね?」
「そ、それはまぁ、そうだな?」
……全然考えてなかったんだ、ラズロさんってば……。
「だから、夜の外出も当面禁止だね」
「えぇっ?!」
ラズロさんが悲鳴をあげる。
「アシュリーの身を危険から守る為に協力してね、って言ったら、任せておけって言ってたよね?」
「それは、そうだけどさ、じゃ、じゃあ、いつまで?」
動揺しすぎてどもってます、ラズロさん……。
「さぁ?」
笑顔のノエルさんに、泣きそうなラズロさん。なんて対照的なんだろう……。
大丈夫なんだろうか……。
そんな僕の気持ちに気付いたのか、ノエルさんが僕を見た。
「アシュリーは気にしなくて大丈夫だよ。そもそもラズロはフラフラと遊び過ぎなんだよ。少しぐらい遊びを休んでも罰は当たらないよ」
とどめを刺されたラズロさんはテーブルに突っ伏した。
「最近、ようやくツキが回ってきてたのに……」
ラズロさんはノム、ウツ、カウと言われるものの、ノムとウツが好きなんだって前にノエルさんが教えてくれた。
「ごめんなさい、ラズロさん」
テーブルに突っ伏しながらラズロさんが首を横に振る。
「いいんだ……どうせオレなんて……」
賭け事が出来ないだけで自分を否定し始めてしまった……賭け事って、そんなに大事なの?
「宵鍋に行く時は皆で行こうか」
顔を上げたラズロさんは涙目だった。
「え」
「宵鍋に皆で行くのは別に構わないよ。僕もクリフも行けば大丈夫でしょう。城の警備は欠かさず騎士団や魔法師団から人を派遣しておけば良いんだし」
それに、と言ってノエルさんは僕を見る。
「本来なら子供のアシュリーを飲み屋に連れて行きたくはないけど、アシュリーの気分転換に宵鍋は良いみたいだから。宵鍋は特別に。ただ、僕とクリフが揃ってない時は駄目だよ?」
「はい、ノエルさん。ありがとうございます」
にっこりと微笑むノエルさん。
「さっそくだけど、明日の夜、行こうか」
「おう!」
ラズロさんは宵鍋に行けると分かって機嫌を回復したみたい。良かった。
僕も宵鍋は行きたい。美味しい料理に、ザックさんとのお話も楽しいし、フルールもおなかいっぱい食べられるから嬉しそうだし。
一見キレイに見えても、そうじゃないものが入ってることもあるからだと教えられた。
「アシュリーは偉いよね」
ミルクコーヒーを飲みながら、ノエルさんが言った。
「僕ですか?」
そう、とノエルさんは頷く。
「村でやっていた、良いとされる事をさ、今でもちゃんと守ってるでしょ? 面倒だからとやらなくなってもおかしくないのに、そうやってミルクも欠かさず消毒してる」
「火を通したミルクと、していないミルクだと、していないミルクの方がさらりとして美味しいんですけど、加熱したミルクの味に慣れてしまってるからか、どうも落ち着かないんです」
見えない何かが怖い、って言うのも大きい。
「アシュリーは結構潔癖なんじゃないかと、オレは思う訳よ」
ラズロさんがそう言うと、ノエルさんがすかさず「ラズロは杜撰なだけ」と指摘していた。
指摘されたラズロさんはうぐ、と呻いたかと思うと、別の話題を振った。
「そ、それはそうと、ノエル。アシュリーを守る手筈は整ってるんだよな?」
勿論、と答えてノエルさんは頷く。
「アシュリーに関係する人物は全員保護対象になってるからね、ラズロ、君もだよ」
「え」
固まるラズロさん。
「当然でしょう? アシュリーに一番多く接するのはラズロなんだから、ラズロがあっち側に捕まったり、取り込まれるのは致命的な事ぐらい、分かるよね?」
「そ、それはまぁ、そうだな?」
……全然考えてなかったんだ、ラズロさんってば……。
「だから、夜の外出も当面禁止だね」
「えぇっ?!」
ラズロさんが悲鳴をあげる。
「アシュリーの身を危険から守る為に協力してね、って言ったら、任せておけって言ってたよね?」
「それは、そうだけどさ、じゃ、じゃあ、いつまで?」
動揺しすぎてどもってます、ラズロさん……。
「さぁ?」
笑顔のノエルさんに、泣きそうなラズロさん。なんて対照的なんだろう……。
大丈夫なんだろうか……。
そんな僕の気持ちに気付いたのか、ノエルさんが僕を見た。
「アシュリーは気にしなくて大丈夫だよ。そもそもラズロはフラフラと遊び過ぎなんだよ。少しぐらい遊びを休んでも罰は当たらないよ」
とどめを刺されたラズロさんはテーブルに突っ伏した。
「最近、ようやくツキが回ってきてたのに……」
ラズロさんはノム、ウツ、カウと言われるものの、ノムとウツが好きなんだって前にノエルさんが教えてくれた。
「ごめんなさい、ラズロさん」
テーブルに突っ伏しながらラズロさんが首を横に振る。
「いいんだ……どうせオレなんて……」
賭け事が出来ないだけで自分を否定し始めてしまった……賭け事って、そんなに大事なの?
「宵鍋に行く時は皆で行こうか」
顔を上げたラズロさんは涙目だった。
「え」
「宵鍋に皆で行くのは別に構わないよ。僕もクリフも行けば大丈夫でしょう。城の警備は欠かさず騎士団や魔法師団から人を派遣しておけば良いんだし」
それに、と言ってノエルさんは僕を見る。
「本来なら子供のアシュリーを飲み屋に連れて行きたくはないけど、アシュリーの気分転換に宵鍋は良いみたいだから。宵鍋は特別に。ただ、僕とクリフが揃ってない時は駄目だよ?」
「はい、ノエルさん。ありがとうございます」
にっこりと微笑むノエルさん。
「さっそくだけど、明日の夜、行こうか」
「おう!」
ラズロさんは宵鍋に行けると分かって機嫌を回復したみたい。良かった。
僕も宵鍋は行きたい。美味しい料理に、ザックさんとのお話も楽しいし、フルールもおなかいっぱい食べられるから嬉しそうだし。
2
お気に入りに追加
348
あなたにおすすめの小説
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた
甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。
降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。
森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。
その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。
協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。
テイマーズライフ ~ダンジョン制覇が目的ではなく、ペットを育てるためだけに潜ってしまうテイマーさんの、苦しくも楽しい異世界生活~
はらくろ
ファンタジー
時は二十二世紀。沢山のユーザーに愛されていた、VRMMORPGファンタズマル・ワールズ・オンラインに、一人のディープなゲーマーさんがいた。そのゲーマーさんは、豊富な追体験ができるコンテンツには目もくれず、日々、ペットを育てることに没頭している。ある日突然ゲーマーさんは、ゲームに似た異世界へ転移してしまう。ゲーマーさんははたして、どうなってしまうのか?
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる