上 下
128 / 271
第二章 マレビト

032-1

しおりを挟む
 パフィが言った通り、誰かが入ろうとした跡が、ダンジョンの入り口に残ってた。
 寝る前にパフィに言われて、ラズロさんと砂を撒いておいた。足跡はないけど、僕とラズロさんは砂に絵を描いておいたんだけど、ぐちゃぐちゃになってた。

「一人ではなさそうだよなぁ」

「そうなんですか?」

「多分な」

 ダンジョン蜂の蜂ヤニを第一王子が毎日食べてる、ってことは隠してないし、蜂は集団だし、しかもそれが凶暴なダンジョン蜂って知っていたら、一人では来ないだろうから、ラズロさんの言葉には、そうだよね、と思う。

「アシュリーがダンジョンを作った時から始まってた、って言えば始まってたんだけど、こうしてあっちが動いてきたのが分かると、実感するな。本格的に始まったんだな、って事と、冗談じゃねえんだな、って事がさ」

 こうして目の前に、存在を感じさせるものがあると、嫌でも実感する。

「はい」

 ラズロさんの大きな手が僕の頭を撫でた。

「安心しろ。アシュリーを守るのはこの国の最強集団だ」

「はい」

 ダンジョンに入り、ジャッロの子供たちから蜂ヤニをもらった。
 伝わるかは分からなかったけど、一応ジャッロのいる巣に向かって数日後に誰かがやって来ると思う。襲って来たら遠慮なくやっつけて良いからね、と話した。
 ずっと気付いてなかったんだけど、ジャッロの子供たちには全員、テイムの印が付いていた。
 パフィに話したら気付いてなかったのか、って呆れられたけど……まさかジャッロの子供たちまでそうなるなんて知らなかった。

 急ごしらえで作った第二層に入る。第一層と同じものを作った。と言っても大きさは半分ぐらいだけど。そこにメルとコッコを移動させておいた。
 第一層と第二層をつなぐ階段は、僕しか通れないように、階段も見えないようにして、メルとコッコを守れるように。

 僕を見つけて、メルがモオォー、と鳴いた。その声に反応してコッコも姿を見せる。

「おはよう、メル、コッコ」

 メルとコッコの身体を撫でる。
 ダンジョンで暮らすようになってから、好きなだけ食べられるからなのか、メルとコッコの毛並みが良くなった気がする。

「ごめんね、引っ越しばっかりさせて」

 コッコに頭を軽く突かれた。

「落ち着いたら、好きに出入り出来るようにするから、少し我慢してね」

 おなかを撫でると、コッコがコッ、と返事をした。

 メルとコッコの身体をキレイにぬれた布で拭いて、ミルクをもらった。鶏は毎日卵を産む訳ではなくて、たまにお休みする。

「また明日ね」

 第一層に上がると、ラズロさんとノエルさんがジャッロの子供たちに囲まれていた。囲まれてって言うと襲われてるみたいだな。何て言うんだろ、見守られてる?

「ラズロさん、ノエルさん?」

 木の大きな箱を二人がかりで持ってる。笑顔のノエルさんと苦笑いを浮かべるラズロさん。

「こんにちは、アシュリー」

「おー、来たかー。襲われないって分かってるけど、アシュリーがいないからひやひやしたわ」

「どうしたんですか、その木の箱」

「トキア様がな、木の箱をダンジョンの中に置いて来いって言うから、運んで来たんだよ」

 トキア様が? なんだろう?

「蜂ヤニはもらえているけど、蜜の方はもらえていないでしょ? 巣を壊さないと蜜が取れないんじゃ困るから、もらえるようにする為のものを作らせていたんだよ」

 ノエルさんが説明して、ラズロさんに目配せをして持っていた大きな箱を下に置く。
 僕が入れそうなぐらいの、とても大きな箱。

 下ろされた箱に蓋はなくて、箱の中には仕切る為の板が四枚入ってた。

「ここがね、開くんだよ」

 箱の横に持ち手が付いていて、その持ち手をノエルさんは掴んで下に開いた。
 蓋もないし、横が開くし、不思議な箱。この箱があると蜂蜜がもらえて、巣を壊さなくて良いって言ってたけど。

「蜂にね、ここに差し込んでいる木の枠に蜜を入れてもらうんだよ。この四つの枠のうち、二つが埋まったら、横から引っ張って取り出すんだ」

 こんな風に、とノエルさんは言って枠を引っ張る。すると枠がキレイに外れた。

「ここに、新しい枠がはめられるようになっているの、分かる?」

 ノエルさんの指の先には、枠をはめる為の穴があった。

「はい」

「蜜が詰まった枠と、新しい枠を交換すれば、巣を壊さずに蜜がもらえるんだよ」

「へーーっ!」

 パフィが前に、蜜が溜まり過ぎると蜂も嫌になる、って言ってたから、これなら大丈夫なのかも知れない。

 箱を巣の近くに置いてダンジョンを出た。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...