上 下
127 / 271
第二章 マレビト

031-4

しおりを挟む
 ミルクコーヒーまで一気飲みして、リンさんは去って行った。リンさんの後ろ姿を見送りながら、ラズロさんがぽつりと呟いた。

「相変わらず、アイツは謎の勢いがあるなぁ」

 確かに、リンさんはいつも元気いっぱい。疲れてぐったりしてても、僕のぐったりとはちょっと違う気がする。

「とりあえず仕込みも終わったし、オレらも少し休憩しようぜ」

「はーい」

 ラズロさんが、リンさんのミルクコーヒーを入れる時に、僕のも一緒に作ってくれていたみたいで、ミルクコーヒーの入った器が目の前に差し出された。

「ありがとうございます」

 気が付けば器にコーヒーの粉が入ったものをフルールが両手で持っていた。いもの皮は食べ終えて、今度はコーヒーの粉なんだね。

「フルール、裏庭で休もう」

 ぴょこ、と耳を揺らすフルールを連れて、裏庭に出る。
 春も中頃で、咲いていた花の中には、種を飛ばし終えて、枯れたり萎れたりしてるものもある。
 そう言った花を摘んでいたら、フルールが器を差し出してきた。
 おかわりをあげるのに、フルールに器を出して、って何度か言っていたら、器を差し出すことを覚えたみたい。
 フルールって頭良いよね。あれかな、トキア様がくれた核が凄い奴だったからかな。
 摘んだばかりの枯れた花をフルールの器に入れる。嬉しそうに花をひくひくさせる。
 村では枯れ葉なんかを集めて堆肥にしていたけど、ここではそう言ったことをしないから、枯れ葉や枯れた花なんかはフルールのものになる。枯れ枝なんかは集めて城の貯蔵庫に持って行く。
 みんながみんな魔法を使える訳じゃないし、ずっと使い続けられる訳じゃないから、部屋を暖めるのは暖炉だし、もう片方の食堂では変わらずに薪で火をおこしてるって聞いてる。
 切り株に腰掛けてミルクコーヒーを飲む僕の横で、フルールがせっせとコーヒーの粉を口に運ぶ。三人分しかなかったから、あっという間に食べ終えたフルールは、裏庭を散策する。
 落ちた葉は枯れた花を手にしては持って来て、僕に食べて良いか確認をするものだから、立ち上がって庭を歩いて回って、フルールが食べられそうなものを拾っては、フルールの器に入れた。

『何をやっとるんだ、おまえたちは』

 呆れたような声がして、振り向くとマグロがいた。

「フルールのおやつ探し」

『見れば分かる』

 そうだろうけど、他に答えようがないです。

『第一王子が、ベッドから出たぞ』

「本当?! 凄いね、もう歩いたりしてるの?」

『騎士が王弟の命を受けて明日から第一王子の散歩に付き合う事になった』

 クリフさんがいれば、安全だろうし、王子が転けそうになってもすぐに助けてくれそうだから、安心だね。

『魔法使いの長が、魔力のこもった杖をあらかじめ作っていたからな、それを手にしながら歩くだろう。
奴らは本格的に動かざるをえんだろうなぁ』

 そう言ってパフィがくっくっ、と笑う。なんだか悪者みたいだけど。

「じゃあ……ダンジョンに侵入しようとしてくる、ってことだよね?」

『そうだ。三日ほど普通に侵入しようとするだろう。それから、別の手段でダンジョンに入ろうとする筈だ。そうなったら、ダンジョンに奴らの手先が入れるようにしてやろう。後はジャッロ達が何とかする』

 パフィはそう言うけど、ジャッロたちに危害を加えられるのは嫌だし、ダンジョンの中にはメルとコッコもいる。
 そのことについてパフィに尋ねる。

『確かにな。明日にでも第二層を作っておくか。当面は第一層と同じようにしておけば、メルもコッコも困らんだろう』

「ジャッロたちは……」

『問題ない。前にも話したが、ダンジョン蜂はとても凶暴だ。巣には百を優に超える働き蜂がいる事だろうし、あの大きさが何百匹と襲う。無事では済むまいよ。
おまえが心配しているのは、ジャッロ達の事だろうが、どれぐらい被害が出るかは正直分からん。そこに関しては諦めろ。罠を仕掛ける事は可能だが、それでは奴等が諦めん』

 ジャッロたちが可哀想だと僕が言ったとして、そうなったらあの人たちが僕を狙うようになるだけ。

「もっと穏便に第二王子たちに諦めさせることは出来ないの?」

 呆れたように半目になるマグロ。

『今やってる事がもっとも穏便だろうに。病弱だから自分達が成り代われるのではと言う野望を、分かりやすく挫いてやってるだろう。第一王子は健全な身体を取り戻そうとしているし、元々後見となっている二人は有力者だ。そこに魔女がついた。それだけでも頭があるなら、諦めるに充分だ』

 ……そうなんだよね。
 それでも諦められないのは、手に入ると思ってしまったから、なんだろうなぁ……。

「仕方がないんだろうけど、どちらにもあんまり被害が出ないと良いなって思う」

『おまえだけでも、そう祈ってやると良い』

「うん……」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

処理中です...