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第二章 マレビト

027-4

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 王子様に、何を作ったら良いのか分からない。
 きっと毎日同じ美味しいものを食べているんだろうし、僕の料理を食べても……。

 ぺし、とマグロのしっぽが頭を叩いてきた。

『味ではなく、身体の為だ』

 あ、そうだった。
 毒をもられないように、だよね。

「ごめん、パフィ。
第一王子は身体が弱ってるんだよね? その……良くない物を食事に入れられてしまって……」

『そのようだな』

「じゃあ、最初はおなかに優しいものにしてみる」

『そうしてやるがいい』

「うん」



 厨房に入った僕を待っていたのは、トキア様とノエルさんだった。

「アシュリー、色々と、ごめんね」

「大丈夫です」

 トキア様が紙を僕に差し出した。
 そこには料理名が書かれていた。

「殿下がここ一週間で口になさったものだ。不要かも知れんが、一応入手した」

 紙に書かれた料理名を見ていて、僕にはまだ分からないものは、僕でも分かるように書き直してくれたんだろうと言う事が分かる。トキア様の優しさに胸が温かくなる。

「あの……トキア様」

「なんだ?」

「その……僕が王子様……殿下の料理を作る事になって、元々作ってた方達は、大丈夫なんでしょうか?」

 自分の仕事を奪われてしまう訳だし、毒を入れていたのも、全員ではないだろうと思うし。

「例の件に関与していたと思われる者に関しては、全て対処してある。案ずるな。
殿下以外の食事は引き続き彼らが作る事になっている。なんら問題ない」

 ぽんぽん、と頭を叩かれた。

 そっか、良かった。
 関係ない人まで怒られたりしたら、可哀想だし、仕事を奪われてしまったら悲しいから。

「良かったです。
えっと、これが殿下に食べていただこうと思う料理なんですけど、味見をしてもらえますか?」

 身体が弱ってる殿下に食べてもらうように、僕が作ったのは、とろみのある、弱った身体でも食べやすいスープ。
 カブを刻んでから、風魔法で液体に近いぐらいまで細かくしたものを、湯の中に塩、コショウと一緒に入れて煮立たせる。そこにコッコの卵を溶きほぐしておいたものを回し入れて、ふわふわにする。

 二人の前に出したら、マグロにしっぽでぺしっと叩かれたので、マグロにも出す。使い魔って、コショウ大丈夫なのかな?

「身体が、温まるな。味も濃すぎず、殿下のお好きな味だと思う」

 スープを口にしたトキア様が息を吐く。

「癒される味ですね」とノエルさんが頷きながら言った。

「あ、スープだけだと足りないかも知れないので、このパンもなんです」

 すっかり出すのを忘れてた。

「平パンだ」

「はい。表面に塩とハーブが散らばっているので、これだけでも味があります」

 膨らんだ生地を平らに伸ばして、あちこちに指で穴を開けて、その穴にオイルを注いでおく。
 塩と、ハーブをのせて石窯で焼いたものを、ふた口ぐらいで食べ切るように切る。
 これなら、スープの合間にも食べられるし、切ってあるから、少量でも口にしてもらえるかなと思って。

「平パンだけど、ふかふかで、塩味もあって、オイルの風味と、この、草?の香りも良いね」

『ハーブだ』

 そう言ってマグロはもくもくと平パンを食べる。

 薬としてよく使われるハーブを料理に入れるとしても、大体が臭み消しとして。
 この平パンにまぶしたハーブは、悪いものを予防すると言われているもので、村ではよく使っていた、
 王都だと使う人があまりいないのか、売ってるのを見かけない。

「これは、殺菌効果のあるハーブか……美味いな」

 トキア様の反応が殿下に近いのかな、と思う。だからトキア様に美味しいと言ってもらえると嬉しい。

「料理を殿下の元へ運んでくる」

 トキア様はノエルさんの方を向いた。ノエルさんが頷く。
 ワゴン──初めて見たんだけど、台に車輪がついているもの──に料理をのせて、トキア様は食堂を出て行った。

「とても優しい味で、美味しかったよ、アシュリー」

「良かったです。味は二の次で安全なものを、と思ってますけど、やっぱり美味しいと思ってもらいたいです」

 ノエルさんがにこっと笑った。

「アシュリー、時間の余裕がないからね、明日、ナインの指示の元、ダンジョンを作ってもらうね」

「はい」

 ノエルさんはパフィの方を向いて頭を下げた。

「パシュパフィッツェ様、よろしくお願い致します」

『うむ』

 いよいよ、明日、ダンジョンを作る。
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