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第二章 マレビト

025-1

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 ナインさんの記憶に関する検査は、今の所問題ないと言うことになったみたい。
 絶対と言い切れないのが何とも言えない気持ちになるけど、当の本人のナインさんが気にしていないんだから、良いのかな、って。

「思い出してから、何年も経つ。だから、平気」

 ナインさんは全然気にしてないみたい。

「アシュリー、ダンジョンメーカーのスキル、使うの禁止されてる?」

「禁止してはいないよ」と、ノエルさんが否定した。僕も頷く。

「使い方が分からないんです。でも、このままでも良いかな、って思ってます」

 どう使ったら良いのかも分からないけど、どんな使い方があるのか、思い付かないし。
 使えなくても他のスキルで十分快適な生活を送れているから、必要も感じないんだけどね。

 ナインさんがノエルさんを見る。

「教えたら、ノエルさん、怒る?」

 困った顔をするノエルさんと、ノエルさんをまっすぐに見返すナインさん。

「うーん……使い方が決まらない事には、許可しづらいのが正直な所なんだよね」

「アシュリー、魔力少ない。作れても、四つの層が限界と思う」

「四つも層を作れるんですか?」

 自分で思っていたよりも多くてびっくりした。

「ナインはアシュリーにスキルを使わせたいの?」

 ノエルさんの質問にナインさんが頷いた。
 どうして使わせたいんだろう?

「ダンジョン、作った人間の好きなように出来る。もっと動物をテイムして、そこで育てたり出来る」

 ノエルさんは難しい顔をする。

「スキルで作ったダンジョンの特性とか、つまり何が可能なのかが知りたい。知らない事には危険度も分からない」

 オイオイ、とラズロさんが止めに入る。

「アシュリーにそのスキルを使わせない為に保護したんじゃねぇのか?」

 ノエルさんは頷いた。

「それは勿論だよ。でも、このスキルに関しては情報が少な過ぎるんだ。ナインの前世であるクロウリーの使用方法が極端な方向だった為に危険視されているけれど、別の利用方法があるのではないかとはずっと言われてきた」

 チッ、とラズロさんが舌打ちする。

「これだから研究馬鹿は嫌いなんだよ。そう言ってこれまでだって散々痛い目にあってきたのは、オレたちのような普通の人間だ。これで何かあった時、アシュリーに責任押し付けて、何かしようとしたら絶対に許さねえぞ?」

 いつものラズロさんからは想像もつかない低い声、強い口調にびっくりして、何も言えないでいると、ノエルさんも強い口調で言い返した。

「そんなのは分かってる。ただ、今のままじゃ、アシュリーはずっとここに閉じ込められたままになるんだよ?
アシュリーは何も悪くないし、悪い事に使う筈がないって分かってるのに!」

「ノエル、おまえ……」

「ナインの事だってそうだ。皆、危険視ばかりする。この二人が何をしたの? 何もしてない。何かしてからじゃ遅いと言って閉じ込めて、その方が二人の心を傷付けて、むしろ危険な方向に向かわせる可能性だってある。
僕の魔法の力だってそうだ。どんな力も使う者の心次第なんだよ。正しく導くのが、大人のすべき事だ」

 ラズロさんは息を吐くと、「悪かった」と言った。

「……ノエルさん」

 ナインさんがノエルさんのローブを掴んで引っ張る。

「平気。ノエルさん達、ちゃんと考えてくれてる、知ってる」

 ナインさんの頭を、ノエルさんが撫でる。

 ノエルさんは、僕を村から王都に連れて来た事、そんな風に思ってくれていたんだな。

「ありがとうございます、ノエルさん」

「アシュリー」

 ノエルさんの赤い目が、いつもと違って不安そうというか、泣きそうと言うか。
 上手く言えないんだけど、なんだか嬉しいのに、涙が出てきそうだった。

「村を出る事になって、家族と離れ離れになった事は寂しいですけど、良い事もありました。だから、大丈夫です」

 僕の名前を呼んだノエルさんに、抱き締められた。

「守るから、アシュリーが好きな場所に暮らせるように、好きな場所に行けるように、絶対に方法を見つけ出すからね」

「ナイン、手伝う。クロウリーの記憶、アシュリーの役に立つ」

「ありがとうございます」

 村に帰りたいからじゃなくて、僕の事をそこまで考えてくれている人が存在する事が嬉しくて、泣いてしまった。
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