98 / 271
第二章 マレビト
025-1
しおりを挟む
ナインさんの記憶に関する検査は、今の所問題ないと言うことになったみたい。
絶対と言い切れないのが何とも言えない気持ちになるけど、当の本人のナインさんが気にしていないんだから、良いのかな、って。
「思い出してから、何年も経つ。だから、平気」
ナインさんは全然気にしてないみたい。
「アシュリー、ダンジョンメーカーのスキル、使うの禁止されてる?」
「禁止してはいないよ」と、ノエルさんが否定した。僕も頷く。
「使い方が分からないんです。でも、このままでも良いかな、って思ってます」
どう使ったら良いのかも分からないけど、どんな使い方があるのか、思い付かないし。
使えなくても他のスキルで十分快適な生活を送れているから、必要も感じないんだけどね。
ナインさんがノエルさんを見る。
「教えたら、ノエルさん、怒る?」
困った顔をするノエルさんと、ノエルさんをまっすぐに見返すナインさん。
「うーん……使い方が決まらない事には、許可しづらいのが正直な所なんだよね」
「アシュリー、魔力少ない。作れても、四つの層が限界と思う」
「四つも層を作れるんですか?」
自分で思っていたよりも多くてびっくりした。
「ナインはアシュリーにスキルを使わせたいの?」
ノエルさんの質問にナインさんが頷いた。
どうして使わせたいんだろう?
「ダンジョン、作った人間の好きなように出来る。もっと動物をテイムして、そこで育てたり出来る」
ノエルさんは難しい顔をする。
「スキルで作ったダンジョンの特性とか、つまり何が可能なのかが知りたい。知らない事には危険度も分からない」
オイオイ、とラズロさんが止めに入る。
「アシュリーにそのスキルを使わせない為に保護したんじゃねぇのか?」
ノエルさんは頷いた。
「それは勿論だよ。でも、このスキルに関しては情報が少な過ぎるんだ。ナインの前世であるクロウリーの使用方法が極端な方向だった為に危険視されているけれど、別の利用方法があるのではないかとはずっと言われてきた」
チッ、とラズロさんが舌打ちする。
「これだから研究馬鹿は嫌いなんだよ。そう言ってこれまでだって散々痛い目にあってきたのは、オレたちのような普通の人間だ。これで何かあった時、アシュリーに責任押し付けて、何かしようとしたら絶対に許さねえぞ?」
いつものラズロさんからは想像もつかない低い声、強い口調にびっくりして、何も言えないでいると、ノエルさんも強い口調で言い返した。
「そんなのは分かってる。ただ、今のままじゃ、アシュリーはずっとここに閉じ込められたままになるんだよ?
アシュリーは何も悪くないし、悪い事に使う筈がないって分かってるのに!」
「ノエル、おまえ……」
「ナインの事だってそうだ。皆、危険視ばかりする。この二人が何をしたの? 何もしてない。何かしてからじゃ遅いと言って閉じ込めて、その方が二人の心を傷付けて、むしろ危険な方向に向かわせる可能性だってある。
僕の魔法の力だってそうだ。どんな力も使う者の心次第なんだよ。正しく導くのが、大人のすべき事だ」
ラズロさんは息を吐くと、「悪かった」と言った。
「……ノエルさん」
ナインさんがノエルさんのローブを掴んで引っ張る。
「平気。ノエルさん達、ちゃんと考えてくれてる、知ってる」
ナインさんの頭を、ノエルさんが撫でる。
ノエルさんは、僕を村から王都に連れて来た事、そんな風に思ってくれていたんだな。
「ありがとうございます、ノエルさん」
「アシュリー」
ノエルさんの赤い目が、いつもと違って不安そうというか、泣きそうと言うか。
上手く言えないんだけど、なんだか嬉しいのに、涙が出てきそうだった。
「村を出る事になって、家族と離れ離れになった事は寂しいですけど、良い事もありました。だから、大丈夫です」
僕の名前を呼んだノエルさんに、抱き締められた。
「守るから、アシュリーが好きな場所に暮らせるように、好きな場所に行けるように、絶対に方法を見つけ出すからね」
「ナイン、手伝う。クロウリーの記憶、アシュリーの役に立つ」
「ありがとうございます」
村に帰りたいからじゃなくて、僕の事をそこまで考えてくれている人が存在する事が嬉しくて、泣いてしまった。
絶対と言い切れないのが何とも言えない気持ちになるけど、当の本人のナインさんが気にしていないんだから、良いのかな、って。
「思い出してから、何年も経つ。だから、平気」
ナインさんは全然気にしてないみたい。
「アシュリー、ダンジョンメーカーのスキル、使うの禁止されてる?」
「禁止してはいないよ」と、ノエルさんが否定した。僕も頷く。
「使い方が分からないんです。でも、このままでも良いかな、って思ってます」
どう使ったら良いのかも分からないけど、どんな使い方があるのか、思い付かないし。
使えなくても他のスキルで十分快適な生活を送れているから、必要も感じないんだけどね。
ナインさんがノエルさんを見る。
「教えたら、ノエルさん、怒る?」
困った顔をするノエルさんと、ノエルさんをまっすぐに見返すナインさん。
「うーん……使い方が決まらない事には、許可しづらいのが正直な所なんだよね」
「アシュリー、魔力少ない。作れても、四つの層が限界と思う」
「四つも層を作れるんですか?」
自分で思っていたよりも多くてびっくりした。
「ナインはアシュリーにスキルを使わせたいの?」
ノエルさんの質問にナインさんが頷いた。
どうして使わせたいんだろう?
「ダンジョン、作った人間の好きなように出来る。もっと動物をテイムして、そこで育てたり出来る」
ノエルさんは難しい顔をする。
「スキルで作ったダンジョンの特性とか、つまり何が可能なのかが知りたい。知らない事には危険度も分からない」
オイオイ、とラズロさんが止めに入る。
「アシュリーにそのスキルを使わせない為に保護したんじゃねぇのか?」
ノエルさんは頷いた。
「それは勿論だよ。でも、このスキルに関しては情報が少な過ぎるんだ。ナインの前世であるクロウリーの使用方法が極端な方向だった為に危険視されているけれど、別の利用方法があるのではないかとはずっと言われてきた」
チッ、とラズロさんが舌打ちする。
「これだから研究馬鹿は嫌いなんだよ。そう言ってこれまでだって散々痛い目にあってきたのは、オレたちのような普通の人間だ。これで何かあった時、アシュリーに責任押し付けて、何かしようとしたら絶対に許さねえぞ?」
いつものラズロさんからは想像もつかない低い声、強い口調にびっくりして、何も言えないでいると、ノエルさんも強い口調で言い返した。
「そんなのは分かってる。ただ、今のままじゃ、アシュリーはずっとここに閉じ込められたままになるんだよ?
アシュリーは何も悪くないし、悪い事に使う筈がないって分かってるのに!」
「ノエル、おまえ……」
「ナインの事だってそうだ。皆、危険視ばかりする。この二人が何をしたの? 何もしてない。何かしてからじゃ遅いと言って閉じ込めて、その方が二人の心を傷付けて、むしろ危険な方向に向かわせる可能性だってある。
僕の魔法の力だってそうだ。どんな力も使う者の心次第なんだよ。正しく導くのが、大人のすべき事だ」
ラズロさんは息を吐くと、「悪かった」と言った。
「……ノエルさん」
ナインさんがノエルさんのローブを掴んで引っ張る。
「平気。ノエルさん達、ちゃんと考えてくれてる、知ってる」
ナインさんの頭を、ノエルさんが撫でる。
ノエルさんは、僕を村から王都に連れて来た事、そんな風に思ってくれていたんだな。
「ありがとうございます、ノエルさん」
「アシュリー」
ノエルさんの赤い目が、いつもと違って不安そうというか、泣きそうと言うか。
上手く言えないんだけど、なんだか嬉しいのに、涙が出てきそうだった。
「村を出る事になって、家族と離れ離れになった事は寂しいですけど、良い事もありました。だから、大丈夫です」
僕の名前を呼んだノエルさんに、抱き締められた。
「守るから、アシュリーが好きな場所に暮らせるように、好きな場所に行けるように、絶対に方法を見つけ出すからね」
「ナイン、手伝う。クロウリーの記憶、アシュリーの役に立つ」
「ありがとうございます」
村に帰りたいからじゃなくて、僕の事をそこまで考えてくれている人が存在する事が嬉しくて、泣いてしまった。
2
お気に入りに追加
348
あなたにおすすめの小説
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
テイマーズライフ ~ダンジョン制覇が目的ではなく、ペットを育てるためだけに潜ってしまうテイマーさんの、苦しくも楽しい異世界生活~
はらくろ
ファンタジー
時は二十二世紀。沢山のユーザーに愛されていた、VRMMORPGファンタズマル・ワールズ・オンラインに、一人のディープなゲーマーさんがいた。そのゲーマーさんは、豊富な追体験ができるコンテンツには目もくれず、日々、ペットを育てることに没頭している。ある日突然ゲーマーさんは、ゲームに似た異世界へ転移してしまう。ゲーマーさんははたして、どうなってしまうのか?
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる