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第一章 新しい生活の始まり

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 僕たちが宵鍋にいる間、ずっとフルールは食べていた。何皿分食べたんだろう、って言うぐらい。
 驚いたのは、フルールが食べても食べても出てくることで、これ、全部廃棄になったら、売上もあるだろうけど、廃棄そのものにもお金がかかるだろうな、ってことだった。
 会計の時に、ザックさんが、要らないから明日も来てくれ、と言った。廃棄のお金の方が、僕たちが食べた分を上回る筈はないと思いたい。
 ラズロさんは苦笑いして、じゃあ、アシュリーの分だけ頼むわ、と言って支払いをしていた。良いのかな、と思っていたら、ザックさんに頭をポンポンと叩かれた。
 エスナさんと別れて城に向かう途中、ラズロさんに謝った。

「ごめんなさい、ラズロさん。明日も宵鍋に行くことになると、お金がかかってしまうと思うので、僕も払います」

 ラズロさんも僕の頭をぽんぽん、と軽く叩いた。

「何も一生タダって事じゃねぇんだから、気にすんな。アシュリーはアシュリーに出来る事で返してんだし」

 僕がと言うより、フルールが、だけど。

「じゃあ、僕、粒マスタードを明日ザックさんにお裾分けしようと思います」

「えっ!」

 ラズロさんが固まる。

「……他のにしない?」

 ラズロさんは粒マスタードが凄い好きだから、城の粒マスタードが減るのが嫌なのか。

「他のものですか? うーん……じゃあ、マヨネーズでしょうか?」

 コッコの産んだ卵で作れば、新鮮だし、美味しいし。
 あれなら喜んでもらえるかなぁ、と思う。

「それにしよう、なっ!」

 ラズロさんの変わり身の早さに、思わず笑ってしまった。

「ラズロさんは、本当に粒マスタードが好きですね」

「いや、だってあれ、美味いだろ!」






 ノエルさんとクリフさんに会えるのは当分先だろうと思っていたら、王都に戻ってから二週間程で食堂にノエルさんもクリフさんも来てくれた。

「アシュリー!」

 食堂に来るなり、箒で床の掃除をしていた僕をノエルさんが抱きしめた。衝撃でむせてしまうかと思った。

「久しぶり! ただいま!」

「おかえりなさい、ノエルさん」

 ノエルさんの後ろに立って苦笑いを浮かべてるクリフさんにも声をかける。

「おかえりなさい、クリフさん」

「戻った」

「感動の再会の所、大変申し訳ないんだが、コーヒーで良いか?」

 厨房に立つラズロさんが笑いながら言う。

「勿論」

 掃除はまた後でやろう。
 ノエルさんに手を掴まれて椅子に座らされた僕は、そう思った。

 コーヒーの良い香りがしてくる。

「アシュリー、メルのミルクもらうぞー」

「はーい」

「あ! ラズロ! 僕のにも入れて!」

 ノエルさんの言葉にラズロさんがおや?という顔をする。いつもコーヒーには何も入れないノエルさんが、ミルクを入れるなんて珍しい。

「色々辛かったけど、食事が貧相なのが辛かったんだよ。今の僕の身体は栄養が枯渇しているから、毎食アシュリーのご飯が食べたい」

「オレも食べに来る」とクリフさんも言ってくれた。

 そんな風に思ってもらえるなんて、嬉しいな。

「はい、いっぱい食べて下さいね」

 なんだか色々作りたくなって来てしまうよね。

「スオウの花見にアシュリーを連れて行きたいんだけどさ、おまえら、いつ頃落ち着くの?」

 そうだなぁ、と、ノエルさんは目を閉じて何か考えている。

「一週間後でどう? 僕も花見に行きたいから、それまでには終わらせる」

「よっしゃ、決まりな」

 クリフさんも頷いた。
 どうやらみんな、スオウの花見が好きみたい。
 ノエルさんもクリフさんも好きだって言うし、更に楽しみになってきた。
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