70 / 271
第一章 新しい生活の始まり
018-4
しおりを挟む
中に入ると、すごい熱気だった。
あちこちで何かを焼いている音がして、匂いが混じっている。でも不思議と嫌な匂いじゃない。むしろ良い匂いでおなかが刺激される。
しかも人がいっぱいいる! 外は全然人通りがないのに。
お店はギルド内の壁を背にするようにして並んでいて、真ん中にはいくつもの席が用意されている。もしかして、座って食べれるようにかな?
あちこちからワハハハハハ、という笑い声がする。楽しそうな雰囲気と室内の暖かさと良い匂いに、僕のおなかがぐぅ、と鳴った。
「準備万端だな!」
ラズロさんが笑った。ちょっと恥ずかしい。
顔の広いラズロさんと歩いていると、あちこちから声をかけられる。
「おぅ、ラズロ。肉どうだ、肉」
「美味そうだな、二つくれ」
「まいどっ」
店員さんが串に刺さった肉をラズロさんに渡した。1本をもらう。
「アシュリーは直ぐに腹がいっぱいになっちまうからな、半分食ったら残りはフルールにくれてやれ」
それは、と思ったけど、フルールが鼻をひくひくさせて見上げているのを見たら、反対出来なかった。ラズロさんの大きな手が僕の頭をぽんぽん、と軽く叩く。
「色んな美味いモンを食うのも、料理人には大事だぞ。さ、熱いうちに食え」
「はい、ラズロさん」
串に刺さった肉に噛り付く。口の中に肉汁が広がる。柔らかい肉を二つ食べたところでフルールに渡す。もっと食べたいけど、最初から沢山食べると、ラズロさんが言うようにすぐおなかがいっぱいになっちゃうから、我慢。
いつものようにフルールは串ごとポリポリと食べ始め、肉を頬張る。草食のウサギが肉を食べてるのはちょっと不思議な感じ。フルールの頰が肉で膨れて、可愛い。
ペロリと平らげたフルールにラズロさんが自分の食べ終えた串を渡すと、それも美味しそうな音をさせて食べる。
「美味そうに食うから、食べ終えた串を渡してんのに、良い事をした気持ちになるよな」
ラズロさんの言葉に笑ってしまうけど、フルールを見てると本当そう思う。
「肉を食ったから、次は違うもんが良いな」
お店を見回すラズロさん。
「次はアレだ」
見たことのない食べ物を器によそってる。細長い糸みたいなのが沢山。
「アシュリーは麺は初めてか?」
「メン?」
「サキナ国ではよく食べられているものなんだがな、粉をまとめて細長く切ったものだ。乾燥させれば保存も効く。具も沢山必要としないからな、冬でもこうして食えるし、汁があるから温まるしな、冬に人気の料理だ」
そう言ってラズロさんは二つ頼んでくれた。
渡されたのは木の器に入った料理と、フォーク。
「これはフルールには食わせにくいかもな。器は返却するから」
確かに毎回木の器を捨てるのは無駄だもんね。
ちょうど空いた椅子に腰かけ、ラズロさんに倣って食べ始める。
フォークで持ち上げようとすると、つるりと滑って器の中に落ちてしまう。
上手く持ち上げられない僕を見てラズロさんが笑う。
「こうやんだよ、アシュリー」
ラズロさんはフォークをメンに刺し、くるくると器の中で回転させた。持ち上げたフォークにはメンが絡まっていた。
なるほど、あぁやるのか。
同じようにフォークを何度か回転させるうちに、メンをフォークに絡ませることが出来て、口に入れられた。
つるんとして、沢山かまなくても飲み込めた。
メンに味がしみてるのか、美味しい。
「汁も美味いぞ」
スープをひと口飲む。透明なのに、魚の味がした。しかも魚の臭みもしない。凄い!
魚のスープなんて初めて飲んだ!
「とっても美味しいです!」
「メンは他にも色々あるんだってよ。ここじゃこの味が一般的だけどな」
「へぇーっ!」
メンをじっと見る。
これ、僕も作れるかな?
「いつかな」
僕の考えてることが分かったみたいで、ラズロさんは頭を撫でてくれた。
あちこちで何かを焼いている音がして、匂いが混じっている。でも不思議と嫌な匂いじゃない。むしろ良い匂いでおなかが刺激される。
しかも人がいっぱいいる! 外は全然人通りがないのに。
お店はギルド内の壁を背にするようにして並んでいて、真ん中にはいくつもの席が用意されている。もしかして、座って食べれるようにかな?
あちこちからワハハハハハ、という笑い声がする。楽しそうな雰囲気と室内の暖かさと良い匂いに、僕のおなかがぐぅ、と鳴った。
「準備万端だな!」
ラズロさんが笑った。ちょっと恥ずかしい。
顔の広いラズロさんと歩いていると、あちこちから声をかけられる。
「おぅ、ラズロ。肉どうだ、肉」
「美味そうだな、二つくれ」
「まいどっ」
店員さんが串に刺さった肉をラズロさんに渡した。1本をもらう。
「アシュリーは直ぐに腹がいっぱいになっちまうからな、半分食ったら残りはフルールにくれてやれ」
それは、と思ったけど、フルールが鼻をひくひくさせて見上げているのを見たら、反対出来なかった。ラズロさんの大きな手が僕の頭をぽんぽん、と軽く叩く。
「色んな美味いモンを食うのも、料理人には大事だぞ。さ、熱いうちに食え」
「はい、ラズロさん」
串に刺さった肉に噛り付く。口の中に肉汁が広がる。柔らかい肉を二つ食べたところでフルールに渡す。もっと食べたいけど、最初から沢山食べると、ラズロさんが言うようにすぐおなかがいっぱいになっちゃうから、我慢。
いつものようにフルールは串ごとポリポリと食べ始め、肉を頬張る。草食のウサギが肉を食べてるのはちょっと不思議な感じ。フルールの頰が肉で膨れて、可愛い。
ペロリと平らげたフルールにラズロさんが自分の食べ終えた串を渡すと、それも美味しそうな音をさせて食べる。
「美味そうに食うから、食べ終えた串を渡してんのに、良い事をした気持ちになるよな」
ラズロさんの言葉に笑ってしまうけど、フルールを見てると本当そう思う。
「肉を食ったから、次は違うもんが良いな」
お店を見回すラズロさん。
「次はアレだ」
見たことのない食べ物を器によそってる。細長い糸みたいなのが沢山。
「アシュリーは麺は初めてか?」
「メン?」
「サキナ国ではよく食べられているものなんだがな、粉をまとめて細長く切ったものだ。乾燥させれば保存も効く。具も沢山必要としないからな、冬でもこうして食えるし、汁があるから温まるしな、冬に人気の料理だ」
そう言ってラズロさんは二つ頼んでくれた。
渡されたのは木の器に入った料理と、フォーク。
「これはフルールには食わせにくいかもな。器は返却するから」
確かに毎回木の器を捨てるのは無駄だもんね。
ちょうど空いた椅子に腰かけ、ラズロさんに倣って食べ始める。
フォークで持ち上げようとすると、つるりと滑って器の中に落ちてしまう。
上手く持ち上げられない僕を見てラズロさんが笑う。
「こうやんだよ、アシュリー」
ラズロさんはフォークをメンに刺し、くるくると器の中で回転させた。持ち上げたフォークにはメンが絡まっていた。
なるほど、あぁやるのか。
同じようにフォークを何度か回転させるうちに、メンをフォークに絡ませることが出来て、口に入れられた。
つるんとして、沢山かまなくても飲み込めた。
メンに味がしみてるのか、美味しい。
「汁も美味いぞ」
スープをひと口飲む。透明なのに、魚の味がした。しかも魚の臭みもしない。凄い!
魚のスープなんて初めて飲んだ!
「とっても美味しいです!」
「メンは他にも色々あるんだってよ。ここじゃこの味が一般的だけどな」
「へぇーっ!」
メンをじっと見る。
これ、僕も作れるかな?
「いつかな」
僕の考えてることが分かったみたいで、ラズロさんは頭を撫でてくれた。
2
お気に入りに追加
350
あなたにおすすめの小説
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」
学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。
家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。
しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。
これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。
「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」
王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。
どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。
こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。
一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。
なろう・カクヨムにも投稿
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる