上 下
66 / 271
第一章 新しい生活の始まり

017-4

しおりを挟む
 冬も半ばに入ると、クリフさんはほぼ城にいなかった。
 ノエルさんもいない事が増えた。城にいるけど忙しくて食べる暇がない、とかじゃなく。
 これまで準備していたものを使う時が来たと言うか、遂に来たのか、僕には初めての事ばかりで分からないけど。

「皆さん、大変そうですね」

「それが仕事とは言え、今年はハズレ年だな」

 ちゃんと寝れてるのかな、食べるものはあるのかな、怪我とかしないといいな。

「あの二人は大丈夫だ」

 僕の心配を見透かしたのか、ラズロさんは言って、頭を撫でてくれた。ほっとする。

 ノエルさん達が帰って来たら、メルのミルクを使った栄養たっぷりの食事を食べてもらいたいなぁ。

 「なぁ、昼さ、粒マスタードをソーセージに付けた奴にしようぜ」

 ラズロさんはすっかり粒マスタードが気に入ったようで、来年も作るんだと意気込んでいる。
 ソーセージに粒マスタードを付けて、ではなくて、粒マスタードをソーセージに付けて、と口にするぐらい、気に入ってくれている。
 今日は久々に宵鍋に行くから、ザックさんの感想も聞いてみたい。ザックさんの料理はとても美味しい。粒マスタードを使った新しい料理も生まれているかも知れない。

「そうですね。それならパニーノにもしやすいし、良いですね」

 まだ冬も半ば。
 寒さそのものはピークに達しているけど、これからが問題だとラズロさんは言う。
 春が近づけば山が芽吹いて、動物も魔物もそちらに向かうけど、山そのものに何もないこれからしばらくの間が大変になる。
 村にいた時も山から降りて来た魔物が襲って来た事があった。僕たちの村は魔女がいてくれたから無事だったけど、全ての村が守られている訳じゃないし、助けを求めても直ぐには増援は来ない。
 難しい問題だよね。

「アシュリーもだいぶ読み書きが出来るようになってきたなぁ」

 トキア様をはじめとして、色んな人が教えてくれて、読みやすい本を貸してくれた。
 本には種類があって、分からないことを教えてくれるもの、書いてる人の日記だったり、何処かに行った時の記録だったり、全部が空想のものもある。
 子供向けの本ならそんなに時間もかけずに読めるようになってきたし、字も力を入れ過ぎずに書けるようになってきた。
 トキア様から、何も書いてない真っ白い本を渡されて、これに日記を書きなさいと言われた。書く程の出来事はぼくにはないです、と断ったんだけど、日記は己の心と向き合う為にも必要なものだと言われた。
 自分の心に向き合う?
 意味はよく分からなかったけど、トキア様がここまでおっしゃるんだから、いつか必要になるのかも知れない。
 そう思って日記を書き始めた。でも、あんまり書く事がなくて、2~3行で終わってしまう。慣れてきたら、スラスラと沢山書けるようになるのかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

料理を作って異世界改革

高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」 目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。 「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」 記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。 いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか? まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。 そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。 善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。 神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。 しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。 現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

テイマーズライフ ~ダンジョン制覇が目的ではなく、ペットを育てるためだけに潜ってしまうテイマーさんの、苦しくも楽しい異世界生活~

はらくろ
ファンタジー
時は二十二世紀。沢山のユーザーに愛されていた、VRMMORPGファンタズマル・ワールズ・オンラインに、一人のディープなゲーマーさんがいた。そのゲーマーさんは、豊富な追体験ができるコンテンツには目もくれず、日々、ペットを育てることに没頭している。ある日突然ゲーマーさんは、ゲームに似た異世界へ転移してしまう。ゲーマーさんははたして、どうなってしまうのか?

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

処理中です...