前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第一章 新しい生活の始まり

014-5

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「アシュリー、いくらなんでも薄着過ぎるぞ」

 厚手のコート……は無いのです、実は。慌てて村を出たから準備も出来なくて。
 説明した所、ラズロさんは頭をガリガリとかいた。

「これだから坊ちゃんは……」

 行くぞ、と言って歩き出したラズロさんの後をフルールを抱いて付いて行く。フルールを抱いてると温かい。

 最初に入ったのは洋服屋さんだった。

「厨房に立つ事が多いから薄着なのかと思ってたら、最低限の冬着すら持つ余裕も与えてなかったとはな」

 ったく、とラズロさんはブツブツ言いながら、服を見て行く。
 突然振り向いて、僕の鼻先を指で突く。

「金の事を口にするのは禁止だ。言ったらくすぐりの刑だぞ」

 えっ、くすぐり! それは嫌です!

 ラズロさんは服を選んでは僕の身体に当てて、いいな、とか、思ってたのと違うな、と呟く。
 付いて歩いてるだけなのに、疲れて来た。

「よし、決めたぞ」

 ラズロさんは厚手のチュニックを5枚、ベストを3枚、ズボンを3本と、手袋、コート、靴底のあるブーツを選び、会計をさっさと済ませてしまった。
 止めようとしたけど、間に合わなかった。

「コートはこのまま着て行こう。あと手袋も。後は城に届けてくれ」

 店員さんは笑顔で頷いた。

「ほら」

 渡されたコートを羽織る。膝まで丈があって、表は皮、中側は毛皮だった。もふもふとして温かい。

「手袋もしとけ」

 手袋は子供の僕にもぴったりの大きさだった。こんな小さな手袋まであるなんて、王都って凄い。僕が村で使っていた手袋は大人用しかなかった。

「ありがとうございます、ラズロさん」

「気にすんな。請求は全部クリフとノエルに回す」

「えっ!」

「さっきも言ったけどな、もう冬が見えてるっつーのに、冬着も持たせずに連れて来たのはあの、出来の良いお坊ちゃん二人だ。アシュリーの荷物が少し増えたぐらい、大した事なかったろうに、それすら気遣ってやれてねぇんだから、良いんだよ」

「で、でも」

「この程度の気遣いも出来ないとな、女にモテないんだって事を教えてやってんだよ」

 僕の洋服と女の人にモテる事がイマイチ結びつかない。

「さ、行くぞ」

 僕とフルールは慌ててラズロさんの後を追い駆けた。



 行商人のお店は、露店だった。お店を構えていないから、それもそうだよね。
 村に来た行商人は、酒場の一角で商いをしていたなぁ。

「ラズロ」

 店主っぽい人がラズロさんに向けて笑顔で手を上げる。

「おぅ、邪魔するぞ」

 台の上に並ぶ商品は、見た事がない物ばっかりだった。

「今回は何処だ?」

「西だよ」

「西も色々あんだろ」

「ラズロが気に入りそうなのは、練香かな」

「ほー」

 ネリコウ?
 ラズロさんは練香と呼ばれる物を見てる。
 見ると、香りのする小さな塊みたい。一つひとつを手に取って香りを確認してる。

「ラズロの連れの君、名前は? オレはイースタンって言うんだ」

 突然話しかけられてびっくりしてしまった。
 イースタンと名乗った行商人の人は、褐色の肌で、金髪、緑色の瞳をしていた。

「あ、初めまして。アシュリーといいます」

「アシュリーか、よろしくね。
どんな物が好き? ここ以外にも物はあるから、言ってくれれば探してくるけど」

 好きな物……。

「今欲しいのは、薬研とスポンジと羽毛です」

「は? 羽毛? もしかして君、ロニタ村の出身?」

「!」

 何で羽毛から村の名前が?!
 驚いてる僕を見て、イースタンさんは目を細めて笑った。

「あはは、当たりだ。ロニタ村の人は羽毛を入れた布団を好んで、村から出た後、わざわざ羽毛を入手してまで作るって聞いた事があってさ」

「そうなんですね。僕も同じ事を考えてました」

「残念ながら羽毛の取り扱いはないなぁ。それに今から入手して作っても間に合わないし」

 そうなんだよね。どうしよう。
 村から持ってくれば良かったのかな……。
 でもあんな嵩張るもの持って来れなかったし、羽毛布団が一般的じゃないなんて思わなかった……。

「今回の冬は諦めて、別の物を探したらどう?」

「そうですよね。来年に向けて準備します」

 何でもかんでもノエルさんやクリフさんに頼りたくはないし。王都になら羽毛を扱ってるお店があるかも知れないし!

 僕は結局何も買わず、ラズロさんは練香をいくつも買っていた。全部自分で使うのかな?
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