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第一章 新しい生活の始まり

010-3

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 積み上げられたネズミを前に僕とノエルさんは固まる。
 ……何でこんな所に? 罠が周囲にある風でもないのに……?

 なぅー、と鳴きながらネロが身体を擦り付けて来て思い出した。
 僕とラズロさんが夕食の準備をしている時、ネロが食堂に出入りして何かやってたんだよね。
 まさかやっつけたネズミを持って来てくれてるなんて思わなかった。しかもこの量。

「今日、ネロが一生懸命何かを運んでたんですけど……これだったのかも……」

 ネロを見る。

「このネズミは、ネロがやっつけてくれたの?」

 にゃ! と勢いよく答えるネロに、もう一度ネズミの山を見る。
 かなりの数を捕まえてくれたんだと思う。

「ネロー! 凄い! 凄いよー!」

 顔を両手でそっと挟んで撫でると、ネロは目を細めて気持ち良さそうな顔を見せた。

「ネロは腕利きの猫だね。これはラズロに何かおねだりして良いレベルだと思うよ」

 僕の横にいたノエルさんが真剣な顔で言った。

「お礼なら僕がします。僕のお願いを聞いてくれたんだと思うんです。だから、僕からお礼がしたいです」

 食材を駄目にされるのを見ていて、やっぱり嫌な気持ちだったんだよね。
 ネズミだって生きてるから、食べなくちゃいけないんだけど、あの食べ散らかされた後を毎日見ていたから、どうしてもね。

「ネロは何が欲しい?」

 やっぱり猫だし、マタタビかな?
 今度王都に出たら探してみよう。

 ネロは僕の手のひらに自分の頭を擦りつけてくる。
 撫でられたいのかな?
 小さくて可愛いネロの頭を優しく撫でる。

「ありがとう、ネロ。本当に困ってたからとっても嬉しいよ。ネロは凄いね」

 にゃ! と鳴くと胸に抱きついてきて、顎にスリスリしてきた。

「!」

 ぅわぁ~っ、か、可愛い……!
 ぎゅっとネロを抱きしめる。もふもふであったかくて柔らかいです。
 はぁ、しあわせ。

「尊すぎて僕の目が潰れそうなんだけど、どうすれば良いと思う? クリフ」

「潰れるまで見た方が良いんじゃないか?」

 何か物騒な話をクリフさんとノエルさんがしてる。
 尊いから目が潰れるってどう言う事なのかな。

「ネズミを片付けないとだけど、それは僕がやっておくから、アシュリー、コーヒーのおかわりもらっても良い?」

「はい。でも良いんですか? お願いしてしまって」

「うん。魔法薬学を専門にしている知り合いがいるから、渡しておくよ」

 魔法薬学?

 うふふ、とノエルさんは笑った。

「次に会った時に教えてあげる」

 僕の知らないことが世の中には沢山あるんだって、新しい言葉を聞くたびに思う。
 村にいたら絶対に聞かなかった言葉。

「はい、ノエルさん」

 ネズミをノエルさんにお任せして、僕はコーヒーのおかわりを用意しに厨房に向かった。
 ネロはまだ甘え足りないのか、僕の肩に飛び乗る。

「わっ、ネロ、危ないよ?」

 にゃうにゃう、とネロは答える。なんだろ。大丈夫、って言ってるのかな?

「ちゃんと捕まってるんだよ?」

 なぅー、と鳴くと、僕の頭にしがみつく。

「大変だよ、クリフ! 可愛すぎて気絶しそう!」

「気絶したら運んでおいてやる」

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