29 / 271
第一章 新しい生活の始まり
009-1
しおりを挟む
トキア様に文字を教わるのは、トキア様がお昼を食べる時間に決まった。
その時にはフルールも連れて行って、機密文書やら、僕の書き損じやらをフルールに食べさせるんだって。
お手間なんじゃないかと思ったんだけど、トキア様的には、食堂に来てフルールに食べさせて、執務室に戻る時間がなくなるから、短縮だとのこと。
……本当かな……。
「アシュリー、名前を書いてみなさい」
「はい、トキア様」
まずは名前なんだって。
それから、五十音を覚えるらしい。そうしたら、数字の勉強を教えてもらえる。
新しいことを覚えるのは楽しい。文字や数字はスキルと関係ないから、僕でもいくらか覚えられるようになるんじゃないかって思うと、ワクワクする。
「今日は名前を書きなさい。名前はスムーズに書けるようになった方が良い」
確かに。自分の名前だもの。たどたどしいより、サラサラと書けるようになりたいな。
トキア様がお手本として書いてくれた僕の名前をマネしながら、書く。
人が書いているのを見ていると簡単そうに見える。でも自分で書くと分かる。全然思ったように書けない。力が入り過ぎたりして、文字が潰れてしまったり。
「もうちょっと力を抜くと良い。それでは疲れてしまう」
分かってます、分かってるんですけど、どうしても力が……!
「まぁ、嫌と言う程書いていれば力も抜けてくるだろう」
パニーノを食べ終えたトキア様はフルールに機密文書を食べさせ始めた。ついでに僕の書き損じも。
文字の練習を終えて食堂に戻ると、クリフさんがいた。ラズロさんとコーヒーを飲んでる。
「こんにちは、クリフさん。休憩ですか?」
「アシュリーが文字を習うと聞いたから、家にあった子供用の本を持って来た」
差し出された絵の付いた本。
貴族の子供たちが見ると言う絵本。平民の僕なんかが手にする事があるなんて思わなかった。
「借りても良いんですか?」
クリフさんは笑顔で頷いた。
「勿論だ」
「ありがとうございます、大切に読みます」
クリフさんにも、ノエルさんにも、お世話になりっぱなし。僕でも出来る何かがあると良いんだけど……。
「またアシュリーは、クリフに申し訳ないとか考えてんだろ」
ラズロさんが僕の考えを見透かす。
「う……はい……」
「気に入らん事はしない男が勝手にやってんだから、気にすんなよ。安心して貢がれとけ」
貢がれる?!
それはどうかと思う!
「本当に気にするな、好きでやってる」
クリフさんはポンポン、と僕の頭を叩くと、フルールを触り出した。
……あっ、もしかして……?
無表情だけど、クリフさんの耳が少しだけ赤い。
クリフさんは、もふもふに目の無い人なのかも知れない。なんかそんな気がする。
その時にはフルールも連れて行って、機密文書やら、僕の書き損じやらをフルールに食べさせるんだって。
お手間なんじゃないかと思ったんだけど、トキア様的には、食堂に来てフルールに食べさせて、執務室に戻る時間がなくなるから、短縮だとのこと。
……本当かな……。
「アシュリー、名前を書いてみなさい」
「はい、トキア様」
まずは名前なんだって。
それから、五十音を覚えるらしい。そうしたら、数字の勉強を教えてもらえる。
新しいことを覚えるのは楽しい。文字や数字はスキルと関係ないから、僕でもいくらか覚えられるようになるんじゃないかって思うと、ワクワクする。
「今日は名前を書きなさい。名前はスムーズに書けるようになった方が良い」
確かに。自分の名前だもの。たどたどしいより、サラサラと書けるようになりたいな。
トキア様がお手本として書いてくれた僕の名前をマネしながら、書く。
人が書いているのを見ていると簡単そうに見える。でも自分で書くと分かる。全然思ったように書けない。力が入り過ぎたりして、文字が潰れてしまったり。
「もうちょっと力を抜くと良い。それでは疲れてしまう」
分かってます、分かってるんですけど、どうしても力が……!
「まぁ、嫌と言う程書いていれば力も抜けてくるだろう」
パニーノを食べ終えたトキア様はフルールに機密文書を食べさせ始めた。ついでに僕の書き損じも。
文字の練習を終えて食堂に戻ると、クリフさんがいた。ラズロさんとコーヒーを飲んでる。
「こんにちは、クリフさん。休憩ですか?」
「アシュリーが文字を習うと聞いたから、家にあった子供用の本を持って来た」
差し出された絵の付いた本。
貴族の子供たちが見ると言う絵本。平民の僕なんかが手にする事があるなんて思わなかった。
「借りても良いんですか?」
クリフさんは笑顔で頷いた。
「勿論だ」
「ありがとうございます、大切に読みます」
クリフさんにも、ノエルさんにも、お世話になりっぱなし。僕でも出来る何かがあると良いんだけど……。
「またアシュリーは、クリフに申し訳ないとか考えてんだろ」
ラズロさんが僕の考えを見透かす。
「う……はい……」
「気に入らん事はしない男が勝手にやってんだから、気にすんなよ。安心して貢がれとけ」
貢がれる?!
それはどうかと思う!
「本当に気にするな、好きでやってる」
クリフさんはポンポン、と僕の頭を叩くと、フルールを触り出した。
……あっ、もしかして……?
無表情だけど、クリフさんの耳が少しだけ赤い。
クリフさんは、もふもふに目の無い人なのかも知れない。なんかそんな気がする。
2
お気に入りに追加
358
あなたにおすすめの小説
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~
愛山雄町
ファンタジー
エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。
彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。
彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。
しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。
そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。
しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。
更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。
彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。
マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。
彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。
■■■
あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!
クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』
自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。
最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。

【完結】魔術師なのはヒミツで薬師になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
ティモシーは、魔術師の少年だった。人には知られてはいけないヒミツを隠し、薬師(くすし)の国と名高いエクランド国で薬師になる試験を受けるも、それは年に一度の王宮専属薬師になる試験だった。本当は普通の試験でよかったのだが、見事に合格を果たす。見た目が美少女のティモシーは、トラブルに合うもまだ平穏な方だった。魔術師の組織の影がちらつき、彼は次第に大きな運命に飲み込まれていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる