前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第一章 新しい生活の始まり

009-1

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 トキア様に文字を教わるのは、トキア様がお昼を食べる時間に決まった。
 その時にはフルールも連れて行って、機密文書やら、僕の書き損じやらをフルールに食べさせるんだって。
 お手間なんじゃないかと思ったんだけど、トキア様的には、食堂に来てフルールに食べさせて、執務室に戻る時間がなくなるから、短縮だとのこと。
 ……本当かな……。

「アシュリー、名前を書いてみなさい」

「はい、トキア様」

 まずは名前なんだって。
 それから、五十音を覚えるらしい。そうしたら、数字の勉強を教えてもらえる。
 新しいことを覚えるのは楽しい。文字や数字はスキルと関係ないから、僕でもいくらか覚えられるようになるんじゃないかって思うと、ワクワクする。

「今日は名前を書きなさい。名前はスムーズに書けるようになった方が良い」

 確かに。自分の名前だもの。たどたどしいより、サラサラと書けるようになりたいな。

 トキア様がお手本として書いてくれた僕の名前をマネしながら、書く。
 人が書いているのを見ていると簡単そうに見える。でも自分で書くと分かる。全然思ったように書けない。力が入り過ぎたりして、文字が潰れてしまったり。

「もうちょっと力を抜くと良い。それでは疲れてしまう」

 分かってます、分かってるんですけど、どうしても力が……!

「まぁ、嫌と言う程書いていれば力も抜けてくるだろう」

 パニーノを食べ終えたトキア様はフルールに機密文書を食べさせ始めた。ついでに僕の書き損じも。



 文字の練習を終えて食堂に戻ると、クリフさんがいた。ラズロさんとコーヒーを飲んでる。

「こんにちは、クリフさん。休憩ですか?」

「アシュリーが文字を習うと聞いたから、家にあった子供用の本を持って来た」

 差し出された絵の付いた本。
 貴族の子供たちが見ると言う絵本。平民の僕なんかが手にする事があるなんて思わなかった。

「借りても良いんですか?」

 クリフさんは笑顔で頷いた。

「勿論だ」

「ありがとうございます、大切に読みます」

 クリフさんにも、ノエルさんにも、お世話になりっぱなし。僕でも出来る何かがあると良いんだけど……。

「またアシュリーは、クリフに申し訳ないとか考えてんだろ」

 ラズロさんが僕の考えを見透かす。

「う……はい……」

「気に入らん事はしない男が勝手にやってんだから、気にすんなよ。安心して貢がれとけ」

 貢がれる?!
 それはどうかと思う!

「本当に気にするな、好きでやってる」

 クリフさんはポンポン、と僕の頭を叩くと、フルールを触り出した。
 ……あっ、もしかして……?

 無表情だけど、クリフさんの耳が少しだけ赤い。

 クリフさんは、もふもふに目の無い人なのかも知れない。なんかそんな気がする。
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