14 / 271
第一章 新しい生活の始まり
004-3
しおりを挟む
鐘の音が鳴った。
「昼になったな」
お昼になると鐘が知らせてくれるのか、親切だなぁ、なんて思っていたら、ラズロさんに小突かれた。
「ボケっとすんな。直ぐに来るぞ」
「あ、はい」
お皿にグラタンとトースト、腸詰をのせていると、扉が開いた。
「良い匂い! ラズロ! 今まで嗅いだ事のない良い匂いがするけど!」
「腹減ったー!」
突然食堂は賑やかになって、テーブルはあっという間に人で埋め尽くされていく。村のお祭りでも見たことのない人数!
料理をのせるスピードが間に合わないぐらい、どんどんお皿が消えていく。
僕はただひたすら、皿に料理をのせ、隙を見ては石窯のグラタンの焼き加減を確認しては持ってきて、次のを焼いて、を繰り返した。
ラズロさんは食べに来た人達と話す余裕があるみたいで、トーストと腸詰を焼きながら、会話をしていく。
その中には、突然増えた僕の事も話題に上がって、答える余裕のない僕の代わりにラズロさんが対応してくれた。僕は笑いかけるので精一杯!!
怒涛のお昼が終わって、呆然としている僕の頭を、ラズロさんが撫でてくれた。
「初日とは思えないぐらい上出来だ!」
と言うか、これを一人で対応していたラズロさんが凄いと思う…。
そう言うと、ラズロさんは笑った。
「いつもはオレ、パンと焼いた肉しか出してねぇもん」
いや、それにしたってあの人数は、一人でどうこう出来る人数じゃないと思う。
扉が開いて、ノエルさんがやって来た。
「まだ残ってる?」
「昼に来るって言ってたからな、取っといてあるぜ」
ノエルさんはカウンター側のテーブルに腰掛ける。
軽く温め直した料理を出すと、ノエルさんは受け取り、食べ始めた。
「これ、グラタン? でも、このクリームは何? まろやかで美味しいね。このトーストも、ふわふわして美味しい」
「クリームとトーストはアシュリーが考えた。美味いだろ」
僕とラズロさんも取っておいた料理をお皿に乗せると、ノエルさんの正面に座った。
「ミルクが大量に余っててな、それをアシュリーが上手く使ってくれたんだよ」
なるほどねー、とノエルさんは頷いて、美味しそうに腸詰をかじる。
「そうそう、小屋の建設許可が下りたから、そう遠くないうちに完成すると思うよ」
なんだか申し訳ない気持ちもあるけど、お風呂が出来るのは嬉しい。
「あと、牛なんだけど、出産してなくてもミルクを出す牛がいるらしいよ」
「凄い! そんな牛がいるんですか?!」
ミルクが出るという事は、当然仔牛がいる。
「僕からアシュリーへプレゼントするよ」
「えっ! そんな、駄目ですよ! 貴重ですよね、その牛」
ノエルさんはそれなりに、と頷く。
「でも、このプレゼントはさ、アシュリーの為だけじゃないんだよね。僕の為でもあるの」
ふふふ、とノエルさんは笑う。
ノエルさんの為にもなる?
「アシュリーの作る料理は美味しい。牛をプレゼントするだけで美味しい料理が食べられるなら、いくらでもプレゼントするよ」
「で、でもっ!」
「こいつら魔法使いにとって、食事ってのは重要なんだぜ?」
ラズロさんが言った。
「こう見えて魔法使いってのは、身体も鍛えないといけなくてな、頭も使うし身体も使う」
そうそう、とノエルさんが頷く。
「体力がないと継続して魔法を撃てないからね。集中力を鍛える為にも、最低限のトレーニングはしなくちゃいけないんだよ」
へーっ! そうなんだ!
「だから、良質な食事が必要になるの」
それで、自分の為にもなる、って言ったのか。
「それなら、オレも半分出そう」
声の主はクリフさんだった。
クリフさんはノエルさんの横に座った。
「おまえ、昼は?」
ラズロさんが尋ねると、クリフさんは首を横に振った。
「コーヒーだけもらえるか?」
頷いてラズロさんは立ち上がった。
「ノエル、アシュリーの事で動いてるなら、オレにもひと声かけてくれ」
「ごめんごめん。
えっとね、アシュリーが入る為のお風呂を、裏庭に作る為の建築許可を取ったんだよ。さ来週には完成する予定。
それと、アシュリーが牛を飼いたいって言うから、ずっとミルクが取れる牛をプレゼントするね、って話をしていた所で君が来た」
独特の香りのする、真っ黒い飲み物を3つ持って、ラズロさんが戻って来た。
コーヒーって言うんだって。僕はまだ子供だから、無理だって言われた。とっても苦いらしい。
「ノエルと牛を折半するのもいいが、コイツはまだ何にも持ってないんだから、別の物を贈ってやった方が喜ぶんじゃねぇの?」
そう言ってラズロさんはコーヒーを飲む。
確かに、とクリフさんが頷く。
「だ、駄目です!」
僕の言葉にクリフさんは首を傾げる。
「僕、助けていただいてばっかりです。お返しも出来そうにないですし!」
お願い! 僕の話を聞いて!
「アシュリーは何が欲しいんだ?」
気にせずクリフさんが尋ねる。
「だから、駄目ですってばー!」
「とりあえず週末に生活用品を買いに行こうよ、まだ何もないでしょ?」
「それはそうですけど、僕、お金ありますから、大丈夫ですから!」
って、昨日ラズロさんからもらった奴だけど!
「まぁまぁ、お金はいくらあっても困らないから」
どうしよう、皆して僕の話を聞いてくれない!
「昼になったな」
お昼になると鐘が知らせてくれるのか、親切だなぁ、なんて思っていたら、ラズロさんに小突かれた。
「ボケっとすんな。直ぐに来るぞ」
「あ、はい」
お皿にグラタンとトースト、腸詰をのせていると、扉が開いた。
「良い匂い! ラズロ! 今まで嗅いだ事のない良い匂いがするけど!」
「腹減ったー!」
突然食堂は賑やかになって、テーブルはあっという間に人で埋め尽くされていく。村のお祭りでも見たことのない人数!
料理をのせるスピードが間に合わないぐらい、どんどんお皿が消えていく。
僕はただひたすら、皿に料理をのせ、隙を見ては石窯のグラタンの焼き加減を確認しては持ってきて、次のを焼いて、を繰り返した。
ラズロさんは食べに来た人達と話す余裕があるみたいで、トーストと腸詰を焼きながら、会話をしていく。
その中には、突然増えた僕の事も話題に上がって、答える余裕のない僕の代わりにラズロさんが対応してくれた。僕は笑いかけるので精一杯!!
怒涛のお昼が終わって、呆然としている僕の頭を、ラズロさんが撫でてくれた。
「初日とは思えないぐらい上出来だ!」
と言うか、これを一人で対応していたラズロさんが凄いと思う…。
そう言うと、ラズロさんは笑った。
「いつもはオレ、パンと焼いた肉しか出してねぇもん」
いや、それにしたってあの人数は、一人でどうこう出来る人数じゃないと思う。
扉が開いて、ノエルさんがやって来た。
「まだ残ってる?」
「昼に来るって言ってたからな、取っといてあるぜ」
ノエルさんはカウンター側のテーブルに腰掛ける。
軽く温め直した料理を出すと、ノエルさんは受け取り、食べ始めた。
「これ、グラタン? でも、このクリームは何? まろやかで美味しいね。このトーストも、ふわふわして美味しい」
「クリームとトーストはアシュリーが考えた。美味いだろ」
僕とラズロさんも取っておいた料理をお皿に乗せると、ノエルさんの正面に座った。
「ミルクが大量に余っててな、それをアシュリーが上手く使ってくれたんだよ」
なるほどねー、とノエルさんは頷いて、美味しそうに腸詰をかじる。
「そうそう、小屋の建設許可が下りたから、そう遠くないうちに完成すると思うよ」
なんだか申し訳ない気持ちもあるけど、お風呂が出来るのは嬉しい。
「あと、牛なんだけど、出産してなくてもミルクを出す牛がいるらしいよ」
「凄い! そんな牛がいるんですか?!」
ミルクが出るという事は、当然仔牛がいる。
「僕からアシュリーへプレゼントするよ」
「えっ! そんな、駄目ですよ! 貴重ですよね、その牛」
ノエルさんはそれなりに、と頷く。
「でも、このプレゼントはさ、アシュリーの為だけじゃないんだよね。僕の為でもあるの」
ふふふ、とノエルさんは笑う。
ノエルさんの為にもなる?
「アシュリーの作る料理は美味しい。牛をプレゼントするだけで美味しい料理が食べられるなら、いくらでもプレゼントするよ」
「で、でもっ!」
「こいつら魔法使いにとって、食事ってのは重要なんだぜ?」
ラズロさんが言った。
「こう見えて魔法使いってのは、身体も鍛えないといけなくてな、頭も使うし身体も使う」
そうそう、とノエルさんが頷く。
「体力がないと継続して魔法を撃てないからね。集中力を鍛える為にも、最低限のトレーニングはしなくちゃいけないんだよ」
へーっ! そうなんだ!
「だから、良質な食事が必要になるの」
それで、自分の為にもなる、って言ったのか。
「それなら、オレも半分出そう」
声の主はクリフさんだった。
クリフさんはノエルさんの横に座った。
「おまえ、昼は?」
ラズロさんが尋ねると、クリフさんは首を横に振った。
「コーヒーだけもらえるか?」
頷いてラズロさんは立ち上がった。
「ノエル、アシュリーの事で動いてるなら、オレにもひと声かけてくれ」
「ごめんごめん。
えっとね、アシュリーが入る為のお風呂を、裏庭に作る為の建築許可を取ったんだよ。さ来週には完成する予定。
それと、アシュリーが牛を飼いたいって言うから、ずっとミルクが取れる牛をプレゼントするね、って話をしていた所で君が来た」
独特の香りのする、真っ黒い飲み物を3つ持って、ラズロさんが戻って来た。
コーヒーって言うんだって。僕はまだ子供だから、無理だって言われた。とっても苦いらしい。
「ノエルと牛を折半するのもいいが、コイツはまだ何にも持ってないんだから、別の物を贈ってやった方が喜ぶんじゃねぇの?」
そう言ってラズロさんはコーヒーを飲む。
確かに、とクリフさんが頷く。
「だ、駄目です!」
僕の言葉にクリフさんは首を傾げる。
「僕、助けていただいてばっかりです。お返しも出来そうにないですし!」
お願い! 僕の話を聞いて!
「アシュリーは何が欲しいんだ?」
気にせずクリフさんが尋ねる。
「だから、駄目ですってばー!」
「とりあえず週末に生活用品を買いに行こうよ、まだ何もないでしょ?」
「それはそうですけど、僕、お金ありますから、大丈夫ですから!」
って、昨日ラズロさんからもらった奴だけど!
「まぁまぁ、お金はいくらあっても困らないから」
どうしよう、皆して僕の話を聞いてくれない!
2
お気に入りに追加
348
あなたにおすすめの小説
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
テイマーズライフ ~ダンジョン制覇が目的ではなく、ペットを育てるためだけに潜ってしまうテイマーさんの、苦しくも楽しい異世界生活~
はらくろ
ファンタジー
時は二十二世紀。沢山のユーザーに愛されていた、VRMMORPGファンタズマル・ワールズ・オンラインに、一人のディープなゲーマーさんがいた。そのゲーマーさんは、豊富な追体験ができるコンテンツには目もくれず、日々、ペットを育てることに没頭している。ある日突然ゲーマーさんは、ゲームに似た異世界へ転移してしまう。ゲーマーさんははたして、どうなってしまうのか?
転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる