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第一章 新しい生活の始まり

004-3

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 鐘の音が鳴った。

「昼になったな」

 お昼になると鐘が知らせてくれるのか、親切だなぁ、なんて思っていたら、ラズロさんに小突かれた。

「ボケっとすんな。直ぐに来るぞ」

「あ、はい」

 お皿にグラタンとトースト、腸詰をのせていると、扉が開いた。

「良い匂い! ラズロ! 今まで嗅いだ事のない良い匂いがするけど!」

「腹減ったー!」

 突然食堂は賑やかになって、テーブルはあっという間に人で埋め尽くされていく。村のお祭りでも見たことのない人数!
 料理をのせるスピードが間に合わないぐらい、どんどんお皿が消えていく。

 僕はただひたすら、皿に料理をのせ、隙を見ては石窯のグラタンの焼き加減を確認しては持ってきて、次のを焼いて、を繰り返した。
 ラズロさんは食べに来た人達と話す余裕があるみたいで、トーストと腸詰を焼きながら、会話をしていく。
 その中には、突然増えた僕の事も話題に上がって、答える余裕のない僕の代わりにラズロさんが対応してくれた。僕は笑いかけるので精一杯!!

 怒涛のお昼が終わって、呆然としている僕の頭を、ラズロさんが撫でてくれた。

「初日とは思えないぐらい上出来だ!」

 と言うか、これを一人で対応していたラズロさんが凄いと思う…。
 そう言うと、ラズロさんは笑った。

「いつもはオレ、パンと焼いた肉しか出してねぇもん」

 いや、それにしたってあの人数は、一人でどうこう出来る人数じゃないと思う。

 扉が開いて、ノエルさんがやって来た。

「まだ残ってる?」

「昼に来るって言ってたからな、取っといてあるぜ」

 ノエルさんはカウンター側のテーブルに腰掛ける。
 軽く温め直した料理を出すと、ノエルさんは受け取り、食べ始めた。

「これ、グラタン? でも、このクリームは何? まろやかで美味しいね。このトーストも、ふわふわして美味しい」

「クリームとトーストはアシュリーが考えた。美味いだろ」

 僕とラズロさんも取っておいた料理をお皿に乗せると、ノエルさんの正面に座った。

「ミルクが大量に余っててな、それをアシュリーが上手く使ってくれたんだよ」

 なるほどねー、とノエルさんは頷いて、美味しそうに腸詰をかじる。

「そうそう、小屋の建設許可が下りたから、そう遠くないうちに完成すると思うよ」

 なんだか申し訳ない気持ちもあるけど、お風呂が出来るのは嬉しい。

「あと、牛なんだけど、出産してなくてもミルクを出す牛がいるらしいよ」

「凄い! そんな牛がいるんですか?!」

 ミルクが出るという事は、当然仔牛がいる。

「僕からアシュリーへプレゼントするよ」

「えっ! そんな、駄目ですよ! 貴重ですよね、その牛」

 ノエルさんはそれなりに、と頷く。

「でも、このプレゼントはさ、アシュリーの為だけじゃないんだよね。僕の為でもあるの」

ふふふ、とノエルさんは笑う。

ノエルさんの為にもなる?

「アシュリーの作る料理は美味しい。牛をプレゼントするだけで美味しい料理が食べられるなら、いくらでもプレゼントするよ」

「で、でもっ!」

「こいつら魔法使いにとって、食事ってのは重要なんだぜ?」

 ラズロさんが言った。

「こう見えて魔法使いってのは、身体も鍛えないといけなくてな、頭も使うし身体も使う」

 そうそう、とノエルさんが頷く。

「体力がないと継続して魔法を撃てないからね。集中力を鍛える為にも、最低限のトレーニングはしなくちゃいけないんだよ」

 へーっ! そうなんだ!

「だから、良質な食事が必要になるの」

 それで、自分の為にもなる、って言ったのか。

「それなら、オレも半分出そう」

 声の主はクリフさんだった。
 クリフさんはノエルさんの横に座った。

「おまえ、昼は?」

 ラズロさんが尋ねると、クリフさんは首を横に振った。

「コーヒーだけもらえるか?」

 頷いてラズロさんは立ち上がった。

「ノエル、アシュリーの事で動いてるなら、オレにもひと声かけてくれ」

「ごめんごめん。
えっとね、アシュリーが入る為のお風呂を、裏庭に作る為の建築許可を取ったんだよ。さ来週には完成する予定。
それと、アシュリーが牛を飼いたいって言うから、ずっとミルクが取れる牛をプレゼントするね、って話をしていた所で君が来た」

 独特の香りのする、真っ黒い飲み物を3つ持って、ラズロさんが戻って来た。
 コーヒーって言うんだって。僕はまだ子供だから、無理だって言われた。とっても苦いらしい。

「ノエルと牛を折半するのもいいが、コイツはまだ何にも持ってないんだから、別の物を贈ってやった方が喜ぶんじゃねぇの?」

 そう言ってラズロさんはコーヒーを飲む。
 確かに、とクリフさんが頷く。

「だ、駄目です!」

 僕の言葉にクリフさんは首を傾げる。

「僕、助けていただいてばっかりです。お返しも出来そうにないですし!」

 お願い! 僕の話を聞いて!

「アシュリーは何が欲しいんだ?」

 気にせずクリフさんが尋ねる。

「だから、駄目ですってばー!」

「とりあえず週末に生活用品を買いに行こうよ、まだ何もないでしょ?」

「それはそうですけど、僕、お金ありますから、大丈夫ですから!」

 って、昨日ラズロさんからもらった奴だけど!

「まぁまぁ、お金はいくらあっても困らないから」

 どうしよう、皆して僕の話を聞いてくれない!
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