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第一章 学園編
067.転生者の価値
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女子会再びと言う事で、私はモニカの家に泊まりに来ております。
モニカが結婚してしまったら、王城は気安く遊びに行ける場所でもないから、今のうちにお泊まり会を沢山しようね、って奴です。
なんだかんだ、モニカとの女子会は楽しい。
本音を言えない貴族社会で、気にせず何でも話せるからだと思う。モニカもそう思ってくれてるといいな。
「まぁ、皇都のお土産にネグリジェだなんて……相変わらずルシアン様は攻めますわね」
「いえ、お連れの方が選んでルシアンに渡したみたいですよ?」
「でも、どんなものか分かっていて、ミチルにお渡ししてるんですから、同じことですわ」
確かに?
うふふふふ、とにやにやするモニカに私は苦笑した。
あんなスッケスケをお仕置きで着させられて、あぁ、今夜はきっと、お代官様と町娘よろしく、良いではないか良いではないか、あーれーになるに違いない、と覚悟した。
緊張しまくっていたら、驚いたことに、ルシアンはファッションショーのようにくるくると私を回転させて満足し、ベッドで私を抱き締めて眠って終わりです。
その話をすると、モニカがありえませんわ! と吠えた。
これ、王太子妃や……! 落ち着いて!
「どう考えても、普通は朝までコースですわよ!?」
モニカ、その単語何処で覚えたんだね、オネーサンに言ってごらん……。誰だね、そんな言葉教えたのは……。けしからんよ! 破廉恥だよ!
「ミチルだって期待なさったでしょう?!」
期待?!
あわわわわわ、何てことを言うんだ、この子は!
「何と言う事をおっしゃるのです!」
モニカに両肩を掴まれて揺さぶられる。
「私たち二人の女子会に秘密はない筈ですわ!」
そんな約束した覚えない!
それにどっちかって言うと、私の方ばかり暴露する立場じゃないかーっ!
「そのまま眠るだなんて、ルシアン様ってば、不能なのかしら?」
「?!」
まさかの、ED?!
「で、でも、これまで何回か……」
はっ! 言ってしまった……!!
モニカがにやにや笑ってるー!!
いやーーーーっ!!
罠にハメられてるーーーーっ!
「うふふ、ミチルは本当に可愛いですわ!」
今日も枕をぎゅっと抱きしめる。
私の心の防波堤!!
「で、ミチル、いかがでした?」
「いかがでした、とは……?」
冷や汗が出て来る。
「私も、書物などでは読んだことがありますけれど、まだ殿下とは婚姻前ですから、清いままですの。
いずれは私も殿下と閨を共にしますが……やっぱり不安なのです。憧れもありますけれど……」
ぽっ、と赤くなるモニカ。
殿下、頑張って耐えてるようで何より!
私もまだ学生とは言え、結婚後ですからね。
「それだけは言えません! 絶対駄目です!」
「もーっ! 少しぐらいお話し下さっても減りませんわ!」
「私のは減ります!」
断固拒否である!
いくらなんでもこればっかりは駄目!
「モニカもあと半年程で知ることになるのですから!
お楽しみに!」
「なるほど、楽しみに待てるようなものなのですね?」
「ちがっ! 物の例えです!」
策士モニカめ!
「学園生活も半年を切りましたものね。
そうそう、来月末の秋の剣術大会、楽しみです」
男子だけは中等部から剣術を学び、その集大成として高校三年で剣術大会に出場する。
「ジェラルド様が優勝かしら、やっぱり」
まぁ、そうだろうね。
騎士団長の息子だしね。
「あ、でもルシアン様は、皇都の剣術大会で優勝なさってましたから、上位にいくのでは?」
そう言えばそうだった。
あのチート級イケメンは、乗馬もダンスも剣術も出来るのですよ。
でも、最近のルシアンとジェラルドの筋肉のつき方を見てると、ジェラルドのマッチョ感が半端なく。
ジェラルドの顔も、爽やか美少年から肉体派美青年に向かって方向性が決まったといいますか。
「どうなのかしら。殿下もお強くていらっしゃるのでしょう?」
「殿下にお尋ねしたら、ジェラルドには敵わないと苦笑いをしてらっしゃいましたの」
まぁ、みんなそれほど真剣にもやらないだろうしね。
どう考えてもジェラルドが大本命だよね。
モニカがフフフと笑う。何か良くないことを思い付いてる顔だ。間違いない。
「ミチル、ルシアン様に、もし優勝したらご褒美を差し上げるっておっしゃってみて下さいな」
ヤダよ! そんな何かのフラグ立ちそうなこと!
「それをおっしゃるのなら、モニカこそ」
「いいですわね。私、いつも口付けをしていただく側ですから、私からの口付けをご褒美ということで焚き付けてみますわ!」
こら、淑女の心を何処に置いて来たんだ……。
「それで、ミチルは何になさるの?」
「ルシアンが勝ちたいなら頑張って下さればいいですし、ご褒美だなんて言えませんわ」
恐ろしくて言えないよ、そんなの!!
そもそもそのテにはのらないぞ!
「ミチルは今度こそ、そのスケスケネグリジェでルシアン様を誘惑ですわよ。大丈夫! 出産は卒業後ですわ!」
なにそれ、なにかのキーワードなの?!
「!!」
翌日、フレアージュ家から屋敷に帰った私は、ベッドで眠るルシアンを初めて見た。
セラに今なら良いものが見れるわよー。そーっと気配を消して部屋に入るのよ! と言われた。
何の事か分からないものの、言われるままにそーっと部屋に入って、もうちょっとで叫びそうだった。
うわぁっ!
うわぁああああっ!
イケメンが寝てる……!
ね、寝顔……! 寝顔見たい……!!
念願の寝顔……!!
そっとそーっと近付いて、ルシアンの顔を覗き込む。
無造作にしてる黒髪が、額にかかってる。
わぁ……睫毛長い……鼻も高いし、輪郭もキレイだなぁ……。
こんなにマジマジとルシアンの顔を見るの、初めてかも。
いつもあまりのイケメンっぷりに、直視に耐えきれずに私が視線を逸らすから。
穏やかな寝息。
少し薄めの唇は閉じられてる。
私だったらうっすら開いてよだれ垂れてそうだけど、やはりこんなところもイケメンは違うのですね……!
はぁ……イケメン……これが私の夫とか、今だに信じられない時があるよ。
それにしてもよく寝てる。
毎日忙しそうだもんね。凄い疲れてるんだろうなぁ。
授業は受けてないものの、伯爵としての仕事に、お義父様の代理をしたりと、アレクサンドリアも私と一緒に見てくれてるし、働き詰めな気がする。
うむ、邪魔しないように、寝かせてあげよう!
本当は、ちょっとだけ頰に触れたいなとか思ったりするけど、起きちゃうといけないから我慢。
そーっとベッドから降り、ルシアンに背を向けて扉に向かおうとした瞬間、後ろから腰に手を回された。
「きゃっ!」
きゃって! きゃって言っちゃったよ?!
私、そんなキャラじゃないのにっ!
そのまま抱き寄せられ、ルシアンの身体に密着する。
ルシアンの唇が耳に触れた。
ひぃっ。
「ふふっ」
堪えきれないといった風に笑うルシアン。
「る、ルシアン! 寝たふりをしていたのですか?!」
寝顔! 初めて見れたと思っていたのにー!! 寝たふり!!
ルシアンの腕の中から逃げようとジタバタしてみたけど、びくともしないよ……。
やっぱり人間、腰をロックされると動けないね……。
「寝ていましたよ。扉の開く音で目が覚めて、そこからは寝たふりをしていました」
じゃあ、全然寝顔じゃないーっ!
っていうかあんな小さい音で目覚めるとか……アサシンか!
「目は閉じていましたから」
こめかみあたりにルシアンがキスをする。それから、頰。
「それは寝顔じゃありませんーっ!」
私は一体いつになったらルシアンの寝顔を見る事が出来るんだろうか。
さっきの寝たふり、も、良かったけど……。
「ミチルがいつ悪戯をしてくれるかと待っていたんですが、何もせずミチルが離れるのでつい」
えぇ……悪戯されるの待ってたの?!
「ミチルからキスされないかなと」
止めて! 耳元で言わないで!
あわわわ。このイケメン、色々と恐ろしいことを言ってますよ……!
この危険な流れを断ち切らなくては……。
「そ、そう言えば、秋に剣術大会があるのですね」
「ジェラルドの優勝でしょうね」
案の定の回答である。
「ルシアンは頑張らないのですか?」
「然程関心もありませんから」
「では、殿下とジェラルド様の一騎打ちになりそうですね」
王子はきっと、モニカからのキスの為に頑張るだろうし!
とは言え、ジェラルドの勝ちだろうけどね。
モニカからすれば、自分の為に頑張ってる殿下の姿を見るのは嬉しいだろうし。場合によっては優勝しなくてもご褒美もらえるかもよ、殿下!
「もし殿下が優勝したら、モニカから殿下にキスをするのだそうです」
モニカってば本当に積極的。そんな事を言葉にして伝えられるんだから、凄いよ。
そして人ごとだからか、ワクワクしてる自分がいます。是非王子に頑張っていただきたい!
「それで、ミチルは私に何をして下さるのですか?」
ぎくり。
「い、いえ、私は何も……」
慌てて首を横に振る。
あれ、私、細心の注意を払って、私とかルシアンについては触れてないよね?
「モニカ嬢が、ご自身だけそのような事を言う筈ありませんから、ミチルも何か約束させられたのでは?」
エスパーか!!
いや、でもあれは口には出来ない! 爆発する!!
「ルシアンが勝ちたいと思われるのであれば応援しますけれど、そのような事は考えておりません。
モニカはそうしたいようですけれど」
どうよ。この完璧な回答。非の打ち所がないじゃありませんか。
実際問題、私はひと言もご褒美については言ってませんからね!
「では、私もミチルからのご褒美の為に優勝を目指します」
「私の話を聞いて下さいませ!」
言ってない! 言ってないからそんな事、ひと言も!
「たとえば先日のを着て、私を誘惑して下さるとか?」
なんなの?!
モニカとルシアンってつながってるの?!
「嫌ですっ!」
そもそも、この前あんなに恥ずかしい思いして着たスケスケネグリジェを見ても、何もしなかったのはルシアンの方でしょ!
「少し考えてみますね」
「お待ちになって!」
私の意思を無視しないでー!!
*****
ゼファス様の諸国行脚が功を奏しているのか、どうなのか。
あれからひと月程経つので、ちょっと気になる。
「そろそろミチルが気になって仕方ない頃かと思ってね」
そう言ってお義父様はサロンのソファで寛いでいる。
アルト家はエスパーなのか? それとも私の思考回路が単純ってこと?
後者か……そんな気がする。
「聖下は精力的に各地を回られているよ。
各国の王族も、ウィルニア教団を何とかしたいという思いがあるからね、聖下に下るだろう。
皇族出身だからそういう意味でも下りやすい。うってつけだね」
ぽっと出の何だかよく分からない、薬物乱用教団なんか、信用出来ないよねぇ。
「各国の王族が聖下と手を組むのはね、それだけが理由ではないんだよ。彼らも貴族だから、どうしようもなければ平民を殺す事を厭わないからね」
さらっと言われて、背筋がぞわっとした。
平民の命は軽く扱われる。
それが国内に混乱をもたらそうとする存在なら尚更。
これまでもそうやって弾圧はされてきたのだろうし。
「アルト家が聖下を後援すると意思表示をしているし、なによりミチル、転生者の君に近付きたいからだよ」
アルト家って何者なんだ……。
私の考えを読んでお義父様が答える。
どうやらお義父様も私の考えが読めるらしい。
……私が単純だってこと?!
「別に大したことのない家だよ。ただ尾ひれが付いてるだけでね。我らはそれを利用しているだけだ」
絶対嘘だ!
「まぁ、ちょっと特殊な一族がいるけどね」
絶対ちょっとどころじゃない、特殊な一族と見た。
「私はそれほど価値のある人間ではないと思うのですが……」
実態がバレたらやばいんじゃないのか?
お義父様は、はははっと声を上げて笑った。
「ギルドの事も魔道の器の事も、もう諸外国に広まっているんだよ。ミチルの作った文房具もカーネリアン家が販売してるからね。
ルシアンの為に作った香水も腕時計も、全部君の発案だって既に知れ渡っている。皇国にもね。サファイアのことだってそうだし」
「え?! ですご、それをこちらに適する形になさったのは、皆さまですのに!」
「それは当たり前なんだよ。
大事なのは新しいものを作り出す能力なんだ。
今更ながらに燕国が、ミチルに古武術を教えたいと言っているらしいけれど、遅いね、判断が。
自国にしかないものを知ってる時点で、もう少し思慮深くすべきだったのに」
なるほど、私が転生者と知って、古武術教えてあげるから仲良くしましょう、って燕国は言って来てるのか……。
「それより、古武術を覚えたいのならルシアンから教わればいいのに」
は?!
隣で上品にほうじ茶ミルクティーを飲むルシアンをガン見する。
私の視線に気がついたルシアンはにっこり微笑んだ。
「る、ルシアンは古武術を使えるのですか?」
「皇都にいた際に燕国からの留学生が来ておりまして。基礎から教えていただきました」
のぉーーーーーーっ!
何故教えてくれない! と思ったけど、ルシアンに聞いてないのは私だ!
「海上戦の軍術についても教えていただいて、大変有意義でしたよ」
でも、セラが私の腕では無理だって言ってたもん。
アサシン集団に片足突っ込んでしまったけど、仕方ないことだったもん。
蘇るあのブートキャンプの日々……戻らない私の夏休み。
「あぁ、あの軍術の報告書は面白かった」
うんうんと頷くお義父様。
レポート書けるまで理解してるんだ、ルシアン……。
「そうだ、アレクサンドリア領で余ってる土地があったら、ハーブを育ててもらえないか?」
「中和用クッキーの為ですか?」
「そうだよ」
「アビスに調べてもらいます」
平地の多いアレクサンドリア領は、天候も安定してることが多いから、ハーブ育成は向いてるだろうな。
諸外国に向けて送るとなると結構な量が必要となるだろうし……とは言え、地植えすると恐ろしくハーブは繁殖するからなぁ……なるべく川とか岩に囲まれてる所がいいかな。
あ、種が飛んじゃったりするかも知れないなぁ……。
「アレクサンドリアといえば、ジュビリーの教会に行ったゼファスがとても驚いていたよ」
「何かおかしな所がございましたか?」
「ジュビリーの教会では孤児を引き取って世話をしているだろう。しかも勉強も教えている。
ゼファスは感銘を受けたようでね、各地の教会で同じことをさせると息巻いていたよ」
おぉ!
可哀想な孤児が一人でも減ってくれたらいい。
それにしてもジュビリーの教会を見て感銘を受けるだなんて、ゼファス様って実は優しい……。
「優秀な子供がいたらそのまま教会に仕えさせたいって言ってたよ。大変らしいよ、聖職者を育成するの」
優しくなかった!
自分の為だった!!
「あの職業訓練所も面白い試みだね。
無償で面倒は見ず、ちゃんと街の為に奉仕させつつ新しいことを覚えさせ、街への帰属心を植え付ける。実に無駄がなくて良い」
お褒めに与り恐縮です。
ただ、ドイツ式の生活保護を見習ってるだけなんだけどね。つまりドイツすげーってことだね。
「さて、これだけ説明すれば、ミチルが諸外国でどう見られているか、察しただろう?
君を手に入れたい人間は山ほどいるんだよ。
それにしても、王子に嫁がなくて良かったね」
よく見えるように誇張してるんだろうなぁ、この様子だと……。
王族の妃になった方が守られそうなイメージだけど。
逆に王族の方が縛りが多いってことなのか。
公務とかで諸外国に行かなくてはならないとかもあるだろうし、もし王子との間に子供が出来たら、転生者目当てに婚姻が増えたりとか……?
えっと、つまり、私は現状、凄い守られているってことだよね。
家の事もやらなくていいってルシアンが言ってるのは、もしかしてそういう事も関係しているのでは?
いくらアルト家が有力でも、辺境の国の一貴族に過ぎないから、手を出しづらいってことだろうし。
はー……一体何処までこの人たちの考えは及んでるんだろう……本当凄いな……。
ルシアンの袖を引っ張る。
「あの、ルシアン……」
「はい」
「いつも、守って下さってありがとう」
優しく微笑んで、どういたしまして、と答えると、私の瞼にキスをする。
「!」
父親の前なのに!
「早く孫を抱きたいな」
やめてーーっ!!
モニカが結婚してしまったら、王城は気安く遊びに行ける場所でもないから、今のうちにお泊まり会を沢山しようね、って奴です。
なんだかんだ、モニカとの女子会は楽しい。
本音を言えない貴族社会で、気にせず何でも話せるからだと思う。モニカもそう思ってくれてるといいな。
「まぁ、皇都のお土産にネグリジェだなんて……相変わらずルシアン様は攻めますわね」
「いえ、お連れの方が選んでルシアンに渡したみたいですよ?」
「でも、どんなものか分かっていて、ミチルにお渡ししてるんですから、同じことですわ」
確かに?
うふふふふ、とにやにやするモニカに私は苦笑した。
あんなスッケスケをお仕置きで着させられて、あぁ、今夜はきっと、お代官様と町娘よろしく、良いではないか良いではないか、あーれーになるに違いない、と覚悟した。
緊張しまくっていたら、驚いたことに、ルシアンはファッションショーのようにくるくると私を回転させて満足し、ベッドで私を抱き締めて眠って終わりです。
その話をすると、モニカがありえませんわ! と吠えた。
これ、王太子妃や……! 落ち着いて!
「どう考えても、普通は朝までコースですわよ!?」
モニカ、その単語何処で覚えたんだね、オネーサンに言ってごらん……。誰だね、そんな言葉教えたのは……。けしからんよ! 破廉恥だよ!
「ミチルだって期待なさったでしょう?!」
期待?!
あわわわわわ、何てことを言うんだ、この子は!
「何と言う事をおっしゃるのです!」
モニカに両肩を掴まれて揺さぶられる。
「私たち二人の女子会に秘密はない筈ですわ!」
そんな約束した覚えない!
それにどっちかって言うと、私の方ばかり暴露する立場じゃないかーっ!
「そのまま眠るだなんて、ルシアン様ってば、不能なのかしら?」
「?!」
まさかの、ED?!
「で、でも、これまで何回か……」
はっ! 言ってしまった……!!
モニカがにやにや笑ってるー!!
いやーーーーっ!!
罠にハメられてるーーーーっ!
「うふふ、ミチルは本当に可愛いですわ!」
今日も枕をぎゅっと抱きしめる。
私の心の防波堤!!
「で、ミチル、いかがでした?」
「いかがでした、とは……?」
冷や汗が出て来る。
「私も、書物などでは読んだことがありますけれど、まだ殿下とは婚姻前ですから、清いままですの。
いずれは私も殿下と閨を共にしますが……やっぱり不安なのです。憧れもありますけれど……」
ぽっ、と赤くなるモニカ。
殿下、頑張って耐えてるようで何より!
私もまだ学生とは言え、結婚後ですからね。
「それだけは言えません! 絶対駄目です!」
「もーっ! 少しぐらいお話し下さっても減りませんわ!」
「私のは減ります!」
断固拒否である!
いくらなんでもこればっかりは駄目!
「モニカもあと半年程で知ることになるのですから!
お楽しみに!」
「なるほど、楽しみに待てるようなものなのですね?」
「ちがっ! 物の例えです!」
策士モニカめ!
「学園生活も半年を切りましたものね。
そうそう、来月末の秋の剣術大会、楽しみです」
男子だけは中等部から剣術を学び、その集大成として高校三年で剣術大会に出場する。
「ジェラルド様が優勝かしら、やっぱり」
まぁ、そうだろうね。
騎士団長の息子だしね。
「あ、でもルシアン様は、皇都の剣術大会で優勝なさってましたから、上位にいくのでは?」
そう言えばそうだった。
あのチート級イケメンは、乗馬もダンスも剣術も出来るのですよ。
でも、最近のルシアンとジェラルドの筋肉のつき方を見てると、ジェラルドのマッチョ感が半端なく。
ジェラルドの顔も、爽やか美少年から肉体派美青年に向かって方向性が決まったといいますか。
「どうなのかしら。殿下もお強くていらっしゃるのでしょう?」
「殿下にお尋ねしたら、ジェラルドには敵わないと苦笑いをしてらっしゃいましたの」
まぁ、みんなそれほど真剣にもやらないだろうしね。
どう考えてもジェラルドが大本命だよね。
モニカがフフフと笑う。何か良くないことを思い付いてる顔だ。間違いない。
「ミチル、ルシアン様に、もし優勝したらご褒美を差し上げるっておっしゃってみて下さいな」
ヤダよ! そんな何かのフラグ立ちそうなこと!
「それをおっしゃるのなら、モニカこそ」
「いいですわね。私、いつも口付けをしていただく側ですから、私からの口付けをご褒美ということで焚き付けてみますわ!」
こら、淑女の心を何処に置いて来たんだ……。
「それで、ミチルは何になさるの?」
「ルシアンが勝ちたいなら頑張って下さればいいですし、ご褒美だなんて言えませんわ」
恐ろしくて言えないよ、そんなの!!
そもそもそのテにはのらないぞ!
「ミチルは今度こそ、そのスケスケネグリジェでルシアン様を誘惑ですわよ。大丈夫! 出産は卒業後ですわ!」
なにそれ、なにかのキーワードなの?!
「!!」
翌日、フレアージュ家から屋敷に帰った私は、ベッドで眠るルシアンを初めて見た。
セラに今なら良いものが見れるわよー。そーっと気配を消して部屋に入るのよ! と言われた。
何の事か分からないものの、言われるままにそーっと部屋に入って、もうちょっとで叫びそうだった。
うわぁっ!
うわぁああああっ!
イケメンが寝てる……!
ね、寝顔……! 寝顔見たい……!!
念願の寝顔……!!
そっとそーっと近付いて、ルシアンの顔を覗き込む。
無造作にしてる黒髪が、額にかかってる。
わぁ……睫毛長い……鼻も高いし、輪郭もキレイだなぁ……。
こんなにマジマジとルシアンの顔を見るの、初めてかも。
いつもあまりのイケメンっぷりに、直視に耐えきれずに私が視線を逸らすから。
穏やかな寝息。
少し薄めの唇は閉じられてる。
私だったらうっすら開いてよだれ垂れてそうだけど、やはりこんなところもイケメンは違うのですね……!
はぁ……イケメン……これが私の夫とか、今だに信じられない時があるよ。
それにしてもよく寝てる。
毎日忙しそうだもんね。凄い疲れてるんだろうなぁ。
授業は受けてないものの、伯爵としての仕事に、お義父様の代理をしたりと、アレクサンドリアも私と一緒に見てくれてるし、働き詰めな気がする。
うむ、邪魔しないように、寝かせてあげよう!
本当は、ちょっとだけ頰に触れたいなとか思ったりするけど、起きちゃうといけないから我慢。
そーっとベッドから降り、ルシアンに背を向けて扉に向かおうとした瞬間、後ろから腰に手を回された。
「きゃっ!」
きゃって! きゃって言っちゃったよ?!
私、そんなキャラじゃないのにっ!
そのまま抱き寄せられ、ルシアンの身体に密着する。
ルシアンの唇が耳に触れた。
ひぃっ。
「ふふっ」
堪えきれないといった風に笑うルシアン。
「る、ルシアン! 寝たふりをしていたのですか?!」
寝顔! 初めて見れたと思っていたのにー!! 寝たふり!!
ルシアンの腕の中から逃げようとジタバタしてみたけど、びくともしないよ……。
やっぱり人間、腰をロックされると動けないね……。
「寝ていましたよ。扉の開く音で目が覚めて、そこからは寝たふりをしていました」
じゃあ、全然寝顔じゃないーっ!
っていうかあんな小さい音で目覚めるとか……アサシンか!
「目は閉じていましたから」
こめかみあたりにルシアンがキスをする。それから、頰。
「それは寝顔じゃありませんーっ!」
私は一体いつになったらルシアンの寝顔を見る事が出来るんだろうか。
さっきの寝たふり、も、良かったけど……。
「ミチルがいつ悪戯をしてくれるかと待っていたんですが、何もせずミチルが離れるのでつい」
えぇ……悪戯されるの待ってたの?!
「ミチルからキスされないかなと」
止めて! 耳元で言わないで!
あわわわ。このイケメン、色々と恐ろしいことを言ってますよ……!
この危険な流れを断ち切らなくては……。
「そ、そう言えば、秋に剣術大会があるのですね」
「ジェラルドの優勝でしょうね」
案の定の回答である。
「ルシアンは頑張らないのですか?」
「然程関心もありませんから」
「では、殿下とジェラルド様の一騎打ちになりそうですね」
王子はきっと、モニカからのキスの為に頑張るだろうし!
とは言え、ジェラルドの勝ちだろうけどね。
モニカからすれば、自分の為に頑張ってる殿下の姿を見るのは嬉しいだろうし。場合によっては優勝しなくてもご褒美もらえるかもよ、殿下!
「もし殿下が優勝したら、モニカから殿下にキスをするのだそうです」
モニカってば本当に積極的。そんな事を言葉にして伝えられるんだから、凄いよ。
そして人ごとだからか、ワクワクしてる自分がいます。是非王子に頑張っていただきたい!
「それで、ミチルは私に何をして下さるのですか?」
ぎくり。
「い、いえ、私は何も……」
慌てて首を横に振る。
あれ、私、細心の注意を払って、私とかルシアンについては触れてないよね?
「モニカ嬢が、ご自身だけそのような事を言う筈ありませんから、ミチルも何か約束させられたのでは?」
エスパーか!!
いや、でもあれは口には出来ない! 爆発する!!
「ルシアンが勝ちたいと思われるのであれば応援しますけれど、そのような事は考えておりません。
モニカはそうしたいようですけれど」
どうよ。この完璧な回答。非の打ち所がないじゃありませんか。
実際問題、私はひと言もご褒美については言ってませんからね!
「では、私もミチルからのご褒美の為に優勝を目指します」
「私の話を聞いて下さいませ!」
言ってない! 言ってないからそんな事、ひと言も!
「たとえば先日のを着て、私を誘惑して下さるとか?」
なんなの?!
モニカとルシアンってつながってるの?!
「嫌ですっ!」
そもそも、この前あんなに恥ずかしい思いして着たスケスケネグリジェを見ても、何もしなかったのはルシアンの方でしょ!
「少し考えてみますね」
「お待ちになって!」
私の意思を無視しないでー!!
*****
ゼファス様の諸国行脚が功を奏しているのか、どうなのか。
あれからひと月程経つので、ちょっと気になる。
「そろそろミチルが気になって仕方ない頃かと思ってね」
そう言ってお義父様はサロンのソファで寛いでいる。
アルト家はエスパーなのか? それとも私の思考回路が単純ってこと?
後者か……そんな気がする。
「聖下は精力的に各地を回られているよ。
各国の王族も、ウィルニア教団を何とかしたいという思いがあるからね、聖下に下るだろう。
皇族出身だからそういう意味でも下りやすい。うってつけだね」
ぽっと出の何だかよく分からない、薬物乱用教団なんか、信用出来ないよねぇ。
「各国の王族が聖下と手を組むのはね、それだけが理由ではないんだよ。彼らも貴族だから、どうしようもなければ平民を殺す事を厭わないからね」
さらっと言われて、背筋がぞわっとした。
平民の命は軽く扱われる。
それが国内に混乱をもたらそうとする存在なら尚更。
これまでもそうやって弾圧はされてきたのだろうし。
「アルト家が聖下を後援すると意思表示をしているし、なによりミチル、転生者の君に近付きたいからだよ」
アルト家って何者なんだ……。
私の考えを読んでお義父様が答える。
どうやらお義父様も私の考えが読めるらしい。
……私が単純だってこと?!
「別に大したことのない家だよ。ただ尾ひれが付いてるだけでね。我らはそれを利用しているだけだ」
絶対嘘だ!
「まぁ、ちょっと特殊な一族がいるけどね」
絶対ちょっとどころじゃない、特殊な一族と見た。
「私はそれほど価値のある人間ではないと思うのですが……」
実態がバレたらやばいんじゃないのか?
お義父様は、はははっと声を上げて笑った。
「ギルドの事も魔道の器の事も、もう諸外国に広まっているんだよ。ミチルの作った文房具もカーネリアン家が販売してるからね。
ルシアンの為に作った香水も腕時計も、全部君の発案だって既に知れ渡っている。皇国にもね。サファイアのことだってそうだし」
「え?! ですご、それをこちらに適する形になさったのは、皆さまですのに!」
「それは当たり前なんだよ。
大事なのは新しいものを作り出す能力なんだ。
今更ながらに燕国が、ミチルに古武術を教えたいと言っているらしいけれど、遅いね、判断が。
自国にしかないものを知ってる時点で、もう少し思慮深くすべきだったのに」
なるほど、私が転生者と知って、古武術教えてあげるから仲良くしましょう、って燕国は言って来てるのか……。
「それより、古武術を覚えたいのならルシアンから教わればいいのに」
は?!
隣で上品にほうじ茶ミルクティーを飲むルシアンをガン見する。
私の視線に気がついたルシアンはにっこり微笑んだ。
「る、ルシアンは古武術を使えるのですか?」
「皇都にいた際に燕国からの留学生が来ておりまして。基礎から教えていただきました」
のぉーーーーーーっ!
何故教えてくれない! と思ったけど、ルシアンに聞いてないのは私だ!
「海上戦の軍術についても教えていただいて、大変有意義でしたよ」
でも、セラが私の腕では無理だって言ってたもん。
アサシン集団に片足突っ込んでしまったけど、仕方ないことだったもん。
蘇るあのブートキャンプの日々……戻らない私の夏休み。
「あぁ、あの軍術の報告書は面白かった」
うんうんと頷くお義父様。
レポート書けるまで理解してるんだ、ルシアン……。
「そうだ、アレクサンドリア領で余ってる土地があったら、ハーブを育ててもらえないか?」
「中和用クッキーの為ですか?」
「そうだよ」
「アビスに調べてもらいます」
平地の多いアレクサンドリア領は、天候も安定してることが多いから、ハーブ育成は向いてるだろうな。
諸外国に向けて送るとなると結構な量が必要となるだろうし……とは言え、地植えすると恐ろしくハーブは繁殖するからなぁ……なるべく川とか岩に囲まれてる所がいいかな。
あ、種が飛んじゃったりするかも知れないなぁ……。
「アレクサンドリアといえば、ジュビリーの教会に行ったゼファスがとても驚いていたよ」
「何かおかしな所がございましたか?」
「ジュビリーの教会では孤児を引き取って世話をしているだろう。しかも勉強も教えている。
ゼファスは感銘を受けたようでね、各地の教会で同じことをさせると息巻いていたよ」
おぉ!
可哀想な孤児が一人でも減ってくれたらいい。
それにしてもジュビリーの教会を見て感銘を受けるだなんて、ゼファス様って実は優しい……。
「優秀な子供がいたらそのまま教会に仕えさせたいって言ってたよ。大変らしいよ、聖職者を育成するの」
優しくなかった!
自分の為だった!!
「あの職業訓練所も面白い試みだね。
無償で面倒は見ず、ちゃんと街の為に奉仕させつつ新しいことを覚えさせ、街への帰属心を植え付ける。実に無駄がなくて良い」
お褒めに与り恐縮です。
ただ、ドイツ式の生活保護を見習ってるだけなんだけどね。つまりドイツすげーってことだね。
「さて、これだけ説明すれば、ミチルが諸外国でどう見られているか、察しただろう?
君を手に入れたい人間は山ほどいるんだよ。
それにしても、王子に嫁がなくて良かったね」
よく見えるように誇張してるんだろうなぁ、この様子だと……。
王族の妃になった方が守られそうなイメージだけど。
逆に王族の方が縛りが多いってことなのか。
公務とかで諸外国に行かなくてはならないとかもあるだろうし、もし王子との間に子供が出来たら、転生者目当てに婚姻が増えたりとか……?
えっと、つまり、私は現状、凄い守られているってことだよね。
家の事もやらなくていいってルシアンが言ってるのは、もしかしてそういう事も関係しているのでは?
いくらアルト家が有力でも、辺境の国の一貴族に過ぎないから、手を出しづらいってことだろうし。
はー……一体何処までこの人たちの考えは及んでるんだろう……本当凄いな……。
ルシアンの袖を引っ張る。
「あの、ルシアン……」
「はい」
「いつも、守って下さってありがとう」
優しく微笑んで、どういたしまして、と答えると、私の瞼にキスをする。
「!」
父親の前なのに!
「早く孫を抱きたいな」
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