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第一章 学園編
052.言葉の壁は高いのです
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セラの疑問は的を射ていたようで、 皇女はカーライル王国で使われる言語を、まったく覚えて来てなかった。
挨拶すら、である。
よく来たね?!
その為、講義を受け持つ教師陣から、講義を受けさせられないとの声が学長に上がった。
何故なら、皇女はディンブーラ皇国語で授業をしろと教師に命令し、授業の進行を妨害した。
結果として、皇女は学園開始からたった一週間で城に閉じ込められることになった。
「国語教師が毎日カリキュラムを組んで皇女に教えることになったよ。
どのぐらいでマスターするかは、皇女次第だね」
キラキラした笑顔で王子が言った。
素朴な疑問なんだけれど、まっとうなカリキュラムなのだろうか……。
「どうするつもりだったんだよ……あの姫」
ジェラルド、それは言わないであげて。
皇女パワーで全てを乗り越えるつもりだったんだろう……。
それが通用してきた皇国の内情がそもそもおかしい。
「皇女そのものはルシアンを連れて皇国に戻るつもりだから、ロストア語を覚える気なんてないだろうしね」
ロストア語というのは、カーライル王国、ハウミーニア王国、サルタニア王国で主に使われている言語だ。
だから皇女として覚えるメリットが何一つない。
これはあれですか。
ロストア語を覚えられなかった場合は、学期末の順位表に最下位もしくは、欄外に名前書かれちゃうとかいう、大変ハズカシイ展開ですかね。
学園としては、皇女だからといって特別扱いはしない、という約束で編入を受け入れたとのことなので、それが守られないなら皇女は学園にいられなくなる。
学園にいられないということは、カーライル王国にもいられなくなる、ということだ。
となると死活問題だから、本気でやるのかなぁ。
私の見た感じ、皇女は己の美貌のみに心血を注ぐタイプだと思うんだけどね。
「ちなみに、覚えられないで留年になりそうな場合は、さすがに皇女にそんなことさせられないからね、ご帰国いただく予定」
「でも、そのぐらいでへこたれる姫なら、こんなに苦労しないと思いますが」
何故かちゃっかり?ランチに加わっているフィオニア様が言った。
この前のあーん、は皇女に見せ付ける為だったようで、今は行われない。ありがたい……アレを毎日とか、HPが削れてしまう……。
「確かに……」
「取り巻きの方たちはどうするのかしら?」
皇女に付き合えば単位が得られない。でも皇女にあるような恩恵は存在しないから、留年が確定して、不名誉なことになる。
不憫過ぎる……。
主としていただくには程度の低い皇女に、親の命令で付いて行くことになっただろうに、わずか一週間でこの状況……。
不遇過ぎて可哀相に思えるレベルだ。
まぁ、助けないんだけど。
「あらあら、皇女ったらそんなことになってるのぉ? ホント話題性の尽きない姫だわぁ」
褒めてるんだか貶してるんだか、ギリギリな表現ですね、セラさん。
ランチを終えて私たち五人は研究室に移動した。
「じゃあ、これは不要だったかしら?」
そう言って私に差し出されたのは、先日私がセラに頼んでいた鉄扇だ。
一般的な扇子で、張られた布は私の好きな青がグラデーションになっていて、印象が冷たくなりすぎないようになっている。
海のようでとてもキレイ。鉄扇だけど。
そして、やはり重いです。トレーニングになりそう。
「あとこれもよー」
もう一つ出されたのは、白い塗料でコーティングされ、細身だ。持ち手のところから、青、緑、水色の3色の飾り紐が結ばれていて、とてもキレイだ。
扇子そのものはシンプル。
「え、何故二つも? 私は皇女殿下のように折ったりはしないわよ?」
っていうかやっても折れないと思うけど。
うふふー、とセラは楽しそうに笑うと、その扇子をハーフアップにした私の髪に差し込んだ。
確かに扇子にしては細いけど、何故髪に?
「一つ目の扇子が手元にない時に、髪から取って使えるようによ。あ、重くないでしょ? 軽いけどとっても丈夫な金属で作られてるの」
へー。
「髪飾りに見えるようにしてあるのよ、よく出来てるでしょう」
世の中色んな扇子があるんだなぁ……こんな不測の事態を考えた扇子があるってことが凄いヨ……。
「なかなかなお値段だったのだけれど、ミチルちゃんを愛して止まない旦那様が気前よくお支払いして下さったから安心してね☆」
はっ!
「そ、それはいけませんわ!」
それ全然安心出来ない奴!
「もういただいちゃって支払っちゃったし、ルシアン様に言ってもいくらかかったか教えてくれないと思うわよぉ? 諦めなさい?」
ルシアンをちらっと見ると、にっこり微笑まれた。
「今度は鉄の入ってない扇子はいかがですか?」
更なる浪費の提案をされ、思わず視線を逸らしてしまった。
……ルシアンは私に甘すぎる。
「扇子には見えませんわね。飾り紐がミチルが動くたびに揺れてとても優雅ですわ」
モニカに褒められた。
「でも、さすがにこの扇子は流行らせられませんわねぇ」
不測の事態用に、髪飾りに擬態した鉄扇が淑女内で流行る国とか、恐ろしいから止めて下さい……!
「護身用に私からもモニカにプレゼントしようかな?
私のモニカは美しい上に愛らしいし、王太子妃だからね、連れ攫われてしまわないように」
王子の甘い言葉にモニカは顔を真っ赤にして俯いてしまってるけど、思い出して! これ鉄扇だから!
頰を赤らめて喜ぶプレゼントじゃないから!
その後、モニカからカフェの客の入りは好調であること、予約はいつも満杯だということを教えてもらった。
「半年ぐらい経ちましたら、季節の催しを行いたいです」
季節の催し? と、みんなが問い返す。
「夏でしたら、冷たいお菓子、秋ならかぼちゃや栗、さつまいもを使ったお菓子、冬ならチョコレート、春ならイチゴといったように、その季節でしか楽しめない商品を提供して、旬のものを楽しむのです。
落ち着いたらお持ち帰り可能なお菓子も提供したいのです。後は軽食のメニュー拡充ですね」
「そんなにアイデアがあるのに、何故最初から出さないんだ?」
ジェラルド、君は商売のなんたるかが分かっておらんね!
「少しずつ改善されていくから、いいのですわ。
以前より良くなってる、以前にはなかったもの、そういったものが行く度に増えていくからこそ、楽しいのです」
「いいですわね! ステキですわ!!」
モニカなら分かってくれると思ってました!
「最初から完璧なのを出された方がいいと思うんだけど、それじゃ駄目なのか」
納得のいかないジェラルドに、「君のロザリー嬢は今でも充分ステキなんだろうけど、これからもっとステキになるだろう。ジェラルド、君はいきなり完成されたロザリー嬢がいいかい? それとも、一緒にいて、色んなロザリー嬢を見ていくのと、どちらがいい?」と、妙な例えをしていた。分かるような、分からないような……。
とりあえずジェラルドが婚約者のこと好きすぎて引く、ってことぐらいか……。
なるほど、と呟いた後、ジェラルドが私たちに「すまなかった、オレはまだまだだな」と謝ってきた。
そ、そうか……分かってもらえて良かったよ……。
封印された皇女は、ルシアンを登城させろと相変わらずのたまってるらしく、悪い意味でブレない。
どうも、ロストア語をルシアンから習いたいと言ってるらしい。
よくもまぁ、色々と思い付くものだなぁ……尊敬する。
無論、却下されているけど。
王室としては、皇女を受け入れ、皇女が問題なく自国内で学問に取り組んでもらえるように最大限のことをしました、の体を取りたい訳で。
マンツーマンのロストア語教育は、その一環、とのこと。
「二週間が経つけど、まったくといっていい程進んでないとの報告を受けているね」
さすがですわ。
教えることになった教師も大変だな……。
「ミチル、王妃様主催のお茶会にご招待したいのですけれど、アレクサンドリア領のお仕事でお忙しいかしら?」
いくらなんでも、私も貴族の端くれなので、王妃様からのご招待を蹴ったりはしません。
「大丈夫ですわ。お日にちが決まりましたら、教えて下さいませね」
「ありがとう、ミチル」
モニカは王妃教育の中で、王妃としてのお茶会の開き方など、色々なことを学んでいるらしい。
周辺諸国からの使節との会食等もそうだし、重要な夜会には参加しなくてはならない。
それにしても、王城での王妃様主催のお茶会か……不安……。
敵のとこにわざわざ行くようなものだし。
「これまで皇女様は、王妃様がいくらお誘いしてもご参加にならないから、今回も大丈夫なのではないかしら」
私の不安を読み取ったモニカが言った。
「最初はご参加になったのですけれど……ご自身が主役になれないことにお怒りになって、王妃様に暴言をお吐きになられて……これにはさすがに抗議をさせていただいたみたいですわ」
皇女、もっかい幼児から躾直してもらってきて!!
「それに今回のお茶会に皇女様はお誘いしない予定なの。
王妃様がミチルにお会いしたい為に開くお茶会なのよ?」
えぇ? な、何故私なんかに……。
「先日陛下とはお会いになられたでしょう」
えぇ、と頷く。
「その話を陛下が王妃様になさって、殿下も学園でミチルと接点がありますし、それでご自身もミチルに会いたいとおっしゃられて」
会いたい理由が分からないけど、よく分からないハードルだけがガンガン上がってることだけはよく分かった。
「お茶会用に新しいドレスを用意しましょう、ミチル」
「何をおっしゃってますの。そんな勿体無いこと出来ませんわ」
またこのイケメンは、無駄な浪費を……。
「母上のストレスが大分溜まっておりまして、大変なことになっているのです」
そう言って視線を伏せるルシアン。
えっ、お義母様のストレスが溜まると何があるの? ねぇ、なんだか怖いんだけど?
「お願いします、ミチル」
「わ、分かりましたわ……」
追い討ちのように、セラがケラケラと笑いながら、「大奥様、怖いものねぇ」と言った。
いつも朗らかなお義母様がストレスフルになるとどうなるのか、ちょっと想像もつかないけど……。
ルシアンがこんな反応をするってことは、よっぽどなんだろう……そしてそれは聞いちゃいけない気がスル。
アルト家お抱えの研究施設でのトマト育成は順調に進んでいるとのことで、五月上旬に苗を畑に植えようということになった。
あらかじめ畑と同じ塩分濃度に調整している為、理屈でいけば問題ない筈。
最悪実がならなくても、地中の塩分濃度が下がっていってくれればいいかなと思っている。
アレクサンドリア領の全ての土地が塩害被害に合ってる訳でもないから。
岩塩を採取出来るだけした後は、鹿の数も減って姿も見ないとのことで、山や畑に被害も拡大しなさそうなので、今のところ安心している。
採取した岩塩はお義父様とラトリアお義兄様、王子、モニカ、ジェラルドにプレゼントし、少し取って置いて後は商人ギルドに卸した。
思った通り、見た目と珍しさと数がないの三拍子揃っていたので、新しもの好きの貴族間で好まれ、在庫分は全て売れたとのこと。
上々です!
お陰でちょっと予定外の収入があったので、これはアレクサンドリア領の為に取っておこう。
トマトを植えたらジュビリーに行きたい。
爵位も正式に賜ったし、領民に顔を見せるのも領主の務めだと思うから。
挨拶すら、である。
よく来たね?!
その為、講義を受け持つ教師陣から、講義を受けさせられないとの声が学長に上がった。
何故なら、皇女はディンブーラ皇国語で授業をしろと教師に命令し、授業の進行を妨害した。
結果として、皇女は学園開始からたった一週間で城に閉じ込められることになった。
「国語教師が毎日カリキュラムを組んで皇女に教えることになったよ。
どのぐらいでマスターするかは、皇女次第だね」
キラキラした笑顔で王子が言った。
素朴な疑問なんだけれど、まっとうなカリキュラムなのだろうか……。
「どうするつもりだったんだよ……あの姫」
ジェラルド、それは言わないであげて。
皇女パワーで全てを乗り越えるつもりだったんだろう……。
それが通用してきた皇国の内情がそもそもおかしい。
「皇女そのものはルシアンを連れて皇国に戻るつもりだから、ロストア語を覚える気なんてないだろうしね」
ロストア語というのは、カーライル王国、ハウミーニア王国、サルタニア王国で主に使われている言語だ。
だから皇女として覚えるメリットが何一つない。
これはあれですか。
ロストア語を覚えられなかった場合は、学期末の順位表に最下位もしくは、欄外に名前書かれちゃうとかいう、大変ハズカシイ展開ですかね。
学園としては、皇女だからといって特別扱いはしない、という約束で編入を受け入れたとのことなので、それが守られないなら皇女は学園にいられなくなる。
学園にいられないということは、カーライル王国にもいられなくなる、ということだ。
となると死活問題だから、本気でやるのかなぁ。
私の見た感じ、皇女は己の美貌のみに心血を注ぐタイプだと思うんだけどね。
「ちなみに、覚えられないで留年になりそうな場合は、さすがに皇女にそんなことさせられないからね、ご帰国いただく予定」
「でも、そのぐらいでへこたれる姫なら、こんなに苦労しないと思いますが」
何故かちゃっかり?ランチに加わっているフィオニア様が言った。
この前のあーん、は皇女に見せ付ける為だったようで、今は行われない。ありがたい……アレを毎日とか、HPが削れてしまう……。
「確かに……」
「取り巻きの方たちはどうするのかしら?」
皇女に付き合えば単位が得られない。でも皇女にあるような恩恵は存在しないから、留年が確定して、不名誉なことになる。
不憫過ぎる……。
主としていただくには程度の低い皇女に、親の命令で付いて行くことになっただろうに、わずか一週間でこの状況……。
不遇過ぎて可哀相に思えるレベルだ。
まぁ、助けないんだけど。
「あらあら、皇女ったらそんなことになってるのぉ? ホント話題性の尽きない姫だわぁ」
褒めてるんだか貶してるんだか、ギリギリな表現ですね、セラさん。
ランチを終えて私たち五人は研究室に移動した。
「じゃあ、これは不要だったかしら?」
そう言って私に差し出されたのは、先日私がセラに頼んでいた鉄扇だ。
一般的な扇子で、張られた布は私の好きな青がグラデーションになっていて、印象が冷たくなりすぎないようになっている。
海のようでとてもキレイ。鉄扇だけど。
そして、やはり重いです。トレーニングになりそう。
「あとこれもよー」
もう一つ出されたのは、白い塗料でコーティングされ、細身だ。持ち手のところから、青、緑、水色の3色の飾り紐が結ばれていて、とてもキレイだ。
扇子そのものはシンプル。
「え、何故二つも? 私は皇女殿下のように折ったりはしないわよ?」
っていうかやっても折れないと思うけど。
うふふー、とセラは楽しそうに笑うと、その扇子をハーフアップにした私の髪に差し込んだ。
確かに扇子にしては細いけど、何故髪に?
「一つ目の扇子が手元にない時に、髪から取って使えるようによ。あ、重くないでしょ? 軽いけどとっても丈夫な金属で作られてるの」
へー。
「髪飾りに見えるようにしてあるのよ、よく出来てるでしょう」
世の中色んな扇子があるんだなぁ……こんな不測の事態を考えた扇子があるってことが凄いヨ……。
「なかなかなお値段だったのだけれど、ミチルちゃんを愛して止まない旦那様が気前よくお支払いして下さったから安心してね☆」
はっ!
「そ、それはいけませんわ!」
それ全然安心出来ない奴!
「もういただいちゃって支払っちゃったし、ルシアン様に言ってもいくらかかったか教えてくれないと思うわよぉ? 諦めなさい?」
ルシアンをちらっと見ると、にっこり微笑まれた。
「今度は鉄の入ってない扇子はいかがですか?」
更なる浪費の提案をされ、思わず視線を逸らしてしまった。
……ルシアンは私に甘すぎる。
「扇子には見えませんわね。飾り紐がミチルが動くたびに揺れてとても優雅ですわ」
モニカに褒められた。
「でも、さすがにこの扇子は流行らせられませんわねぇ」
不測の事態用に、髪飾りに擬態した鉄扇が淑女内で流行る国とか、恐ろしいから止めて下さい……!
「護身用に私からもモニカにプレゼントしようかな?
私のモニカは美しい上に愛らしいし、王太子妃だからね、連れ攫われてしまわないように」
王子の甘い言葉にモニカは顔を真っ赤にして俯いてしまってるけど、思い出して! これ鉄扇だから!
頰を赤らめて喜ぶプレゼントじゃないから!
その後、モニカからカフェの客の入りは好調であること、予約はいつも満杯だということを教えてもらった。
「半年ぐらい経ちましたら、季節の催しを行いたいです」
季節の催し? と、みんなが問い返す。
「夏でしたら、冷たいお菓子、秋ならかぼちゃや栗、さつまいもを使ったお菓子、冬ならチョコレート、春ならイチゴといったように、その季節でしか楽しめない商品を提供して、旬のものを楽しむのです。
落ち着いたらお持ち帰り可能なお菓子も提供したいのです。後は軽食のメニュー拡充ですね」
「そんなにアイデアがあるのに、何故最初から出さないんだ?」
ジェラルド、君は商売のなんたるかが分かっておらんね!
「少しずつ改善されていくから、いいのですわ。
以前より良くなってる、以前にはなかったもの、そういったものが行く度に増えていくからこそ、楽しいのです」
「いいですわね! ステキですわ!!」
モニカなら分かってくれると思ってました!
「最初から完璧なのを出された方がいいと思うんだけど、それじゃ駄目なのか」
納得のいかないジェラルドに、「君のロザリー嬢は今でも充分ステキなんだろうけど、これからもっとステキになるだろう。ジェラルド、君はいきなり完成されたロザリー嬢がいいかい? それとも、一緒にいて、色んなロザリー嬢を見ていくのと、どちらがいい?」と、妙な例えをしていた。分かるような、分からないような……。
とりあえずジェラルドが婚約者のこと好きすぎて引く、ってことぐらいか……。
なるほど、と呟いた後、ジェラルドが私たちに「すまなかった、オレはまだまだだな」と謝ってきた。
そ、そうか……分かってもらえて良かったよ……。
封印された皇女は、ルシアンを登城させろと相変わらずのたまってるらしく、悪い意味でブレない。
どうも、ロストア語をルシアンから習いたいと言ってるらしい。
よくもまぁ、色々と思い付くものだなぁ……尊敬する。
無論、却下されているけど。
王室としては、皇女を受け入れ、皇女が問題なく自国内で学問に取り組んでもらえるように最大限のことをしました、の体を取りたい訳で。
マンツーマンのロストア語教育は、その一環、とのこと。
「二週間が経つけど、まったくといっていい程進んでないとの報告を受けているね」
さすがですわ。
教えることになった教師も大変だな……。
「ミチル、王妃様主催のお茶会にご招待したいのですけれど、アレクサンドリア領のお仕事でお忙しいかしら?」
いくらなんでも、私も貴族の端くれなので、王妃様からのご招待を蹴ったりはしません。
「大丈夫ですわ。お日にちが決まりましたら、教えて下さいませね」
「ありがとう、ミチル」
モニカは王妃教育の中で、王妃としてのお茶会の開き方など、色々なことを学んでいるらしい。
周辺諸国からの使節との会食等もそうだし、重要な夜会には参加しなくてはならない。
それにしても、王城での王妃様主催のお茶会か……不安……。
敵のとこにわざわざ行くようなものだし。
「これまで皇女様は、王妃様がいくらお誘いしてもご参加にならないから、今回も大丈夫なのではないかしら」
私の不安を読み取ったモニカが言った。
「最初はご参加になったのですけれど……ご自身が主役になれないことにお怒りになって、王妃様に暴言をお吐きになられて……これにはさすがに抗議をさせていただいたみたいですわ」
皇女、もっかい幼児から躾直してもらってきて!!
「それに今回のお茶会に皇女様はお誘いしない予定なの。
王妃様がミチルにお会いしたい為に開くお茶会なのよ?」
えぇ? な、何故私なんかに……。
「先日陛下とはお会いになられたでしょう」
えぇ、と頷く。
「その話を陛下が王妃様になさって、殿下も学園でミチルと接点がありますし、それでご自身もミチルに会いたいとおっしゃられて」
会いたい理由が分からないけど、よく分からないハードルだけがガンガン上がってることだけはよく分かった。
「お茶会用に新しいドレスを用意しましょう、ミチル」
「何をおっしゃってますの。そんな勿体無いこと出来ませんわ」
またこのイケメンは、無駄な浪費を……。
「母上のストレスが大分溜まっておりまして、大変なことになっているのです」
そう言って視線を伏せるルシアン。
えっ、お義母様のストレスが溜まると何があるの? ねぇ、なんだか怖いんだけど?
「お願いします、ミチル」
「わ、分かりましたわ……」
追い討ちのように、セラがケラケラと笑いながら、「大奥様、怖いものねぇ」と言った。
いつも朗らかなお義母様がストレスフルになるとどうなるのか、ちょっと想像もつかないけど……。
ルシアンがこんな反応をするってことは、よっぽどなんだろう……そしてそれは聞いちゃいけない気がスル。
アルト家お抱えの研究施設でのトマト育成は順調に進んでいるとのことで、五月上旬に苗を畑に植えようということになった。
あらかじめ畑と同じ塩分濃度に調整している為、理屈でいけば問題ない筈。
最悪実がならなくても、地中の塩分濃度が下がっていってくれればいいかなと思っている。
アレクサンドリア領の全ての土地が塩害被害に合ってる訳でもないから。
岩塩を採取出来るだけした後は、鹿の数も減って姿も見ないとのことで、山や畑に被害も拡大しなさそうなので、今のところ安心している。
採取した岩塩はお義父様とラトリアお義兄様、王子、モニカ、ジェラルドにプレゼントし、少し取って置いて後は商人ギルドに卸した。
思った通り、見た目と珍しさと数がないの三拍子揃っていたので、新しもの好きの貴族間で好まれ、在庫分は全て売れたとのこと。
上々です!
お陰でちょっと予定外の収入があったので、これはアレクサンドリア領の為に取っておこう。
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