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第十話

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森の中をロベルトと軍人の一行は街に向けて進んでいた。
先頭をいくロベルトにヴィクトルが馬を寄せる。

「王太子殿下、もう城へ戻りましょう。陛下も皇后も大変にご心配なさっております」
「僕は戻らない」

ロベルトは前を向いたまま短く答える。

「君はもう下がってくれない? ユーリはどこ?」
「こちらに」

ヴィクトルと入れ替わるようにして馬を進めたのは、身長の高い青年だった。
紫がかった長い赤髪を高い位置でまとめている。

「魔女の書について、何か手掛かりは?」
「エルノヴァの魔女は薬草の扱いに長けた魔女、彼女のハーブに関する研究記録がのちに書物としてまとめられたようです。この地ではいくつかの家に写しがあり、生活の中の知恵として根付いているようです。そのうちの一つを譲っていただくことができました」
「ありがとう、助かるよ」

ユーリは恭しく頭を下げると一冊の古い書物を差し出した。
表紙はすっかり古びて汚れてしまっている。片手でぱらぱらとめくると、中にはあらゆる筆跡で書き込みがされていた。たくさんの人の手を渡り受け継がれてきたことが分かる。

「それともう一つ」

ユーリに声を掛けられ、ロベルトが顔を上げる。

「殿下が姿を消された日から、馬の世話係が1名行方不明となっております。素性を探らせておりますが、おそらく反体制派の手先かと」
「だろうね。逃げた奴はもう見つからないと思う。行方はいいから、ルーツをたどって」
「かしこまりました」
「あ、それと」

ロベルトに呼びとめられユーリは顔を上げた。

「僕は明日から自分で着替えるから。手をだすなよ」

片手に隠れるようにして顔を真っ赤にした若き王太子を目の当たりにし、ユーリはほほ笑む。
(森で姿を見失った時はどうなるかと思いましたが……。いい経験ができたようですね)

「なんだ、何にやにやしてるんだ」
「いえ、なんでもございません」

ユーリは涼しげな口調で答えた。
ロベルトは不満そうに頬を膨らませている。

この小さな身体に背負わされたいくつもの重荷を、たった一晩でも下ろせたのなら――。

ユーリは恐れることなくヴィクトルを見上げていた白銀の髪の少女を思いだした。
(彼女に感謝しなければいけませんね)
ユーリはにっこりとほほ笑むと、小さな主人の背中を追い、馬を走らせた。
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