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公爵領と帝国の皇子(みこ)

帝国の皇子×猫妖精

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「もし。そこの旅の高貴なお方々様。私のようにゃ者が突然御前に現れた事をお許しください。
 私は、流浪の旅人キアラン。
 良ければ食料を分けて頂きたく。人族が望む先立つ物は御座いませんが、この野草と交換をしていただけないでしょうか」

 二足歩行の猫…キアランはそういうと、肩に背負っていた立派な杖の先に括り付けていた包みから巨大な白いキノコと野草などを出した。
 クヴァルさんが「おおっ」て思わず声を上げている。貴重な野草なのかもしれない。ちょっと鑑定がしたいけど今は我慢しておこう。

「わかりました。携帯できる食料をお渡しいたしましょう。それとは別によろしかったら御一緒にこちらで食べて行かれませんか?」

「喜んでご相伴にあずからせて頂きます」

 護衛たちの反対を押し切り、母様が二足歩行の猫……キアランに食事を勧めた。キアランは手を胸に当て優雅にお辞儀をすると、スキップしそうな程浮かれたクヴァルさんに野草などを手渡し、天幕の中の椅子によじ登る。

 このような妖精族の旅人同士の物々交換はよくあるようで、ペネロペ先生がこっそり教えてくれた。こういう時は余裕があるなら断らず受け入れるそうだ。

 俺とティーモ兄様は、目の前に座るキアランのゆらゆら揺れる長くてスマートな尻尾に目が固定されている。

『おっきな黒トラ猫が! 歩いて喋って座ってる……!』

『ふふっ。彼らの種族名はケット・シー。文字通り猫の妖精なのですよ。きっと那由多は好きだと思ったのですが……』

『……たしかに。好きだ』

 好きか嫌いかで言われれば、確実に好きの部類である。だって二足歩行の巨大な猫だよ?ふわふわもふもふな体毛に大きな瞳。しかも喋っている。

 妖精族のご親戚の獣人族な方たちは、体毛も部分的にしかなくて人族と近しいし、全身毛に覆われた獣の姿をした獣人族の人たちも、爪とか鋭くて長くて身体中に毛はあるけれど、手とか足とか人族と同じ形だし。どこか人という括りから外れない姿をしていた。

 でもこの妖精族のケット・シーは、完全に猫が二足歩行している姿だ。

 母様に許可を得たケット・シーは、ピリピリする神兵姿の護衛を他所に、リラックスして椅子に座り、早速出されたフィッシュアンドチップスを遠慮なく堪能していた。

「これはうまい!今まで帝国を旅して来ましたが、この料理は北の帝国で1番美味しい料理です」

 ビネガーをたっぷり吸った魚の衣にグリーンピースをマッシュしたものや、クヴァルさん特製タルタルソースをたっぷりつけて、それもうまいあれもうまいと絶賛していた。
 褒められたクヴァルさんは、こちらもどうぞと海老のビスクやムニエルなど喜んで給仕をしている。そばには保存食を用意し、大きな葉っぱで包んでキアランの横に置いていた。

 やがてお腹がいっぱいになったキアランにお茶と食後のお菓子をすすめ、遠慮なく食べてくつろいでいるキアランに母様が問いかけた。

「旅のお方、12年ほど前にモルゲンフルスの静かな森で野営をされていませんでしたか?」

「12年前……ああ。そう言えば12年前、静かにゃ森に住む従兄弟に子供が生まれましてね。しばらく滞在したことがあります。今回も従兄弟に会いに、静かにゃ森に行こうかと思いまして、向かっている所です」

 キアランは顎に手をやり、ちょっと悩んだけれど、ぽむっと手を打って思い出した様に答える。

「やっぱり! お名前を聞いてもしやと思ったのです。12年前、私はこの位の背丈で、森で迷子になっている所を貴方に助けていただいたのです!」

 お?母様が子供の時に助けてもらった事があるのか?この位って、ティーモ兄様より小さな丈を手で表してる。

「……静かにゃ森……迷子……もしかして、アンちゃんかい?とっても大きくなってびっくりしたよ。人族は数年会わないとすぐに変わってしまうから気が付かなかった」

「はい! 是非御礼をしたかったのですが、あれから森を探してもキアラン様は見当たらず、次に出会えたら必ず御礼をしようと思っていたのです。何か他に旅で必要なものはありますか?困っていることはありませんか?」

 珍しく母様が押し気味だ。よっぽど古い恩人に会えて嬉しいんだな。

「いやいや、このご馳走で充分御礼を貰ったし、たっぷりと物々交換してもらったしね。ありがとうアンちゃん」

「そうですか……あ! 私達はモルゲンフルスの街へ向かっているのです。もし、静かな森に行かれるのであれば宜しければご一緒しませんか?」

 神兵の格好をした護衛さんたちが渋い顔をしているけど、押し押しの母様はお構いなしにキアランを誘っていた。

「ではお言葉に甘えて御一緒させて頂こうかな?面白そうな子もいるし」

 ニコッと顔を向けられ思わず笑顔で返してしまった。面白そうな子って俺か?もしや。


 そんなこんなで旅の仲間が突然1人増える事になった。


______________________



クヴァル「すごい!本物のジャイアントホワイトマッシュルームだよ!!初めて見た!!」

エルミナ「カレーに入れてもシチューに入れても美味しそうですね」

エルザ「ここはやっぱりステーキではないですか?でもいくら大きくてもこれじゃみんなに行くつくには量が少ないからやはりスープ系の方がいいですかね?」

クヴァル「いっそ俺たちと那由多様と皇后殿下とティーモさまで」

エルミナ・エルザ「おいおい」



◇◆◇◆◇


猫妖精ケットシーやっと出せました。旅装に杖の先に荷物をくくりつけてます。
棒に荷物をつけるスタイルの名前は一応あるのですがよくない意味もあるのでここでは自重いたしました。



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