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公爵領と帝国の皇子(みこ)
帝国の皇子×森の中にて
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馬車は帝都の正門を出てから、商人や冒険者たち旅人で混雑する整地された街道を抜け、一面に広がる麦が刈り取られた広大な畑の間にある畦道をゆったりと進む。
晴れ渡った空にふんわり浮かぶ雲を見ていると長閑だなぁと感じた。
やがて馬車は森に入り、旅人などの人影が見えなくなると、各馬車の御者たちが魔法陣を発動させ、馬車を数センチだけ浮かせはじめる。
実は以前、帝国に入国する際に、魔馬達の筋力……縮地かと思っていたのが、後でステータスを見たら筋力強化をして力による地面を蹴り上げる力で飛ぶように走っていただけだった。いや。ある意味縮地なのか……? それによって、馬車自体の耐久性が心配になったので黒髭の穴蔵の家具職人、ドゥリンさんに馬車に少しだけ地面から浮く魔法陣をちょっと無理を言って刻んでもらったんだ。
魔道具もあるそうだが、燃料となる魔石の燃費が悪いので御者の魔力を使い、魔法陣を発動させたほうがいいと言われたのでそのようにしてもらった。
これならば壊れるかと懸念していた車輪に負荷がかからないし、馬も後ろでガタガタ揺れる箱よりも宙に浮いている箱の方が運びやすいと思う。
まぁ馬車が宙に浮いているだけならば、振り子の様に振り回されて御者や内に乗ってる人間がシェイクされてしまうのでは? と思ったけれど、馬との距離や角度、馬が止まった時の馬車にかかる重力の加速度を落とすなどの調整が入り、ドゥリンさん曰く、
「そこら辺は普段なら魔法陣を刻むのが苦手だからお断りだが、お得意様だからよ。やり始めたら興が乗ってちょいとサービスしておいたぞ!」
との事。流石妖精の箱庭を作った一族の末裔。サービスがありがたい。
そうそう、公爵家の軍馬は代々続く名門の軍馬だけあって、スキルをもつ馬を代々交配させ、それこそ土属性の魔力を使った縮地というスキルをしっかりと持っていた。足運びもエレガントで「黒き森の王」と言う名に相応しい。
自由に森で過ごしていた野生の魔馬と、公爵家で大切に飼育されてきた軍馬であるから、厩舎や放牧場では折り合いが悪いかなぁと思っていたけれど、人間の心配は他所に、馬は群れる生き物なので、案外魔馬達は先住の軍馬に敬意を払い上手くやっていた。放牧されている間は軍馬に力比べを挑んだり、縮地なんかも教えてもらっていたそうな。野生の魔馬は生き抜く為のコミュ力が高かった。可愛がっていた魔馬達との戯れが少し減ったクヴァルさんたちが、ちょっと寂しそうにしていたが。
そうこうしてるうちに全体の出発準備が整い、威勢のいい掛け声が聞こえてきた。
俺と同じ馬車には母様とティーモ兄様、俺の教育係のペネロペ先生が乗っている。
母様とティーモ兄様、そして俺はそのまま平静に、
「あーそろそろ出発するんだなぁ」
と、外を見ながら思っていたら、ペネロペ先生が必死に手摺にしがみついていた。と言うか、乗った時から青い顔をして必死に手摺につかまっていて、静かだったので存在がほぼ空気になっていた。
あー。失敗したかも。シートベルトとかつけて貰えばよかったかなぁ。アルも御者が魔力を使っているせいか毛を逆立てている。
「ペネロペ夫人、大丈夫ですか? 馬車を停めて荷馬車で横になりますか?」
母様がペネロペ先生のことを心配し声をかけるが、ペネロペ先生は小刻みに首を横に振り、このままで大丈夫だと断っていた。
「皇后陛下、温かいお言葉ありがとうございます。しかし、公爵領に着くまでこの旅に慣れたいと思いますので、お見苦しい姿をお見せしてしまいますが、お許しくださいませ」
「ペネロペ夫人、ダメそうでしたらいつでも仰ってね。あと陛下はやめてちょうだい。アンとお呼びになって」
そう言う母様を見ながら、
「既に馬車は動き始めていますよ」
と、ティーモ兄様が話しかけると、ペネロペ先生は馬車がほとんど揺れていない事にびっくりしていた。
「私てっきり……アン様、お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」
「いいえ、構わないわ。私も、もうちょっと揺れるかと思って脅かしてしまいましたから。ね、ナユタが何かしてくれたのかしら?」
母様がこちらに話を振ってきたので、黒妖精の穴蔵のドゥリンさんのことを話した。
そうして馬達の休憩が入るまで、馬車は何事もなくズンズンと森を進んでいった。
『おや? 珍しい。この先の泉に妖精族がいますよ』
外を見るのに飽きて俺の膝でウトウトするアルを撫でながら森をなんとなく鑑定していると、ツクヨミが突然話しかけてきた。
『え?妖精族?エルフとかドワーフとかか?』
『そうです。細かい種族としては違いますが……きっと那由多が好きな種族だと思いますよ』
ふふっと笑いながらツクヨミが意味深なセリフを残す。
はて。俺が好きそうな種族ってなんだろう?
お酒を作るのがうまい妖精とか?ちょっと会うのが楽しみになってきた。
神眼はまだ皇帝が言う細く魔力を流すってことが慣れないから、意思疎通ができる相手にはとりあえず自重して我慢する。
どんな妖精がいるのだろう。
やがて馬車は青々と水面が揺れる泉にたどり着いた。
晴れ渡った空にふんわり浮かぶ雲を見ていると長閑だなぁと感じた。
やがて馬車は森に入り、旅人などの人影が見えなくなると、各馬車の御者たちが魔法陣を発動させ、馬車を数センチだけ浮かせはじめる。
実は以前、帝国に入国する際に、魔馬達の筋力……縮地かと思っていたのが、後でステータスを見たら筋力強化をして力による地面を蹴り上げる力で飛ぶように走っていただけだった。いや。ある意味縮地なのか……? それによって、馬車自体の耐久性が心配になったので黒髭の穴蔵の家具職人、ドゥリンさんに馬車に少しだけ地面から浮く魔法陣をちょっと無理を言って刻んでもらったんだ。
魔道具もあるそうだが、燃料となる魔石の燃費が悪いので御者の魔力を使い、魔法陣を発動させたほうがいいと言われたのでそのようにしてもらった。
これならば壊れるかと懸念していた車輪に負荷がかからないし、馬も後ろでガタガタ揺れる箱よりも宙に浮いている箱の方が運びやすいと思う。
まぁ馬車が宙に浮いているだけならば、振り子の様に振り回されて御者や内に乗ってる人間がシェイクされてしまうのでは? と思ったけれど、馬との距離や角度、馬が止まった時の馬車にかかる重力の加速度を落とすなどの調整が入り、ドゥリンさん曰く、
「そこら辺は普段なら魔法陣を刻むのが苦手だからお断りだが、お得意様だからよ。やり始めたら興が乗ってちょいとサービスしておいたぞ!」
との事。流石妖精の箱庭を作った一族の末裔。サービスがありがたい。
そうそう、公爵家の軍馬は代々続く名門の軍馬だけあって、スキルをもつ馬を代々交配させ、それこそ土属性の魔力を使った縮地というスキルをしっかりと持っていた。足運びもエレガントで「黒き森の王」と言う名に相応しい。
自由に森で過ごしていた野生の魔馬と、公爵家で大切に飼育されてきた軍馬であるから、厩舎や放牧場では折り合いが悪いかなぁと思っていたけれど、人間の心配は他所に、馬は群れる生き物なので、案外魔馬達は先住の軍馬に敬意を払い上手くやっていた。放牧されている間は軍馬に力比べを挑んだり、縮地なんかも教えてもらっていたそうな。野生の魔馬は生き抜く為のコミュ力が高かった。可愛がっていた魔馬達との戯れが少し減ったクヴァルさんたちが、ちょっと寂しそうにしていたが。
そうこうしてるうちに全体の出発準備が整い、威勢のいい掛け声が聞こえてきた。
俺と同じ馬車には母様とティーモ兄様、俺の教育係のペネロペ先生が乗っている。
母様とティーモ兄様、そして俺はそのまま平静に、
「あーそろそろ出発するんだなぁ」
と、外を見ながら思っていたら、ペネロペ先生が必死に手摺にしがみついていた。と言うか、乗った時から青い顔をして必死に手摺につかまっていて、静かだったので存在がほぼ空気になっていた。
あー。失敗したかも。シートベルトとかつけて貰えばよかったかなぁ。アルも御者が魔力を使っているせいか毛を逆立てている。
「ペネロペ夫人、大丈夫ですか? 馬車を停めて荷馬車で横になりますか?」
母様がペネロペ先生のことを心配し声をかけるが、ペネロペ先生は小刻みに首を横に振り、このままで大丈夫だと断っていた。
「皇后陛下、温かいお言葉ありがとうございます。しかし、公爵領に着くまでこの旅に慣れたいと思いますので、お見苦しい姿をお見せしてしまいますが、お許しくださいませ」
「ペネロペ夫人、ダメそうでしたらいつでも仰ってね。あと陛下はやめてちょうだい。アンとお呼びになって」
そう言う母様を見ながら、
「既に馬車は動き始めていますよ」
と、ティーモ兄様が話しかけると、ペネロペ先生は馬車がほとんど揺れていない事にびっくりしていた。
「私てっきり……アン様、お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません」
「いいえ、構わないわ。私も、もうちょっと揺れるかと思って脅かしてしまいましたから。ね、ナユタが何かしてくれたのかしら?」
母様がこちらに話を振ってきたので、黒妖精の穴蔵のドゥリンさんのことを話した。
そうして馬達の休憩が入るまで、馬車は何事もなくズンズンと森を進んでいった。
『おや? 珍しい。この先の泉に妖精族がいますよ』
外を見るのに飽きて俺の膝でウトウトするアルを撫でながら森をなんとなく鑑定していると、ツクヨミが突然話しかけてきた。
『え?妖精族?エルフとかドワーフとかか?』
『そうです。細かい種族としては違いますが……きっと那由多が好きな種族だと思いますよ』
ふふっと笑いながらツクヨミが意味深なセリフを残す。
はて。俺が好きそうな種族ってなんだろう?
お酒を作るのがうまい妖精とか?ちょっと会うのが楽しみになってきた。
神眼はまだ皇帝が言う細く魔力を流すってことが慣れないから、意思疎通ができる相手にはとりあえず自重して我慢する。
どんな妖精がいるのだろう。
やがて馬車は青々と水面が揺れる泉にたどり着いた。
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