神様お願い!~神様のトバッチリで異世界に転生したので心穏やかにスローライフを送りたい~

きのこのこ

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北の帝国と非有の皇子

非有の皇子×舞踏室

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 パンパンパンパン

 ここは帝都、グラキエグレイペウス公爵邸の舞踏室ボールルームの片隅。
 重厚な舞踏室ボールルームに軽快な手拍子と共に眼鏡夫人の声が響く。

「…顎を前に出さない!!

 指先、つま先まで意識をもって美しく!!」



 頭に本を乗せ、齢三歳にて歩き方の練習をする俺である。

(あっ…)

 ガチャガチャとロボットの様に動く俺の歩き方に耐えられなくなった頭上の本は、無常にも大地の重力に引き込まれ床に落ちた。

「はい!最初からやり直し!」

(くっ)

『どんまいですよ、那由多』

(そうは言っても、ただ歩く事がこんなに難しいとは思わないじゃないか)

 落ちた本を拾い、スタート地点へまた戻って同じ様に夫人の手拍子に合わせ、自然に美しくスッスッと優雅に歩く練習をする。


「貴族たるもの歩く姿一つで身分がわかります。

 貴族の立ち居振る舞いは家格を表す大切なもの。歩き方一つとして疎かにできません!

 ましては坊っちゃまは皇家と公爵家の血を受け継ぐお方。見苦しいお姿で両陛下に恥をかかせてはなりませんよ。

 さあ身体の先々まで意識して…」

(ぐぬぬ)




 そうなのだ。数日前、ツクヨミ指導の下、魔力操作に精を出していたとき。母様と共に俺の教育係がやってきた。


「ナユタ。まだ早いんじゃないかと思ったけど…そろそろお勉強も始めましょうか」

「…え…?」

 ニコニコと笑う母様の隣に、丸い縁眼鏡を掛けたやたらとキビキビした女性がいた。

「ナユタはちょっと姿勢が悪いでしょう?変な癖がつかないうちに正しい姿勢を身につけてもらおうと思って…」

 母様は微笑みながらもちょっと困った顔をして教育係を紹介してくれた。

「この方はわたくしの教育係も務めていただいた、ペネロペ伯爵夫人よ。夫人、この子がナユタよ。宜しくお願いね」

「かしこまりました。あたくしの持っている全ての教養マナーを誠心誠意、皇子様に御教えさせて頂きます。皇子様、このペネロペ・セヴリーヌの持てる全てを御教え致します」

「えと…はい…宜しくお願い致します…」
 

 というわけで、まずは俺の歩き方から矯正されることになった。


 子供っていうのは育った環境や親…周りを見て学ぶ。
 この世界の貴族は子供が生まれたら直ぐに乳母ナニー(子育てと教育のプロ)に託し、ある程度教育マナーがついてからやっと親と会わせると言う教育方法みたいだ。俺の身体は元々精霊の子であったから、城で働く者たちに何をされるかわからないって事で母様の側で大切にされたみたいで、本来貴族の子供なら乳母ナニーを筆頭に、大勢の侍女に囲まれ貴族らしい立ち居振る舞いを物心がつく前に目に焼き付けさせ勉強させる様だ。

 俺の場合、最近すこーーしふっくらしてきたとはいえ筋力が0に近しかった事に加え、歩かず飛行魔法フロトフラストである意味ズルをしていた(まぁ魔法を使わなければ半日も動く事ができなかったのであるが)さらに内に入ってる魂が、他の世界で半世紀以上生きてきた庶民のおじさんが入ってる。
 つまり以前の半世紀過ごして身につけた立ち居振る舞いがモロに身体に出てしまっていた様で、このままでは背中が丸まってしまうと心配した母様が教育係を手配したみたいだ。

(俺はそんな…母様に心配されるくらい前屈みに…猫背っぽく歩いていたのか…)

『まぁ那由多がいた世界は独特ですからね…私も幼い頃は乳母ナニーに躾けられましたよ』

(…ツクヨミにも幼い頃なんてあったんだな…)

『ふふっ。誰しも幼い頃はある物なのです』



 って事で閑話休題。意識が過去に飛んでいたせいかまた本が落ちた。

(ぐぬぬぬぬ。顎を上げながら指先足先優雅にとか訳わからん)

「はいもう一度!」



『うーん。どこかで…

 あ。

 那由多アレですよ。あの優雅な舞踏の……ああコレコレ!バレエです!!』

 ツクヨミが俺の記憶中枢から引き出した記憶をのぞいてお目当てを探し当てた様だ。

(バレエ?バレエってつま先立ちで踊るやつ?)

『それです!』

 一時期、大物のバレエダンサーが会社を作るってんでお昼時のニュースによく出ていたのを思い出した。
 そのバレエダンサーは男で、新入社員やらおつぼ…妙齢の女性社員やらに人気で、彼が出るたびに黄色い声がちらほら食堂に上がった物だった。ニュースではそのバレエダンサーの舞台が特集を組まれ少し流れたりしたのだが、俺が見た時はジャンプをしているシーンで人間あんなに高く飛ぶ物なのかと感心した物だ。

『那由多のいた世界でこの世界の貴族の動きに近いのがバレエなんですよ。バレエは観客に見せるせいか随分と大袈裟ですけどね…いや…ある意味あの様な感じではあったのか…?』

(…あー!思い出した)

 バレエは元々フランス貴族の立ち居振る舞いを基に作られた物だとテレビで言っていた。庶民が見た貴族像がバレエの振る舞いなのだ。演目ものがたりの主人公は確かに上流階級の物が多かった…はず。

『あの顎を上げて上から民を睥睨する視線、真っ直ぐした体軸、指先、つま先まで神経を張り詰めた様な体重を感じさせない軽やかで美しい動作。あの姿を真似ればこのご夫人にも合格を貰えるのではないでしょうか?』

(いやいやいやいや!言葉にするのは簡単だけど実際やるのは難しいからな?!)

 ものは試しと意識して歩く。

「んまぁ!坊っちゃま!!素晴らしいですわ!そのまま肩に頭が真っ直ぐのる様に意識して…」

『ほら!よかったですね那由多!』

(俺は道化師ピエロ。貴族の真似をする道化師ピエロになるのだ…)


 季節は夏の扉を通り過ぎ、秋に差し掛かる頃。俺はアウストラルピテクスからホモ・サピエンスへ一歩近づいた。




 _________________________________________




 学ラン少年「あ!そうだ!アウストラルピテクス!!学校で習ったよ。随分とわすれているなぁ」

 ツクヨミ「人の進化がわかって良かったですね」

 学ラン少年「うん!おじさんの記憶お役立ちだよ~…あれ?これはなんだろ?」

 ツクヨミ「ああっ!それは下品なあにめですよ?!情操教育に良くありません!!」

 学ラン少年「え?!めっちゃ面白いんだけど??!」


 学ラン少年は勝手に那由多の記憶中枢を覗き込み…ツクヨミの言うとあるお下品なあにめにハマっていた。






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