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社会人時代
④彼の婚約者(2)
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けれど、その後異常事態に陥った。シラカワコーポレーションの株価が大きく低下したのだ。何が起こっているのか分からない。それは社長をはじめ、専務、常務もそうらしい。この会社ができた頃からこの会社と一緒に仕事をしてくれていた数社以外は、この会社から手を引くと言って多くの取引がなくなった。株価が低下して数日。私は神宮寺さんに捕まっていた。
「久しぶりね。私のこと覚えているかしら?」
そう言って私を見て笑う彼女は、今の私にとって悪魔のようだった。
「今、シラカワコーポレーション、大変よね? それでね宗平に言ったのよ。私と結婚すれば援助できるわ、って。そうしたらすんなりOKしてくれたわ。この意味分かるわよね?」
そう言った彼女は私の返事を聞かずに車に乗って帰って行った。
その後どうやって家に帰ったのかよく覚えていない。気がついたら翌日の朝になっていた。そして昨日神宮寺さんに言われたことを思い出し、私は泣いてしまった。
(どうにかするって言ってくれてたのに。白川は私を捨てるんだ。会社のための結婚を選ぶんだ。前はそれは嫌だって言ってたのに)
けれど、一緒に働く同僚たちを思い出すと、白川のその選択を完全に悪だと非難できない自分もいた。
(私が白川を諦めることで、みんな幸せになる。白川がすんなり了承したってことは、白川は私との将来を望んでいなかったと言うことだもんね)
そう思った私は、白川の恋人を辞める決意をした。
その決意をした数時間後。白川から『会いたい』と連絡があったので彼の家へ行った。玄関を開けてくれた彼の顔はすごくやつれていて、隈ができていた。本当は抱きしめたかったけれど、グッと我慢した。
「昨日の夜。匠くんからお前と神宮寺が会っていたと言う話を聞いた。もう彼女から聞いたかもしれないが、その、俺と……」
白川はそう言って俯いてしまった。けれど何を言いたいのかは分かったので私から言うことにした。
「別れよう」
そう言ったら彼はガバッと顔を上げた。
「聞いたよ。会社のために彼女と結婚するって。本当はあなたの口から聞きたかった」
「ごめん」
「ううん。白川は悪くない」
けれどこれ以上ここにいることはできない。そう思った私は、
「ごめん、この後用事あるから」
と言って彼の家を後にした。
帰り道。泣いて泣いて泣きまくった。周りの人から見たらすごく怪しかったと思うけれど、もうダメだった。ずっとずっと大好きだったのに。大好きな恋人がすぐに他の女性の夫となってしまう。その事実がさらに涙を溢れさせた。
次の日。鏡を見たら顔がまあすごいことになっていた。今日が休日でよかった、と思うほどに。そして白川と別れたことを思い出した私は、彼との思い出も消そうと思った。でも、交際してあまり時間が経っていなかったから写真もほとんどないし、プレゼントは就職前にもらった腕時計と名刺入れだけ。その2つはずっと大事にしてきたもの。白川との交際前の思い出もあるもの。捨てようと思って何度もゴミ袋に入れようとしたけれど、一緒に仕事をしてきた相棒たちなのでそんな簡単には捨てられなかった。結局捨てることはせずに、引き出しの奥にしまうことにした。そして、その日のうちに新しい腕時計と名刺入れを買ってきたのだった。
「久しぶりね。私のこと覚えているかしら?」
そう言って私を見て笑う彼女は、今の私にとって悪魔のようだった。
「今、シラカワコーポレーション、大変よね? それでね宗平に言ったのよ。私と結婚すれば援助できるわ、って。そうしたらすんなりOKしてくれたわ。この意味分かるわよね?」
そう言った彼女は私の返事を聞かずに車に乗って帰って行った。
その後どうやって家に帰ったのかよく覚えていない。気がついたら翌日の朝になっていた。そして昨日神宮寺さんに言われたことを思い出し、私は泣いてしまった。
(どうにかするって言ってくれてたのに。白川は私を捨てるんだ。会社のための結婚を選ぶんだ。前はそれは嫌だって言ってたのに)
けれど、一緒に働く同僚たちを思い出すと、白川のその選択を完全に悪だと非難できない自分もいた。
(私が白川を諦めることで、みんな幸せになる。白川がすんなり了承したってことは、白川は私との将来を望んでいなかったと言うことだもんね)
そう思った私は、白川の恋人を辞める決意をした。
その決意をした数時間後。白川から『会いたい』と連絡があったので彼の家へ行った。玄関を開けてくれた彼の顔はすごくやつれていて、隈ができていた。本当は抱きしめたかったけれど、グッと我慢した。
「昨日の夜。匠くんからお前と神宮寺が会っていたと言う話を聞いた。もう彼女から聞いたかもしれないが、その、俺と……」
白川はそう言って俯いてしまった。けれど何を言いたいのかは分かったので私から言うことにした。
「別れよう」
そう言ったら彼はガバッと顔を上げた。
「聞いたよ。会社のために彼女と結婚するって。本当はあなたの口から聞きたかった」
「ごめん」
「ううん。白川は悪くない」
けれどこれ以上ここにいることはできない。そう思った私は、
「ごめん、この後用事あるから」
と言って彼の家を後にした。
帰り道。泣いて泣いて泣きまくった。周りの人から見たらすごく怪しかったと思うけれど、もうダメだった。ずっとずっと大好きだったのに。大好きな恋人がすぐに他の女性の夫となってしまう。その事実がさらに涙を溢れさせた。
次の日。鏡を見たら顔がまあすごいことになっていた。今日が休日でよかった、と思うほどに。そして白川と別れたことを思い出した私は、彼との思い出も消そうと思った。でも、交際してあまり時間が経っていなかったから写真もほとんどないし、プレゼントは就職前にもらった腕時計と名刺入れだけ。その2つはずっと大事にしてきたもの。白川との交際前の思い出もあるもの。捨てようと思って何度もゴミ袋に入れようとしたけれど、一緒に仕事をしてきた相棒たちなのでそんな簡単には捨てられなかった。結局捨てることはせずに、引き出しの奥にしまうことにした。そして、その日のうちに新しい腕時計と名刺入れを買ってきたのだった。
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