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社会人時代
②聞いてない(2)
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白川に失恋して数ヶ月。忘れようと思っても近くにいるから忘れられず、食事に誘われたら断ることもできず、ますますすきになっていっていた。そんな中、松暮さんから、『カフェ10号店を出します!』との連絡が来たので、少し遠かったけれど白川と共にお祝いに行った。開店日に行ったら店内はとても賑わっていた。もう夜遅かったけれど、今日だけは営業時間を延ばしていると言う。松暮さんや山岸さん(今も彼によるSNSは多くのフォロワーを抱えている)、そして高校・大学時代に一緒にバイトをしていた人たちとも久しぶりに会えて、私はとても嬉しかった。その後、お祝いに来ていた、カフェに関わったことがあるみんなでお祝いをした。カフェの話はもちろん、今どこで何をしているのか、と言ったことをたくさん話すことができて、とても素敵な時間を過ごすことができた。今度はお客さんの1人としてこのカフェに来たいなと思った。
楽しく飲んで騒いでいたら、遅くなってしまった。ギリギリ今日中に電車に乗れたのはラッキーだったと思う。けれど、私の最寄り駅まで行く電車は悲しいことに2分前に最終が出てしまっていた。仕方ないからタクシーで帰ろうと思い、逆方向の白川に「今日は楽しかったね。またね」と言って手を振ったら、その手を掴まれた。
「えっと?」
「俺の方の電車まだあるから」
「そうなんだ?」
「こんな夜遅くに1人で家に帰るとか危ないだろ」
「タクシーだよ?」
「降りてからは1人だよ」
降りたらすぐに玄関だから、と思ったけれど、私の手を掴んでズンズンと歩いていく彼を止めることはできなかった。繋いだところがどんどん熱くなっていく。初めて大好きな人と手を繋いでドキドキしない方が無理で。顔まで赤くなっていくのが分かった。こっちを見ないで、と思いながら彼の後をついて行った。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
数十分後に着いた白川の家はとても広くてきれいに整理されていた。そしてお風呂を借りた後、「これ着ていいよ」と言ってくれた私にぴったりのパジャマに袖を通した。誰のこれ? 好きな人の? これ着ていいの? 色々聞きたくて白川が上がってくるのを待っていたものの、睡魔に勝てなかった私はソファーで寝てしまった。
翌朝。目が覚めたらベッドの上だった。白川が運んでくれたらしい。ありがとう、と思いながらベッドを降りようとした。その時隣に誰かいる気配があったので見たら。
「え、お隣さん?」
そこには大学時代恋して告白する前に散ってしまったあの恋の相手がいた。いやそんなわけない。ここは白川の家だ。白川は社会人になって髪を黒にした(彼曰く、茶髪は染めていたかららしい)から、お隣さんの白川さんに見えるだけ。そういい聞かせながら顔を洗った後、私は動揺していたのか寝室ではなく他の部屋に入ってしまった。そこには。
たくさんの本があった。谷口さんにお勧めした本。彼が好きだと言っていた本。絶版になって手に入らないと思っていたけど、本フェスティバルで手に入って嬉しいと言っていた本。そこにはあの短い時間で知った谷口さんが詰まっているように感じた。
(どういうこと?)
頭が考えることを拒否している。でも。これはもしかして。そう思っていた私には、白川の足音が聞こえなかった。
「何してるの?」
部屋の中まで入って色々見ていたら、白川の声が聞こえた。それはもう、すごく低かった。
「あ、えっと」
「勝手に他の部屋に入るなんて悪い子だ」
そう言った彼は私を部屋から引っ張り出してリビングのソファーに座らせた。
「で、」
「勝手に部屋に入って申し訳ありませんでした」
「うん」
「……」
「聞きたいことあるって顔してるけど」
「聞いていいの?」
「聞きたいんでしょ」
そういう彼の顔を見たら、寂しいという表情で諦めに似た笑みをこぼしていた。
「白川は谷口さんで、お隣だった白川さんなんですか?」
なんでそう思うの、と聞かれたので、思っていることを全部話した。
「あー、なるほど。髪型か。あんたぐっすり寝てたから俺より早く起きることないと思ってたのが間違いだったか」
そう言って頭を掻いた彼は、全てを話すと言って口を開いた。
楽しく飲んで騒いでいたら、遅くなってしまった。ギリギリ今日中に電車に乗れたのはラッキーだったと思う。けれど、私の最寄り駅まで行く電車は悲しいことに2分前に最終が出てしまっていた。仕方ないからタクシーで帰ろうと思い、逆方向の白川に「今日は楽しかったね。またね」と言って手を振ったら、その手を掴まれた。
「えっと?」
「俺の方の電車まだあるから」
「そうなんだ?」
「こんな夜遅くに1人で家に帰るとか危ないだろ」
「タクシーだよ?」
「降りてからは1人だよ」
降りたらすぐに玄関だから、と思ったけれど、私の手を掴んでズンズンと歩いていく彼を止めることはできなかった。繋いだところがどんどん熱くなっていく。初めて大好きな人と手を繋いでドキドキしない方が無理で。顔まで赤くなっていくのが分かった。こっちを見ないで、と思いながら彼の後をついて行った。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
数十分後に着いた白川の家はとても広くてきれいに整理されていた。そしてお風呂を借りた後、「これ着ていいよ」と言ってくれた私にぴったりのパジャマに袖を通した。誰のこれ? 好きな人の? これ着ていいの? 色々聞きたくて白川が上がってくるのを待っていたものの、睡魔に勝てなかった私はソファーで寝てしまった。
翌朝。目が覚めたらベッドの上だった。白川が運んでくれたらしい。ありがとう、と思いながらベッドを降りようとした。その時隣に誰かいる気配があったので見たら。
「え、お隣さん?」
そこには大学時代恋して告白する前に散ってしまったあの恋の相手がいた。いやそんなわけない。ここは白川の家だ。白川は社会人になって髪を黒にした(彼曰く、茶髪は染めていたかららしい)から、お隣さんの白川さんに見えるだけ。そういい聞かせながら顔を洗った後、私は動揺していたのか寝室ではなく他の部屋に入ってしまった。そこには。
たくさんの本があった。谷口さんにお勧めした本。彼が好きだと言っていた本。絶版になって手に入らないと思っていたけど、本フェスティバルで手に入って嬉しいと言っていた本。そこにはあの短い時間で知った谷口さんが詰まっているように感じた。
(どういうこと?)
頭が考えることを拒否している。でも。これはもしかして。そう思っていた私には、白川の足音が聞こえなかった。
「何してるの?」
部屋の中まで入って色々見ていたら、白川の声が聞こえた。それはもう、すごく低かった。
「あ、えっと」
「勝手に他の部屋に入るなんて悪い子だ」
そう言った彼は私を部屋から引っ張り出してリビングのソファーに座らせた。
「で、」
「勝手に部屋に入って申し訳ありませんでした」
「うん」
「……」
「聞きたいことあるって顔してるけど」
「聞いていいの?」
「聞きたいんでしょ」
そういう彼の顔を見たら、寂しいという表情で諦めに似た笑みをこぼしていた。
「白川は谷口さんで、お隣だった白川さんなんですか?」
なんでそう思うの、と聞かれたので、思っていることを全部話した。
「あー、なるほど。髪型か。あんたぐっすり寝てたから俺より早く起きることないと思ってたのが間違いだったか」
そう言って頭を掻いた彼は、全てを話すと言って口を開いた。
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