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透ルート 3章

エンゲージ 8

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 透さんの隣で迎える朝。
 真壁さんのオーベルジュの時もそうだったのに、今は気持ちがずっと穏やかだ。透さんの大きな愛に包まれていると気づけたから。

 あの時は勝手にいろんなことを決めつけて、透さんの過去にヤキモチを妬いて、自分の感情に振り回されていた。

 手をつないでいたのに、いつの間にか離れていた。こちらに背を向けて眠っている透さんを起こさないように気をつけながらひっついてみる。

 カーテンは閉めているけれど、外が明るいのはわかる。もう起きなければいけない時間だろうか。時計を見たくない。このまま甘い熱にとろとろひたっていたい。

 透さんの香りを肺いっぱいに吸い込む。

「好き……」

 たくましく身体が寝返りを打とうとしていたので、少し離れる。こちらを向いた透さんの腕が私をぎゅっと抱きしめた。

「俺もみさきちゃん好き」

 起きていたみたいだ。聞かれていた。少し恥ずかしい。
 ドキドキしていたのに、せっかくの空気を壊す私のおなかの音が響いた。

「朝ごはん、食べに行く?」
「……はい」


 ✝✝✝✝✝✝✝✝


「ほな、みさきちゃん、またねー」

 お昼前に、真壁さんと黒沢さんを透さんの運転で駅まで送った。
 新幹線で帰るそうだ。改札でお別れをした。

「やっと二人きりになれたなー」

 のんびり並んで歩いて車へ戻る最中、透さんは深い意味はなく呟いたのだと思う。
 だけど私はものすごく意識してしまった。

 心臓が壊れそうにバクバク鳴っている。

「透さん」

 触れるか触れないかの距離にあった大きな左手をきゅっと握る。
 顔から火が出そうなくらい熱い。

「退院祝い……」

 前を向いたままポツリと告げた。
 これ以上は言葉が出なかった。

 まだ日も高いうちから、こんなことを私から言うなんて。ふしだらな女だと呆れられないか不安だ。

「……ええの?」

 恥ずかしくて透さんを見ることはできなかったけれど、こくりとうなずく。

「俺の家戻ろか」

 もう一度首を縦に振った。

 緊張しながら透さんの家に戻った。私から言い出したことなのに、どうしたら良いのかわからない。

「お邪魔します……」

 玄関のドアが閉まった途端に、透さんに後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「シャワー浴びる?」

 また無言でうなずく私に、透さんがくすりと笑ったのが吐息でわかる。

「エライ緊張してるなぁ」

 大きな手が私の頬を包み込み、唇が重なる。ぬくもりに少し安心した。

「一緒にお風呂入る?」

 驚いて、とっさに首を横にぶんぶん振った。さすがにそこまでできない。

「そしたら先シャワー浴びて来て」

 透さんに背中を押されて、バスルームまで誘導される。

「入ってきちゃダメですよ」
「わかってる。部屋で待ってるから。俺の部屋わかる?」

 大人の微笑みを浮かべた透さんは、清潔なバスタオルを渡してくれる。

「わかりません」
「ほな、そこで待ってるわ」

 あっさり脱衣所から出ていってくれた。いつもの透さんだとからかったり一緒に入ろうとするので、安心するのと同時にちょっと残念な気持ちになる。

 こんなことを考えてしまうなんて、すっかり毒されている。恥ずかしくなって小さくため息をついた。

 悩んだけれど、透さんがすぐそこで待っているので身体だけ洗ってすぐにお風呂を出る。服を着るかも考えたけれど、バスタオルを身体に巻きつけて脱衣所を出た。

「お待たせしました……」

 タオルが落ちないように押さえながら顔を出す。床に座り込んでいた透さんが顔を上げた。息を呑んだような気がした。ちょっとは私にドキドキしてくれたのだろうか。

「こっち」

 透さんに手を引かれて階段を上がる。いつも使っていると言う部屋は、透さんらしくカッコいい雰囲気だった。

「俺もシャワー浴びてくるから、これ着て待ってて」

 洗いざらしの白いシャツを渡される。透さんが部屋から出てから、私はそれに袖を通した。太腿を隠すくらいの長さがある。

 彼氏の服を着ていると思うと妙に興奮していた。透さんに包まれているようにも感じる。

 バスタオルをどうしようかと考えたけれど、名案は出なかった。とりあえず畳んで床に置かせてもらう。

 長過ぎる袖をまくって、枕を抱えてひとりベッドの上で身悶える。

 カチャっとドアの開く音がした。頭を上げると、透さんが入ってくる。
 シャツの中には何も着ていない。恥ずかしくて急いで起き上がり、シャツの裾を押さえた。

「俺がさせといて何やけど、その格好はヤバいな」

 透さんは無造作にシャツを羽織って、下半身は細身のパンツをはいていた。
 鍛えられた胸筋や腹筋があらわになっていて色っぽい。

 何がヤバいのかわからなくて首を傾げた。

「可愛すぎて、すぐに襲いかかりたくなった」

 透さんの右膝がマットレスを軋ませる。

 息が止まるほど、顔が近い。何度もキスを交わしているのに、特別な一瞬に思えた。

 引き寄せられるようなキス。

 見つめ合いながら透さんはゆっくりと私を組み敷く。私も透さんに触れたくてそっと頬に手を伸ばした。

 静かな口づけはすぐに獣みたいに貪り合うそれに変わる。
 舌を絡められ、引き出され、甘噛みされる。開いた唇から自然に喘ぎがこぼれてしまう。

 透さんは私の着ているシャツのボタンを全部外した。
 下は何もつけていない状態で、カーテンを閉めているのに太陽の光で明るい部屋では隠しようがなかった。

「キレイや」

 大きな手が私の輪郭を確かめるように優しく滑る。

 耳朶から首筋、鎖骨、乳房へと移動していく唇と舌は、私の身体が溶けてしまうほどの快感を呼び起こす。

「だ、めぇ……っ! おかしくなっちゃ……っう」
「おかしくなって」

 甘く低くささやく透さん。そのまま耳朶を舌が這う。甘美な戦慄が全身を駆け抜けた。

「あっ……ッ!」

 ビクンと腰が跳ねる。
 透さんは面白がっているのか、柔らかい粘膜で執拗に耳をいじめる。同時に胸を弄ばれ、目の奥がチカチカした。

「あっ、はぁ……ッ、んッ! ふぅウ……っあぁァッ!」

 全身から力が抜ける。
 透さんは妖艶に微笑んで、私の手を取った。爪の先、指の股、手のひらと余すことなく愛してくれる。

 その姿があまりに妖艶で、見てはいけないものを見ているような気分になる。だけど目が離せない。

 少し意地悪に微笑んだ透さんは再び私の全身の愛撫を始める。足の先まで可愛がってくれるのに私の中心には触れてくれない。

 もどかしくて切ない。ねだるように腰をくねらせてしまう。

「透さん……」
「どうしたん?」
「ええと……」

 絶対わかってる。だけど我慢比べをしている余裕が私になかった。

「ここも……」

 顔をそむけながら、右手は下腹部を押さえた。あの時の快楽が忘れられなかった。

「気持ち良かった?」

 頬を撫でられて、こくりとうなずく。透さんは端正な面を私の大腿の間に埋めて、あふれ出る劣情を舐めとってくれる。

 腰が浮く感じがして、嬌声が止められない。恍惚に飲み込まれる。

「……みさき」

 透さんが私の顔を覗き込む。

 言葉はなくても、目の前の美しくしなやかな獣の求めていることがわかった。

 私は静かにうなずいた。
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