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1章

お祖父ちゃんの手紙

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「ただいまー」
「お邪魔します」

 誠史郎さんのところには、お祖父ちゃんからの手紙が2通あった。1通は私にというかみんな宛のもの、もう1通は誠史郎さんに宛てたものだった。

 誠史郎さんへの手紙は誠史郎さんが開封しなかったので内容を教えてもらえなかったし、存在することを自体、淳くんと眞澄くんには秘密と口止めされた。

 私は誠史郎さんに車で自宅へ送ってもらった。誠史郎さんはまだしばらくうちに泊まるそう。

 誰かいるかと結界の張ってある部屋に行くと、眞澄くんが携帯ゲーム機で遊んでいて、少年は相変わらず意識がなかった。
    だけど私の気のせいかもしれないけれど、朝より成長しているように感じた。

「おかえり」

 眞澄くんはゲーム機から視線をそらさず言う。指の動きがすごい。

「ただいま」
「お邪魔します」

 誠史郎さんは横たわる少年の傍らに膝を付いて、彼の手首に触れた。

 一段落ついたのか、眞澄くんはゲーム機をスリープ状態にして床に置く。そして誠史郎さんの真向かいへ移動した。

「起きないんだよな」
「ですが、灰になる様子もないですね」
「なんかでかくなっているし」

 やっぱり気のせいじゃなかった。
 誠史郎さんは男の子の手をそっと床に戻すとスッと立ち上がる。

「あのね、眞澄くん。お祖父ちゃんが……」

 私はお祖父ちゃんからの手紙を眞澄くんに手渡した。

「何だ、これ?周からの手紙ってどういう…」

 受け取った眞澄くんは誠史郎さんを見上げた。私も同じように見上げる。
   眼鏡の似合う長身の美男子は困ったように破顔した。

「周が私の部屋に隠してました」
「……やりそうだな」

 半眼になって口元を歪めた眞澄くんは封筒を開ける。私はふと淳くんにも見てもらった方が良いと思って、呼びに行こうと立ち上がった。

「淳くん、呼んでくるね」

 私は淳くんの部屋へ行ってドアをノックする。

「眞澄?」
「あ、私……」

「どうぞ、開いてるから」

 ドアを開けると淳くんは勉強をしていたみたいだった。その足下では子猫が気持ち良さそうに寝ている。
    この猫は猫またという妖怪で、お祖父ちゃんにとても懐いていた。それで今では我が家のペットだ。みんな、みやびちゃんと呼んでいる。名付け親はお祖父ちゃん。

「おかえり」

 淳くんは穏やかな微笑みを見せてくれる。

「ごめんね、勉強の邪魔しちゃって。お祖父ちゃんが誠史郎さんのところに手紙を隠してて、淳くんにも見てもらえたらって思って」

 淳くんが少し驚いた表情をした。

「よく見つかったね」
「うん……」

 夢のことぐらいは言っても良かったきがするけれど、詳しく話すと失言しそうなので心苦しいけれど黙っておいた。

「ありがとう。じゃあ、行こうか」

 淳くんはすっと椅子から立ち上がる。それだけの動作がとても優美で思わず見とれてしまう。

「行っちゃうの?」

 目を開けたみやびちゃんがそう言いながら淳くんの足元に移動してすりすりした。みやびちゃんは私に対する対応と、淳くんへの態度が全然違う。

「ごめんね」

 みやびちゃんの頭を淳くんがそっと撫でる。すると納得したみたいで、淳くんのベッドに飛び乗って丸くなった。

 ふたりで結界を張っている道場に戻ると、眞澄くんがお祖父ちゃんからの手紙を読んでいた。

「彼のことを書いてた?」

 淳くんが尋ねる。眞澄くんは顔を上げた。

「よくわかったな」
「周らしいよ」

 苦笑いした淳くんはそう言って眠り続ける少年を見る。

「周はどこまで見えていたんだろうね」

 手紙には、少年への名前や、明日彼の目が覚めた時にはこの国で暮らすための諸々の手続きが完了することが記されていた。

 赤木あかぎ裕翔ゆうとそれがお祖父ちゃんが彼に用意しておいた名前だった。

「起きたらきちんと話せるかな……」

 私が彼と話したいと言ってみんなを危険に巻き込んだのに、結局一言も話せずこうなってしまったことが心に引っかかっていた。
    裕翔くんの意思も確認しないまま眷属にしてしまって申し訳なくもある。

「大丈夫だよ」

 淳くんが優しく頭を撫でてくれた。

「みさきのおかげで彼は倒されずに済んだんだ」
「問題はアイツだな」

 眞澄くんが唇の端に皮肉っぽい笑みを浮かべる。

「私たちの介入があったことは容易に想像できますからね」
「みさき、アイツにのこのこ会いに行ったりするなよ」

 私の考えそうなことなどお見通しだと、眞澄くんが私の両頬を弱い力で引っ張った。

「お前はいろいろわかってなさ過ぎ」

 数時間前に誠史郎さんにも似たようなことを言われたけれど、やっぱりきょとんとしてしまう。私は何がそんなにわかっていないように見えるのかしら。

「とにかく、絶対にひとりで行動するなよ」

 眞澄くんの言葉に淳くんは苦笑いをして、誠史郎さんは深くうなづいていた。
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