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3章

打ち上げ

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 打ち上げはモデルさんたちはほとんど帰ってしまい、出版社の人、桐生さんとアシスタントさん、我が社の人間で開催された。

 撮影を見に来ることはできなかった坂本さん、稲垣さん、東雲さんも参加している。

 それほど大きくないけれど、外装も内装もおしゃれなお店。運ばれてくる料理も見た目がとても華やかだ。
 お店を選んだのは原田課長だろうか。山根さんかもしれない。

 梅原係長からは遅れると連絡があった。かなり忙しいみたいだ。

 私は桐生さんの向かいの席に座る。彼の隣にはアシスタントさんがいた。

「またキレイになった?」

 優しい笑顔で甘くささやく。かわいい弟のようなイトコの彼女だとわかっていて私を口説く気は微塵もないから、桐生さんは多分天然タラシだ。

「……だとしたら、奏のおかげです」

 ちょっと照れたけれど、本音をもらした。頬が熱い。

「桐生さんのお知り合いですか?」

 アシスタントさんに尋ねられる。彼の両目に好奇心が輝いているように見えた。

「俺のイトコの彼女。ウェディングプランナーの是枝さん。こっちはうちのアシスタントの南雲なぐもくん」
「よろしくお願いしまーす」

 現場でもテキパキ動いて若くて元気な方だと思っていたけれど、普段もそうみたいだ。

「初めまして。よろしくお願いします」
「桐生さーん、飲んでますかー?」

 ビールを片手に山根さんがやって来た。

「みんなキレイに撮ってもらえて喜んでました! またよろしくお願いしますね~」
「こちらこそ、また声をかけてください」
「南雲くんもありがとうねー!」
「こ、こちらこそです!」

 山根さんは嵐のように過ぎ去って、別のテーブルへあいさつするために移動していった。

 独特の圧に私は圧倒されてしまう。
 だけど私も、いろんな人にあいさつして回るべきだろうか。

 悩んでいると、出入口の方で誰かがやって来た気配がした。
 そちらを振り向く。スラリとしたスーツ姿の奏。

 出版社の女性たちが、色めき立ったのがわかった。
 このカッコイイ人は私の彼氏なんだと威嚇したい気持ちになる。

 奏は広報部長と原田課長にあいさつをして、すぐに桐生さんと私のいるテーブルにやって来た。偶然だけど空いていて良かった。

「何とか間に合った」

 店員さんがすぐに奏に飲み物のオーダーを取りに来る。ビールを頼んだ奏はイスに座った。

「初めまして。嘉人さんのイトコの梅原です」

 奏は南雲さんにペコリと頭を下げる。私は取皿に鯛のカルパッチョを一人分もらって奏の前に置く。お酒を飲む前に少しでもお腹に何か入れた方が良いと思った。

「こちらこそ初めまして。南雲です」

 南雲さんは奏と私を交互に見てニコニコした。

「いいなー。俺も気の利くカワイイ彼女ほしい」

 もだえる南雲さんを、桐生さんがクスクス笑いながら見ている。

「奏……?」

 席に戻ったはずの山根さんが、呆然と立ち尽くしていた。
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