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3章

撮影現場

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 原田課長と梅原係長が頑として首を縦に振らないから、山根さんはついに広報部長に泣きついたらしい。

 打ち上げと言う名目の飲み会が開催されることになった。
 参加費は自腹だ。

 もちろん、私は参加する。奏とそう約束したから。

 通常業務をこなしながら、ウェディングドレスの撮影の日を迎えた。
 私のプランナーとしての仕事は池澤さんのキャンセル騒動のあとは大きな問題は起こっていない。

 雑誌のモデルさんたちはみんな、背が高くて手足が長くて、顔が小さくてかわいい。キラキラしていた。別世界の人みたいだ。

 ここに奏が来られないことに、ちょっと安心していた。
 こんなにきれいな女性がたくさんいたらきっと見惚れてしまう。そしてこの中の誰かに奏が見初められてしまう可能性だってある。

 一緒にやって来たカメラマンさんは知っている人だった。

「桐生さん!」

 驚いて思わず近寄って声をかけてしまう。

「是枝さん。元気?」
「おかげさまで」

 桐生さんは男性のアシスタントさんと一緒に現場に来た。

「是枝さんはドレス着ないの?」
「私ではとても……」

 苦笑いが出てしまう。こんなにきれいな人たちの中に混じったら、残念過ぎて浮いてしまう。

「奏は打ち上げだけ来るの?」
「はい。仕事が立て込んでいて」

 本当は梅原係長が来るように山根さんから指名があったのだけど、今日はどうしても本業で外せなかった。二係の中で一番余裕のあった私が代わりに撮影に立ち会う。

 でも広報部長と原田課長がいてくれるから、多分ほとんどやることはない。邪魔だけはしないようにおとなしくていようと思う。

「是枝さん、ちょっと良いかしら?」

 原田課長に呼ばれたので、桐生さんに会釈して去る。

 広い背中について行くと広報部長と山根さんが一緒にいた。
 私は一方的に知っているけれど、山根さんにとっては初対面。

「初めまして。是枝と申します。本日はよろしくお願いいたします」

 緊張しながら深々と頭を下げる。

「こちらこそでーす」

 何か私、悪いことをしたのだろうかと思うほど山根さんはそっけない。仕事だからこんなものだろうけれど。

「じゃ、私、用意あるんで」

 そそくさとモデルさんたちのいる場所へ行ってしまった。

 何も会話しないで済んだことにちょっとホッとする。

 しばらくして、撮影が始まった。

 雑誌の写真撮影はこんな風にするんだと、目の前の光景に感動した。
 撮る側も撮られる側もみんなプロだ。

 本当は奏も、この様子は見たかったかもしれない。

 私もコスプレ写真のポージングの参考にならないかと、モデルさんたちをじっくり見させてもらった。

 仕事なのに仕事じゃない、不思議な時間を過ごした。
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