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2章

波乱の打ち合わせ

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 本日ひとつ目の打ち合わせ。

 人の良さそうな新郎の池澤さんと、しっかり者の新婦の大貫さんはいつもふたりでやってくるのだけど、今日は違った。

 大貫さんの表情が死んでいる。

「こんな若いプランナーで大丈夫なの?」

 教育ママと言う雰囲気の眼鏡をかけた中年女性にいきなりディスられる。

 お会いした時から、なんとなく何者かは察しがついていた。
 私は初めての経験だけど、時々聞く。新郎の母親の介入。

 これは波乱の予感だ。

「ドレスの資料、見せてくださる?」

 お姑さんの言葉に私は一瞬戸惑ってしまい、大貫さんを見てしまう。

「あ……お願いします」

 大貫さんの目が死んでいる。

 私は内心冷や汗をかきながらうなずいて、予約済みのドレスの写真を差し出した。

 プリンセスラインの素敵なウエディングドレス。それからお色直しの時の薄い黄色のドレスもとてもかわいい。

 だけどそれを見てお姑さんの眉間にシワが寄った。

「肩を出して、みっともない」

 唖然としてしまった。多分顔に出てしまったけれど、あわてて取り繕って笑顔を作る。

「金額も高いわね」

 池澤さんを見たけれど、ニコニコしているだけで大貫さんをかばう様子がない。

 今日を無事乗りきれるか不安になってくる。

「お料理のコースですが、お式が1月なのでこちらのメニューになります」

 料理の資料を差し出す。フランス料理、和洋折衷、和食。それぞれ金額ごとにどんな料理か書かれている。

「一番多く選ばれるのが、フランス料理の一万五千円のコースです。ご予算的にも……」
「和食の二万円コースにしてくださる?」

 思わず言葉を失って固まってしまう。
 これではいけない。気持ちを立て直して口を開く。

「それでは予算オーバーになってしまいますので……」

 一人当たり五千円増えると、招待客は七十名の予定なので三十五万円も料理だけで増えてしまう。他のことでもお金がかかるのだから、料理は予定通りにしておきたかった。

「ドレスをキャンセルして、安いものにすれば良いじゃない」
「それでもとても賄いきれません。キャンセル料金が必要な場合もありますから」
「花嫁にお金をかける必要なんてないでしょう!」

 私に経験が少ないと見越して、舐められているところもあると思う。
 だけど、それにしたってひどい。はっきり言ってしまえば、結婚式の主役は花嫁だ。私はそう思って仕事をしている。

 それなのにどうして未来の奥さんがこんなに悲しそうな表情になっているのに、新郎は自分の母親を止めないのだろう。

 まだ今日の打ち合わせを始めたばかりだけど、上手くいく気がしなかった。



 ❁❁❁❁❁❁❁❁



 これからもう一件打ち合わせがあるのに、私は魂が抜けた状態で自分のデスクに突っ伏していた。

 あの後、予想通りの展開になった。

 これまで決めていたプラン全てに暫定お姑さんのダメ出しが入ったのだ。
 その場で白紙にはせず、一度持ち帰っていただくことになった。おかげで今日は何も決まらなかった。

「はあぁぁー」

 巨大なため息が出てしまう。
 暴走を止められなかった、私の力不足だ。

「大丈夫ですかぁー?」

 同じチームの新人、東雲しののめすみれさんが声をかけてくれる。

「東雲さん……。ありがと……」
「何かすごかったですねー」

 打ち合わせの途中で彼女がお茶のお替りを持ってきてくれたので、少し様子を知っていた。

「……すごかったね」

 深呼吸してリセットを試みる。
 次のお客様との約束の時間があるから、いつまでも引きずっていられない。

 ちらりと係長のデスクを見たけれど、席を外していた。予定ボードには取引先と打ち合わせと書いてあるのでここにはいない。帰ってきたら、池澤さんと大貫さんの件を報告しておこうと決める。

 次の打ち合わせに向かうため、まとめておいた資料を手に取った。
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