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1章

初めての夜 3

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 おかしい。

 本当に、純粋に、お互い汗を流すためにお風呂に入ったはずなのに。

 当たり前だけど、家族とだって小学生ぐらいまでしか一緒にお風呂なんて入っていない。だから係長とお風呂に一緒に入るのは恥ずかしいのに、勢いに流されてここまで来てしまった。

 それなのに。

「ひゃ……っ、ン、ふぁああッ!」

 どうしてもっと恥ずかしく、汗をかくことをしているのだろう。

 係長の腰が打ち付けられるたび、あられもない嬌声がこぼれる。

 バシャバシャと湯船のお湯も波打っている。

 今夜、三度目の行為。

 何もかもが初めてで、頭もついていかなかった。世間の恋人同士はこんなに激しいのだろうか。

 後ろから係長に抱きしめられてお風呂に入っていて、彼がどんな顔をしているのかちょっと気になって後ろを振り返った。

 それで目が合うと自然にキスをしていた。それがどんどん深くなって、気がついたら係長に獣のような体勢で貫かれていた。

 だけど気持ち良かったし、幸せだった。初めてなのに、私は相当なスキモノなのかもしれないと思うと恥ずかしい。

 日付が変わる前に十年の片想いに終止符を打ったばかりなのに。

「実梨……っ、みの、り……」

 私の肩に噛みつくみたいなキスをしながら、乳房を鷲掴みにしている係長の声は切羽詰まっている。

 誰かにこんなに激しい求められたことは、私のこれまでの人生で一度もなかったように思う。

 消えてしまいたいぐらい惨めだった数時間前のことを、係長の声が、熱が、掻き消してくれる。

「か、な……で、あっ、ぁぁあっ、ん……ッ」

 こんな風に始まる関係があっても良いのかもしれない。

 もちろん、係長も同意してくれるならだけど。

 私はバスタオルで胴体を包み、フラフラになりながらベッドへ戻って倒れ込んだ。

 腰にタオルを巻いた係長は途中で冷蔵庫に寄って、冷えたミネラルウォーターを取ってくれた。

「ありがとうございます」

 差し出されたペットボトルを受け取りながら座る。

 冷たい水が、熱の籠った身体に染み渡った。

「……係長、本当に私で良いんですか?」
「奏、だ」

 係長の膝がギシ、とベッドを軋ませる。

 柔らかく頬を撫でられ、ぎゅっと目を閉じると優しく唇が重なる。

「是枝さんが……」

 名字で私を呼んでから、係長はばつが悪そうに唇を結ぶ。

 なんだか可愛くて、つい笑いがこぼれた。

「笑うな」
「だって、係長だって……」
「奏だ」

 口を塞ぐようにキスをされたけれど、とても楽しい。じゃれあっているとわかる。

「実梨が良い。実梨が好きだ。俺の恋人になってほしい」

 長い睫毛に囲まれた双眸にまっすぐ見つめられる。

 四年近く一緒に仕事をしていて、こんなに情熱的な男性だなんて、全然知らなかった。と言うか、知ろうとしていなかった。

 ずっと狭い世界で生きようとしていたから。

「よろしくお願いします」

 小さく頭を下げる。

 係長のことをもっと知りたいと思った。

 そしてふと気がついた。

 相手を知るためには、私もさらけ出さないといけない。

 だけど係長は私のコスプレ趣味やアニメやゲームが好きすぎる部分を受け入れてくれるだろうか。

 隠し通すべきなのか。

 まだ答えは出なかった。
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