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3.双子の真実

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「これ。
誕生日プレゼント、です」

次に会ったとき、用意していた小箱を差し出すと、みるみるうちに笑顔になった柊人さんからはキラキラ星が飛び散った。

「僕に?
いいんですか?」

「はい。
星名……聖夜さんが誕生日ってことは柊人さんもですよね?」

「はい。
ありがとうございます!
開けてもいいですか?」

「どうぞ」

うきうきと包みを開けた柊人さんからはまた、キラキラ星が飛んだ。

「ボールペン、ですか。
いいですね」

嬉しそうな柊人さんは星名さんバリにキラキラしている。
いつもは落ち着いているけど、やっぱり双子。
嬉しいとキラキラするんだ。

「本当にありがとうございます。
……そうだ。
クリスマスプレゼント、なにが欲しいですか?」

あ、そっか。
もうひと月後はクリスマスか。
なにって言われてもなー。

「僕が選ばせていただいてもいいですか?」

迷っているとレンズの向こうの目がにっこりと細くなった。

この顔、苦手。
どきどきしてなにも言えなくなる。

「……お願いします」

「はい」

いつものように本の話なんかして、あっという間に時間は過ぎていく。

柊人さんといるのは楽しい。
身体に無駄な力が入らない。

「次、お会いできるのはクリスマスになるかと思います。
TLも留守にしがちかと。
仕事が忙しい時期に入りますので」

「そう、ですね。
年末ですもんね」

「その代わり、クリスマス絶対、ミサさんのために空けますので。
……そんな顔、しないでください」

困ったように笑われて、初めて自分が淋しいなんて思っていることに気がついた。

……そっか。
私は柊人さんに会えないのが淋しいんだ。



TLに柊人さんがあまり現れなくなって、淋しい日々を過ごした。
話をしたくても、忙しい柊人さんに話しかけるのは悪い気がして。
クリスマスまで我慢。



次に柊人さんと会う約束をした日まであと一週間。
会社で、応接室を片付けていたらボールペンが落ちていることに気がついた。

……私が、柊人さんにプレゼントしたのとよく似た。
いや、あれがこんなところに落ちているはずがない。
似ているだけ、もしくは誰か別の人の。

けれどそれには【S.Hosina】と名前が入っていた。

「なあ、ボールペン落ちて……って」

ボールペンを手に振り向いた私に、星名さんがみるみる青ざめていく。

「なんで、あなたが、これ、持ってる、の……?」

柊人さんが星名さんにあげた、とか?
星名さんが柊人さんから盗ったとか?

それとも。

「俺のだから」

「だって、これ、私が柊人さんにプレゼントしたの!!」

「柊人は俺、だから」

目の前が真っ暗になって足下が崩れていく。

柊人さんが星名――聖夜さん?
私はずっと欺されていた?

そうだよね、双子でもこんなに似ているはずがない。
服装と眼鏡で変えた雰囲気で、誤魔化されていた。

「私なんかからかって、おもしろかったですか」

「……違う」

「双子の兄とか莫迦正直に信じてた私は、さぞかし滑稽だったでしょうね」

「……違う」

「それとも会社で根暗な私が、違う性格を演じてておかしかったですか」

「……違う」

「違わない!
あなたは、ただ……」

落ちそうになった涙に部屋を飛び出る。
そのまま走ってトイレの個室に入り鍵をかけると、背中がドアをずるずると滑り落ちた。

「莫迦だ、私は……」

涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
口からは嗚咽が漏れる。
泣いて、泣き腫らして席に戻ると、何事かと視線が痛かったが無視しておいた。
特にちらちらと向かってくるひとりからの視線は完全にシャットアウトした。


帰りに携帯を見るといくつも通知が入っていたが、内容も確認せずにすべてブロックした。

ベッドの上で枕を抱いて丸くなるとまた涙が出てくる。

……どうしていままで、気付かなかったんだろう。
双子、とか信じてさ。
だいたいなんで、SNSで別人みたいに演じているのよ。

最低。
ほんと、最低。

きっと陰で、私のこと笑っていたんだ。
もうあの会社、いられないよ……。


そうは思ったものの、次の職場も決まってない状態で会社なんて辞められない。

それに、年末の忙しい時期。

いきなり辞めるなんて非常識なこと、できないし。
嫌々会社に行き、いままでよりもさらに黙々と仕事をこなす。

会いたくないあの人は完全に無視。

なのに席を空けるたびにメモが置いてある。

【一度ゆっくり話をしたい】

私にはする話なんてないです。

【誤解を解きたい】

なにが誤解ですか?
あれがすべてですよね。

【俺が悪かった。
話を聞いてほしい】

悪かったことは認めるんですね。
でも私は言い訳なんて聞きたくないです。

【なんでもするから、話をしよう】

毎回毎回、女子に人気のちょっとしたお菓子と共に置いてあるメモ。
ゴミ箱にお菓子共々直行しかけて、食べ物を粗末にするのは気が引けて、お菓子だけおやつ置き場に放置する。

放置したお菓子を甘いもの好きな課長が目敏く見つけて食べているのを、泣きそうな顔で見ているのは知っているが知らないふり。

【二十四日。
約束通り、待っている。
来るまで待っているから】

二十二日。
置かれたメモにいつも通り処理する。

今年は暦の関係で二十四日は土曜日で会社は休み。
当然、二十三日も祝日で休み。
今日が最後のチャンスなわけ。

一緒に置いてあったお菓子も、近くのケーキ店に朝一で並ばないと買えないものだったけど、迷わずそのままおやつ置き場に。

大喜びで食べた課長にがっくりとうなだれているあの人は、いつものキラキラお星様が飛んでいないどころか、色褪せて見えるが関係ない。
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