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第六章 終わりへ向かっていく時間
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最後、私が熱中症で倒れると実に不甲斐ない結果で終わったものの、イベント自体は概ね成功だった。
会長から呼ばれ、ママさん社員のフォローの現状についても聞かれた。
仕事が、いい方向へ動いているのを実感する。
でもきっと、私がこの会社にいるのはあと少しだ。
矢崎くんと離婚となれば、もうここにはいられない。
「純華ー、終わったかー?」
「もう終わるー」
廊下に顔を出し、矢崎くんに答える。
イベント翌週、予定どおり私たちは新居に引っ越しした。
といっても、彼が荷造りから荷解きまでのフルサービスで手配したので、やることはほとんどない。
「なあ。
やっぱり家具も家電も全部買い替えたほうが……」
「うっさい」
「んんっ!」
文句を言う矢崎くんの唇を摘まんで封じてやる。
「拘りの家を建てたときに、拘りの家具を揃えるって決めたでしょ?」
引っ越しに伴い、家具家電の買い替えで矢崎くんとは揉めた。
だって、全部買い替えようとか言うんだよ?
もうかなり使い込んでいるとかならまだしも、矢崎くんちの冷蔵庫と洗濯機は買い替えたばかりだというし。
どうせ、家を建てたらまた買い替えるとか言い出すのだ。
なら、今までのをそれまでは使えばいい。
それに新居での生活は長く続かないのだから、無駄なお金を使わせたくなかった。
「明日は犬、見に行くんだっけ?」
「そう」
新居初日の晩ごはんはピザを取った。
ほとんど引っ越し業者任せといっても、やはり疲れている。
「楽しみだね、豆柴」
「そうだな」
楽しみで仕方ないのか、彼はもう今からそわそわしっぱなしだ。
大型犬は散歩のときなどに私の手に余るかもと、避けてもらった。
矢崎くんからも異存はなかったし。
一緒に見た画像の黒柴は凄く可愛くて、私も楽しみだ。
それに私も、早く犬をお迎えしたかった。
犬がいれば私がいなくなっても、矢崎くんが淋しい思いをしないで済むかもしれないから。
「ほら、パパは忙しいんだから、あっちでママと遊ぼうねー」
矢崎くんの脚に絡む、仔犬を抱き上げる。
「くぅーん」
仔犬が淋しそうに声を上げ申し訳なくなったが、そこは心を鬼にした。
早く行ってと、矢崎くんに目配せをする。
「すまん、イブキ!
仕事が片付いたら、存分に遊んでやるからなー!」
涙を堪えるように、彼はリビングを出ていった。
そんな大げさな、なんて笑ってしまったが仕方ない。
「さて、イブキ。
なにして遊ぼうか」
「きゅぅん」
床に仔犬を下ろしたが、仔犬はいつも矢崎くんが使っているクッションの上で、丸くなってしまった。
「そっか。
イブキも淋しいのか。
しばらくパパに遊んでもらってないもんね」
「きゅぅん」
横に座って頭を撫でるとまた、仔犬が声を上げる。
引っ越しが終わったのを見計らったかのように、今度は矢崎くんの仕事が忙しくなっていった。
おかげで、せっかくお迎えした仔犬ともあまりふれあえていない。
「これが終わったら落ち着くからさー。
そうしたらいっぱい、遊んでもらえるよ」
「あん!」
意味がわかったのか仔犬が嬉しそうに鳴く。
でもそれは私と矢崎くんとの関係の終わりを意味していて、苦しくなった。
朝ごはんの準備をしていたら、矢崎くんが起きてきた。
「わるい、純華!
寝坊した!」
「夜遅くまで仕事してるんだから仕方ないよ。
もうできるから、顔洗ってきてー」
「ほんとにわるい!」
何度も詫びながら彼がリビングを出ていき、苦笑いしてしまう。
最近は以前と立場が逆転していた。
私は担当していたイベントも終わり、今は暇な期間に入っている。
さらに仕事が見直され、加古川さんのフォローが少し楽になった。
それにもうすぐ、辞めたあと補充されなかった社員も入ってくるという。
仕事に余裕ができた私とは反対に、矢崎くんは例の雑貨店との契約が大詰めで大忙しだ。
家に帰ってからも遅くまで、仕事をしている。
そんな状態なので、家事負担も当然変わるわけで。
「ごめんなー。
このところ毎日、純華に朝食作らせて」
食卓に着いた矢崎くんは、申し訳なさそうに朝食を食べている。
「いいって。
それに今までずっと、矢崎くんに作ってもらってたし」
「ううっ、俺が純華のお世話したいのに……」
そうなのだ、矢崎くんは私のお世話をなんでもしたがって、いくら言っても家事を一切、やらせてくれなかった。
「私だって矢崎くんのお世話がしたいって言ったでしょ?
だから全然いいよ」
今の私はやりがいのようなものを感じていた。
私が、矢崎くんを支えている。
そんな、満足感。
彼がやたらと私のお世話をしたがる気持ちがわかった。
「それにさ、やることほとんどないし」
苦笑いを彼に向ける。
新居に移ってからも、矢崎くんは家政婦さんを雇っていた。
家事のほとんどを家政婦さんがやってくれているので、私がやることはほとんどない。
「今日の朝ごはんだって、お味噌汁作って塩鯖焼いただけだよ」
もはやこれは作ったといえるのかも疑わしい。
出汁は家政婦さんが取って、ボトルで常備してくれているしね。
「それでもさー」
まだうだうだ矢崎くんは言っていて、もう笑うしかできない。
「家事なんて手が空いてる人がやればいいんだよ。
今は矢崎くんが忙しいから、私がするだけ。
落ち着いたらまた、作ってもらうし。
というか、お味噌汁は矢崎くんが作ったののほうが美味しい」
「そうか!
じゃあ、仕事が片付いたらまた、作ってやるな!」
矢崎くんの顔が輝き、一気に上機嫌になる。
これくらいで喜んでくれるなんて、チョロくてよかった。
でも、そういうところが可愛いと思っているのも事実だ。
会長から呼ばれ、ママさん社員のフォローの現状についても聞かれた。
仕事が、いい方向へ動いているのを実感する。
でもきっと、私がこの会社にいるのはあと少しだ。
矢崎くんと離婚となれば、もうここにはいられない。
「純華ー、終わったかー?」
「もう終わるー」
廊下に顔を出し、矢崎くんに答える。
イベント翌週、予定どおり私たちは新居に引っ越しした。
といっても、彼が荷造りから荷解きまでのフルサービスで手配したので、やることはほとんどない。
「なあ。
やっぱり家具も家電も全部買い替えたほうが……」
「うっさい」
「んんっ!」
文句を言う矢崎くんの唇を摘まんで封じてやる。
「拘りの家を建てたときに、拘りの家具を揃えるって決めたでしょ?」
引っ越しに伴い、家具家電の買い替えで矢崎くんとは揉めた。
だって、全部買い替えようとか言うんだよ?
もうかなり使い込んでいるとかならまだしも、矢崎くんちの冷蔵庫と洗濯機は買い替えたばかりだというし。
どうせ、家を建てたらまた買い替えるとか言い出すのだ。
なら、今までのをそれまでは使えばいい。
それに新居での生活は長く続かないのだから、無駄なお金を使わせたくなかった。
「明日は犬、見に行くんだっけ?」
「そう」
新居初日の晩ごはんはピザを取った。
ほとんど引っ越し業者任せといっても、やはり疲れている。
「楽しみだね、豆柴」
「そうだな」
楽しみで仕方ないのか、彼はもう今からそわそわしっぱなしだ。
大型犬は散歩のときなどに私の手に余るかもと、避けてもらった。
矢崎くんからも異存はなかったし。
一緒に見た画像の黒柴は凄く可愛くて、私も楽しみだ。
それに私も、早く犬をお迎えしたかった。
犬がいれば私がいなくなっても、矢崎くんが淋しい思いをしないで済むかもしれないから。
「ほら、パパは忙しいんだから、あっちでママと遊ぼうねー」
矢崎くんの脚に絡む、仔犬を抱き上げる。
「くぅーん」
仔犬が淋しそうに声を上げ申し訳なくなったが、そこは心を鬼にした。
早く行ってと、矢崎くんに目配せをする。
「すまん、イブキ!
仕事が片付いたら、存分に遊んでやるからなー!」
涙を堪えるように、彼はリビングを出ていった。
そんな大げさな、なんて笑ってしまったが仕方ない。
「さて、イブキ。
なにして遊ぼうか」
「きゅぅん」
床に仔犬を下ろしたが、仔犬はいつも矢崎くんが使っているクッションの上で、丸くなってしまった。
「そっか。
イブキも淋しいのか。
しばらくパパに遊んでもらってないもんね」
「きゅぅん」
横に座って頭を撫でるとまた、仔犬が声を上げる。
引っ越しが終わったのを見計らったかのように、今度は矢崎くんの仕事が忙しくなっていった。
おかげで、せっかくお迎えした仔犬ともあまりふれあえていない。
「これが終わったら落ち着くからさー。
そうしたらいっぱい、遊んでもらえるよ」
「あん!」
意味がわかったのか仔犬が嬉しそうに鳴く。
でもそれは私と矢崎くんとの関係の終わりを意味していて、苦しくなった。
朝ごはんの準備をしていたら、矢崎くんが起きてきた。
「わるい、純華!
寝坊した!」
「夜遅くまで仕事してるんだから仕方ないよ。
もうできるから、顔洗ってきてー」
「ほんとにわるい!」
何度も詫びながら彼がリビングを出ていき、苦笑いしてしまう。
最近は以前と立場が逆転していた。
私は担当していたイベントも終わり、今は暇な期間に入っている。
さらに仕事が見直され、加古川さんのフォローが少し楽になった。
それにもうすぐ、辞めたあと補充されなかった社員も入ってくるという。
仕事に余裕ができた私とは反対に、矢崎くんは例の雑貨店との契約が大詰めで大忙しだ。
家に帰ってからも遅くまで、仕事をしている。
そんな状態なので、家事負担も当然変わるわけで。
「ごめんなー。
このところ毎日、純華に朝食作らせて」
食卓に着いた矢崎くんは、申し訳なさそうに朝食を食べている。
「いいって。
それに今までずっと、矢崎くんに作ってもらってたし」
「ううっ、俺が純華のお世話したいのに……」
そうなのだ、矢崎くんは私のお世話をなんでもしたがって、いくら言っても家事を一切、やらせてくれなかった。
「私だって矢崎くんのお世話がしたいって言ったでしょ?
だから全然いいよ」
今の私はやりがいのようなものを感じていた。
私が、矢崎くんを支えている。
そんな、満足感。
彼がやたらと私のお世話をしたがる気持ちがわかった。
「それにさ、やることほとんどないし」
苦笑いを彼に向ける。
新居に移ってからも、矢崎くんは家政婦さんを雇っていた。
家事のほとんどを家政婦さんがやってくれているので、私がやることはほとんどない。
「今日の朝ごはんだって、お味噌汁作って塩鯖焼いただけだよ」
もはやこれは作ったといえるのかも疑わしい。
出汁は家政婦さんが取って、ボトルで常備してくれているしね。
「それでもさー」
まだうだうだ矢崎くんは言っていて、もう笑うしかできない。
「家事なんて手が空いてる人がやればいいんだよ。
今は矢崎くんが忙しいから、私がするだけ。
落ち着いたらまた、作ってもらうし。
というか、お味噌汁は矢崎くんが作ったののほうが美味しい」
「そうか!
じゃあ、仕事が片付いたらまた、作ってやるな!」
矢崎くんの顔が輝き、一気に上機嫌になる。
これくらいで喜んでくれるなんて、チョロくてよかった。
でも、そういうところが可愛いと思っているのも事実だ。
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