上 下
12 / 53
第二章 それまでは夫婦でいさせて

12

しおりを挟む
翌日は母がお昼にお寿司を取るというので、それにあわせて矢崎くんの運転で実家へ行った。
そう。
彼は車を持っていて、しかもSUVタイプの高級外車だったが、それにはもう触れない。

「ただいまー」

「おかえりー」

ドアを開けるとすぐに、母が出てくる。

「こんにちは」

爽やかに白い歯を見せて矢崎くんは笑って挨拶したが、私に言わせれば胡散臭い。
しかし。

「まあ。
あら、あら……!」

母には効果があったみたいで、乙女のように頬を赤らめた。

「もう。
こんなイケメンの彼氏がいるならそりゃ、見合いも断るわよね。
早く言いなさいよ」

「えっと……ごめん」

お茶を淹れている母に、曖昧な笑みを向ける。
あの日、母との電話の時点では、矢崎くんと結婚するなんて微塵も思っていなかったのだ。

「突然お伺いして、すみません」

「いいのよー。
こんなイケメンならいつでも大歓迎だわ」

にこにこ笑いながら母がお茶を出してくれる。
しかし、機嫌がいいのはここまで。
きっと彼の正体を聞いて、機嫌が悪くなる。
もしかしたら帰れと言われるかもしれない。
それを想像して、そわそわと落ち着かなかった。

「えっと。
結婚……を考えている、矢崎さん」

さすがに結婚したとは言えず、言葉を濁す。

「矢崎紘希と申します。
純華さんとは同じ会社の同期です」

矢崎くんは頭を下げた。

「そういえばときどき、純華から聞いたことがあるわ」

期待を込めてぱーっと母の顔が輝く。

「もしかしてずっと前から付き合ってたの?」

「えっ、あっ、それは」

「付き合い始めたのはつい最近です。
でも、ずっと前から互いに意識はしていて。
それで、もういっそ結婚しようかという話になりまして」

爽やかに笑いながらすらすら嘘が出てくる矢崎くんが恐ろしい。
しかし今はそれに乗るしかないので、うんうんと頷いておいた。

「そうなの。
純華から聞いているでしょうが、うちは母子家庭なの。
夫は女を作って出ていってね。
そういうの、親御さんは気にしないかしら?」

母は笑っていたが、その目は完全に矢崎くんを試している。

「気にしないと思います。
父は弁護士で、お母様のような人を守る立場の人間ですし。
それにもし、万が一にもそれを理由に反対するようなら、僕のほうから縁を切ってやりますよ」

「あら。
お父様は弁護士なの?」

「はい、父は弁護士をしております。
ちなみに母は専業主婦ですが、子供食堂でボランティアをしております。
そんな人たちなので、純華さんが母子家庭だという理由で反対しないと思います」

「立派なご両親なのねー」

さっきから母と矢崎くんの会話が、腹の探り合いに見えるのは私だけだろうか。
まあ、母としては変な人間に娘をやるわけにはいかないだろうし、そうなるか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

あなたが居なくなった後

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの専業主婦。 まだ生後1か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。 朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。 乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。 会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願う宏樹。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……。

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

処理中です...