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第二章 それまでは夫婦でいさせて
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翌日は矢崎くんに見送られて仕事に行った。
「いってらっしゃい」
今日も彼が、私にキスしてくる。
それが、くすぐったくってちょっと嬉しい。
「いってきます」
彼に少しだけ笑顔を向け、家を出る。
なんだか今日は、いつも以上に頑張れそうな気がした。
休日は会議がないし、クライアントからの電話も減るので仕事に集中できる。
いつもはなかなかできない、請求書の作成などの溜まっている雑務をこなしていった。
「すーみか」
「うわっ!」
突然、後ろから肩を叩かれて思わず悲鳴が出る。
「驚いた?」
びっくりしている私の顔をのぞき込んでおかしそうに笑ったのは、矢崎くんだった。
「そりゃ、びっくりするよ」
急に肩を叩かれたら、誰だって驚くに決まっている。
「純華、集中してて全然気づかないんだもんなー」
「うっ」
それは……そう、かも。
「どうしたの?
矢崎くんも休日出勤だったの?」
今朝、家を出るとき、なにも言っていなかったが。
「いや?
純華の仕事、手伝おうと思って」
にかっと笑って隣の椅子に座り、彼がパソコンを立ち上げる。
「えっ、そんなの悪いよ。
それにいろいろまずくない?」
営業部の彼がイベント企画部の手伝いをするとか。
「んー?
仕事重なってる部分多いし、事務処理なら問題ないだろ。
それに仕事が明日にまで持ち越して、純華のお母さんに紹介してもらえなくなったら大変だからな」
大真面目に矢崎くんは頷いていて、ちょっとおかしくなってくる。
「そう、だね。
じゃあ、お願いします」
実際、仕事が回っていないのは事実だ。
ありがたく、手伝ってもらおう。
もし、上司になにか言われたら、そのときはこの件について改めて話をするきっかけになるかもしれない。
「おう、任せろ。
なにからしたらいい?」
「じゃあ……」
それに、矢崎くんとふたり並んで仕事をするなんて、ちょっと新鮮でどきどきした。
矢崎くんのおかげで仕事はかなり速く終わった。
「ありがとー、助かった!」
思った以上に進められたので、来週は少し楽になりそうだ。
「いや。
俺も早くレポート書いてしまって、純華の仕事が楽になるように頑張るな」
バッグを持ち、一緒に立ち上がる。
こうやって気遣ってくれるところ、よき同期だ。
「なに食べて帰ろうか」
「あ、いや」
今日こそ普通に家に帰り、溜まっている家事をやってしまいたい。
なんて私の思いは無駄に終わった。
「あ、溜まってた洗濯して、軽く掃除機もかけておいたぞ。
トイレ掃除と風呂掃除もしておいた」
さりげなく言って、矢崎くんが手を繋いでくる。
「え、矢崎くんがしたの?」
「俺がしなくて誰がするんだよ」
私の疑問に彼は若干不服そうだが、……ねぇ。
「だってあんなところに住んでる御曹司?
がトイレ掃除とかするとか思わないよ」
家政婦さんを雇っていると言っていたし、家事はほとんど任せていそうだ。
「確かに広い意味で俺は御曹司だが、俺の家は普通より少しだけ裕福な家だ。
小さい頃から手伝いはしていたし、ゴミ出しだってするし、トイレ掃除だってする」
なんかちょっと意外というか。
でも、こういうのは旦那様加点が高い。
「そうなんだ。
ありがとう」
素直にお礼を言った時点で気づいた。
洗濯も矢崎くんがしたってことは、下着も見られた?
「あー、えっと。
洗濯って下着も……」
「洗ったぞ、もちろん」
……デスヨネー。
一緒のかごに入っているのに、下着だけしないとかないもん。
「なにをいまさら恥ずかしがってるんだよ。
純華だって俺の下着、洗濯するだろ」
「いや、それとこれとは違うというか……」
確かに矢崎くんが泊まった日、彼の下着を洗濯している。
それに防犯をかねて一緒に干しておけって言われていたしね。
でも、彼のボクサーパンツを私が洗うのと、私の下着を彼が洗うのではなんか違う気がする。
「なにが違うんだ?
……ああ。
純華ってけっこう、可愛い下着つけてるんだなーとは思ったけど」
「そこだよ!」
思い出しているのかにやけている彼に、間髪入れずツッコんだ。
「そうやって想像されるのが、嫌」
「そうか、じゃあ気をつける」
大真面目に彼が頷くので、なんかそれ以上怒れなくなった。
「いってらっしゃい」
今日も彼が、私にキスしてくる。
それが、くすぐったくってちょっと嬉しい。
「いってきます」
彼に少しだけ笑顔を向け、家を出る。
なんだか今日は、いつも以上に頑張れそうな気がした。
休日は会議がないし、クライアントからの電話も減るので仕事に集中できる。
いつもはなかなかできない、請求書の作成などの溜まっている雑務をこなしていった。
「すーみか」
「うわっ!」
突然、後ろから肩を叩かれて思わず悲鳴が出る。
「驚いた?」
びっくりしている私の顔をのぞき込んでおかしそうに笑ったのは、矢崎くんだった。
「そりゃ、びっくりするよ」
急に肩を叩かれたら、誰だって驚くに決まっている。
「純華、集中してて全然気づかないんだもんなー」
「うっ」
それは……そう、かも。
「どうしたの?
矢崎くんも休日出勤だったの?」
今朝、家を出るとき、なにも言っていなかったが。
「いや?
純華の仕事、手伝おうと思って」
にかっと笑って隣の椅子に座り、彼がパソコンを立ち上げる。
「えっ、そんなの悪いよ。
それにいろいろまずくない?」
営業部の彼がイベント企画部の手伝いをするとか。
「んー?
仕事重なってる部分多いし、事務処理なら問題ないだろ。
それに仕事が明日にまで持ち越して、純華のお母さんに紹介してもらえなくなったら大変だからな」
大真面目に矢崎くんは頷いていて、ちょっとおかしくなってくる。
「そう、だね。
じゃあ、お願いします」
実際、仕事が回っていないのは事実だ。
ありがたく、手伝ってもらおう。
もし、上司になにか言われたら、そのときはこの件について改めて話をするきっかけになるかもしれない。
「おう、任せろ。
なにからしたらいい?」
「じゃあ……」
それに、矢崎くんとふたり並んで仕事をするなんて、ちょっと新鮮でどきどきした。
矢崎くんのおかげで仕事はかなり速く終わった。
「ありがとー、助かった!」
思った以上に進められたので、来週は少し楽になりそうだ。
「いや。
俺も早くレポート書いてしまって、純華の仕事が楽になるように頑張るな」
バッグを持ち、一緒に立ち上がる。
こうやって気遣ってくれるところ、よき同期だ。
「なに食べて帰ろうか」
「あ、いや」
今日こそ普通に家に帰り、溜まっている家事をやってしまいたい。
なんて私の思いは無駄に終わった。
「あ、溜まってた洗濯して、軽く掃除機もかけておいたぞ。
トイレ掃除と風呂掃除もしておいた」
さりげなく言って、矢崎くんが手を繋いでくる。
「え、矢崎くんがしたの?」
「俺がしなくて誰がするんだよ」
私の疑問に彼は若干不服そうだが、……ねぇ。
「だってあんなところに住んでる御曹司?
がトイレ掃除とかするとか思わないよ」
家政婦さんを雇っていると言っていたし、家事はほとんど任せていそうだ。
「確かに広い意味で俺は御曹司だが、俺の家は普通より少しだけ裕福な家だ。
小さい頃から手伝いはしていたし、ゴミ出しだってするし、トイレ掃除だってする」
なんかちょっと意外というか。
でも、こういうのは旦那様加点が高い。
「そうなんだ。
ありがとう」
素直にお礼を言った時点で気づいた。
洗濯も矢崎くんがしたってことは、下着も見られた?
「あー、えっと。
洗濯って下着も……」
「洗ったぞ、もちろん」
……デスヨネー。
一緒のかごに入っているのに、下着だけしないとかないもん。
「なにをいまさら恥ずかしがってるんだよ。
純華だって俺の下着、洗濯するだろ」
「いや、それとこれとは違うというか……」
確かに矢崎くんが泊まった日、彼の下着を洗濯している。
それに防犯をかねて一緒に干しておけって言われていたしね。
でも、彼のボクサーパンツを私が洗うのと、私の下着を彼が洗うのではなんか違う気がする。
「なにが違うんだ?
……ああ。
純華ってけっこう、可愛い下着つけてるんだなーとは思ったけど」
「そこだよ!」
思い出しているのかにやけている彼に、間髪入れずツッコんだ。
「そうやって想像されるのが、嫌」
「そうか、じゃあ気をつける」
大真面目に彼が頷くので、なんかそれ以上怒れなくなった。
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