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二.元彼の結婚式――押し倒されていた  

3.お酒の失敗

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ずきずきと痛むあたまで目が覚めると……隣で加久田が、眠っていた。

……なんで加久田がここに!?
てかこれって、どうみても、……そういうこと、だよな?
えーっと、考えろ、考えろ、考えろ……。

まだ靄がかかったようになっているあたまをはっきりさせるように、シャワーを浴びる。

……えーっと、昨日は裕紀の結婚式で、
帰る途中で加久田に会って、それでやけ酒に付き合わせて、そんでもって、店を出たけど飲み足りなくて、うちに誘って、それで更に飲んで……。

ああ、なんか凄い恥ずかしいこと、加久田にいっていた気がする。
で、加久田が憧れていたとかなんとかいっていて、押し倒されて、キスされて……。

うん。
そっからあとのことはよく覚えていないけど。
でも、大体思い出せた。

……で。
これはどうしたらいいのかなー?
 
浴室から出ると、まだのんきに寝ている加久田に腹が立ってくる。

……おまえのせいで、こんなに悩んでいるっていうのに。

時間を確認すると朝七時ちょっと前。
加久田んちはうちから電車で三駅のはずだから……いまから起こして、余裕で会社、間に合うな。

「加久田。
おい、加久田、起きろ」

「……んー。
あー、先輩、おはようございまーす」

「おはようございます、じゃない。さっさと起きて服着ろ。
一回帰らないとおまえ、出社できないだろーが」

「そーですねー」

……大丈夫か、こいつ。

内心毒突きつつ、炊飯器を開けておにぎりを握る。
緊急だから塩にぎりに海苔巻いただけ。
二つほど作ってラップを巻いて適当なレジ袋に放り込んだら、加久田が出られるようになっていた。

「昨日のことは、その、いいたいことも聞きたいことも結構あるけど、とりあえず、会社が終わるまで保留にしとく。
それで、これは、時間があったら朝食代わりに食え」

「わーい。
先輩が朝ごはん作ってくれたー」

「うるさい。
遅刻したら殺すからな」

「殺されないように頑張ります。
じゃあ」    

靴を履いた加久田にレジ袋に入れたおにぎりを突き出すと、上機嫌でそれを持って帰っていった。

「……はぁーっ」
 
ため息をつきつつドアを閉め、部屋の中に戻る。

……今日の弁当は加久田におにぎり持たせてめしがなくなったから、外ランチだな。

そんなことを考えつつ冷蔵庫からヨーグルトを出そうとして、大量のビールに気が付いた。

……ビール、あんまり飲まないのに。
買いすぎ。
どーすっかなー?

またため息をつきつつ、ヨーグルトを手に冷蔵庫を閉める。
コーヒーを淹れて、朝のニュースを見ながら少しだけシリアルを足したヨーグルトを食べる。
食べ終わったら水につけとく。
着替えようとして、昨日借りていた加久田のスーツが目に入った。

……加久田のことは、どうしたらいいんだろ?
ううん。いまは考えない。会社が終わるまで、保留。

いつものパンツスーツに着替えて、髪をくくって簡単に化粧する。
家を出られるようになってちょっと迷ったけど、加久田のスーツを紙袋に放り込んだ。     


出勤途中の朝早くから開いている、昔ながらのクリーニング店に寄る。

「すみません、これ、お願いします」

「はーい。
……あら、これ背広ね。
彼氏の?」

「違います。
ちょっと事情があって借りてただけです」

「そうなの?
篠崎さん、美人なのになかなかお婿さんが見つからないから、おばちゃん心配で」

「いつ、できますか?」

おばちゃんの話は長くなりそうなので、急いで止めた。

「急ぎ?」

「いいえ」

「明後日、でいいかしら?」

「はい。
よろしくお願いします」
 
クリーニング店を出て、駅に向かう。

……ここに越してきて四年。
あのクリーニング店は朝早くから夜も比較的遅くまで開いていて、便利がいいからずっと利用している。

……ただ。                

おばちゃんの詮索好きが玉に瑕、だ。
昔はそれでよかったんだろうけど。


「おはよう」

「おはようございます、篠崎さん」

美咲ちゃんに声を掛けて席に着く。
加久田はまだ、出社していない。

「どうしたんですか?」

「なにが?」

「なんかちょっと、怖い顔、してます」
 
コーヒー出してくれつつ、眉間をつんつんされた。

「……皺、寄ってる?」

「……ちょっと。
理由はわからなくもないですが、あんまり引き摺るのはよくないですよ」

「そう、だな」
 
……ううっ、ごめん、美咲ちゃん。
変な気、使わせて。
でも原因はそっちじゃないんだ。

朝の準備をしつつ、なんとなくそわそわと加久田を待つ。
しかしなかなか奴は来ない。

「おはようございます」

「もう!
加久田、あと五分で遅刻だぞ!」      

「別に遅刻してないからいいだろ」

美咲ちゃんに絡まれている加久田を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
目が合うと、にこっと笑われた。


ひたすら一日、昨晩のことを考えないように仕事に打ち込んだ。

……それでも。

加久田と目が合ったり、手がふれたりするだけで、どきりとしてしまう。
なぜか疲れる一日を過ごし、退社時間まで一時間を切ったところで、外回りに出していた加久田からメッセージが届いた。

【あとで、先輩の家に直帰します】

「美咲ちゃん!
加久田、直帰になったから!」

「えー。
そうなんですか?
……っていうか、篠崎さん、顔、赤いですよ?
どうしたんですか?」

「えっ?
あっ、部屋の中、なんかちょっと暑くないか?」
 
わざとらしく、ファイルで扇いでみたりしたけど、美咲ちゃんは不審そうだ。

「そうですか?
あ、またいつかみたいに熱でてるんじゃないですか!?」

「そんなことないよ」        

「……そうですね。
おでこ、熱くないし。
ならいいんですけど」

私のおでこから手をはずして、やっと美咲ちゃんが納得してくれた。
気付かれないように小さくため息。

……うちに直帰って、どういうことだよ?

なんかちょっとむかついて、返事は返さないでおいた。
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