6 / 17
二.元彼の結婚式――押し倒されていた
3.お酒の失敗
しおりを挟む
ずきずきと痛むあたまで目が覚めると……隣で加久田が、眠っていた。
……なんで加久田がここに!?
てかこれって、どうみても、……そういうこと、だよな?
えーっと、考えろ、考えろ、考えろ……。
まだ靄がかかったようになっているあたまをはっきりさせるように、シャワーを浴びる。
……えーっと、昨日は裕紀の結婚式で、
帰る途中で加久田に会って、それでやけ酒に付き合わせて、そんでもって、店を出たけど飲み足りなくて、うちに誘って、それで更に飲んで……。
ああ、なんか凄い恥ずかしいこと、加久田にいっていた気がする。
で、加久田が憧れていたとかなんとかいっていて、押し倒されて、キスされて……。
うん。
そっからあとのことはよく覚えていないけど。
でも、大体思い出せた。
……で。
これはどうしたらいいのかなー?
浴室から出ると、まだのんきに寝ている加久田に腹が立ってくる。
……おまえのせいで、こんなに悩んでいるっていうのに。
時間を確認すると朝七時ちょっと前。
加久田んちはうちから電車で三駅のはずだから……いまから起こして、余裕で会社、間に合うな。
「加久田。
おい、加久田、起きろ」
「……んー。
あー、先輩、おはようございまーす」
「おはようございます、じゃない。さっさと起きて服着ろ。
一回帰らないとおまえ、出社できないだろーが」
「そーですねー」
……大丈夫か、こいつ。
内心毒突きつつ、炊飯器を開けておにぎりを握る。
緊急だから塩にぎりに海苔巻いただけ。
二つほど作ってラップを巻いて適当なレジ袋に放り込んだら、加久田が出られるようになっていた。
「昨日のことは、その、いいたいことも聞きたいことも結構あるけど、とりあえず、会社が終わるまで保留にしとく。
それで、これは、時間があったら朝食代わりに食え」
「わーい。
先輩が朝ごはん作ってくれたー」
「うるさい。
遅刻したら殺すからな」
「殺されないように頑張ります。
じゃあ」
靴を履いた加久田にレジ袋に入れたおにぎりを突き出すと、上機嫌でそれを持って帰っていった。
「……はぁーっ」
ため息をつきつつドアを閉め、部屋の中に戻る。
……今日の弁当は加久田におにぎり持たせてめしがなくなったから、外ランチだな。
そんなことを考えつつ冷蔵庫からヨーグルトを出そうとして、大量のビールに気が付いた。
……ビール、あんまり飲まないのに。
買いすぎ。
どーすっかなー?
またため息をつきつつ、ヨーグルトを手に冷蔵庫を閉める。
コーヒーを淹れて、朝のニュースを見ながら少しだけシリアルを足したヨーグルトを食べる。
食べ終わったら水につけとく。
着替えようとして、昨日借りていた加久田のスーツが目に入った。
……加久田のことは、どうしたらいいんだろ?
ううん。いまは考えない。会社が終わるまで、保留。
いつものパンツスーツに着替えて、髪をくくって簡単に化粧する。
家を出られるようになってちょっと迷ったけど、加久田のスーツを紙袋に放り込んだ。
出勤途中の朝早くから開いている、昔ながらのクリーニング店に寄る。
「すみません、これ、お願いします」
「はーい。
……あら、これ背広ね。
彼氏の?」
「違います。
ちょっと事情があって借りてただけです」
「そうなの?
篠崎さん、美人なのになかなかお婿さんが見つからないから、おばちゃん心配で」
「いつ、できますか?」
おばちゃんの話は長くなりそうなので、急いで止めた。
「急ぎ?」
「いいえ」
「明後日、でいいかしら?」
「はい。
よろしくお願いします」
クリーニング店を出て、駅に向かう。
……ここに越してきて四年。
あのクリーニング店は朝早くから夜も比較的遅くまで開いていて、便利がいいからずっと利用している。
……ただ。
おばちゃんの詮索好きが玉に瑕、だ。
昔はそれでよかったんだろうけど。
「おはよう」
「おはようございます、篠崎さん」
美咲ちゃんに声を掛けて席に着く。
加久田はまだ、出社していない。
「どうしたんですか?」
「なにが?」
「なんかちょっと、怖い顔、してます」
コーヒー出してくれつつ、眉間をつんつんされた。
「……皺、寄ってる?」
「……ちょっと。
理由はわからなくもないですが、あんまり引き摺るのはよくないですよ」
「そう、だな」
……ううっ、ごめん、美咲ちゃん。
変な気、使わせて。
でも原因はそっちじゃないんだ。
朝の準備をしつつ、なんとなくそわそわと加久田を待つ。
しかしなかなか奴は来ない。
「おはようございます」
「もう!
加久田、あと五分で遅刻だぞ!」
「別に遅刻してないからいいだろ」
美咲ちゃんに絡まれている加久田を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
目が合うと、にこっと笑われた。
ひたすら一日、昨晩のことを考えないように仕事に打ち込んだ。
……それでも。
加久田と目が合ったり、手がふれたりするだけで、どきりとしてしまう。
なぜか疲れる一日を過ごし、退社時間まで一時間を切ったところで、外回りに出していた加久田からメッセージが届いた。
【あとで、先輩の家に直帰します】
「美咲ちゃん!
加久田、直帰になったから!」
「えー。
そうなんですか?
……っていうか、篠崎さん、顔、赤いですよ?
どうしたんですか?」
「えっ?
あっ、部屋の中、なんかちょっと暑くないか?」
わざとらしく、ファイルで扇いでみたりしたけど、美咲ちゃんは不審そうだ。
「そうですか?
あ、またいつかみたいに熱でてるんじゃないですか!?」
「そんなことないよ」
「……そうですね。
おでこ、熱くないし。
ならいいんですけど」
私のおでこから手をはずして、やっと美咲ちゃんが納得してくれた。
気付かれないように小さくため息。
……うちに直帰って、どういうことだよ?
なんかちょっとむかついて、返事は返さないでおいた。
……なんで加久田がここに!?
てかこれって、どうみても、……そういうこと、だよな?
えーっと、考えろ、考えろ、考えろ……。
まだ靄がかかったようになっているあたまをはっきりさせるように、シャワーを浴びる。
……えーっと、昨日は裕紀の結婚式で、
帰る途中で加久田に会って、それでやけ酒に付き合わせて、そんでもって、店を出たけど飲み足りなくて、うちに誘って、それで更に飲んで……。
ああ、なんか凄い恥ずかしいこと、加久田にいっていた気がする。
で、加久田が憧れていたとかなんとかいっていて、押し倒されて、キスされて……。
うん。
そっからあとのことはよく覚えていないけど。
でも、大体思い出せた。
……で。
これはどうしたらいいのかなー?
浴室から出ると、まだのんきに寝ている加久田に腹が立ってくる。
……おまえのせいで、こんなに悩んでいるっていうのに。
時間を確認すると朝七時ちょっと前。
加久田んちはうちから電車で三駅のはずだから……いまから起こして、余裕で会社、間に合うな。
「加久田。
おい、加久田、起きろ」
「……んー。
あー、先輩、おはようございまーす」
「おはようございます、じゃない。さっさと起きて服着ろ。
一回帰らないとおまえ、出社できないだろーが」
「そーですねー」
……大丈夫か、こいつ。
内心毒突きつつ、炊飯器を開けておにぎりを握る。
緊急だから塩にぎりに海苔巻いただけ。
二つほど作ってラップを巻いて適当なレジ袋に放り込んだら、加久田が出られるようになっていた。
「昨日のことは、その、いいたいことも聞きたいことも結構あるけど、とりあえず、会社が終わるまで保留にしとく。
それで、これは、時間があったら朝食代わりに食え」
「わーい。
先輩が朝ごはん作ってくれたー」
「うるさい。
遅刻したら殺すからな」
「殺されないように頑張ります。
じゃあ」
靴を履いた加久田にレジ袋に入れたおにぎりを突き出すと、上機嫌でそれを持って帰っていった。
「……はぁーっ」
ため息をつきつつドアを閉め、部屋の中に戻る。
……今日の弁当は加久田におにぎり持たせてめしがなくなったから、外ランチだな。
そんなことを考えつつ冷蔵庫からヨーグルトを出そうとして、大量のビールに気が付いた。
……ビール、あんまり飲まないのに。
買いすぎ。
どーすっかなー?
またため息をつきつつ、ヨーグルトを手に冷蔵庫を閉める。
コーヒーを淹れて、朝のニュースを見ながら少しだけシリアルを足したヨーグルトを食べる。
食べ終わったら水につけとく。
着替えようとして、昨日借りていた加久田のスーツが目に入った。
……加久田のことは、どうしたらいいんだろ?
ううん。いまは考えない。会社が終わるまで、保留。
いつものパンツスーツに着替えて、髪をくくって簡単に化粧する。
家を出られるようになってちょっと迷ったけど、加久田のスーツを紙袋に放り込んだ。
出勤途中の朝早くから開いている、昔ながらのクリーニング店に寄る。
「すみません、これ、お願いします」
「はーい。
……あら、これ背広ね。
彼氏の?」
「違います。
ちょっと事情があって借りてただけです」
「そうなの?
篠崎さん、美人なのになかなかお婿さんが見つからないから、おばちゃん心配で」
「いつ、できますか?」
おばちゃんの話は長くなりそうなので、急いで止めた。
「急ぎ?」
「いいえ」
「明後日、でいいかしら?」
「はい。
よろしくお願いします」
クリーニング店を出て、駅に向かう。
……ここに越してきて四年。
あのクリーニング店は朝早くから夜も比較的遅くまで開いていて、便利がいいからずっと利用している。
……ただ。
おばちゃんの詮索好きが玉に瑕、だ。
昔はそれでよかったんだろうけど。
「おはよう」
「おはようございます、篠崎さん」
美咲ちゃんに声を掛けて席に着く。
加久田はまだ、出社していない。
「どうしたんですか?」
「なにが?」
「なんかちょっと、怖い顔、してます」
コーヒー出してくれつつ、眉間をつんつんされた。
「……皺、寄ってる?」
「……ちょっと。
理由はわからなくもないですが、あんまり引き摺るのはよくないですよ」
「そう、だな」
……ううっ、ごめん、美咲ちゃん。
変な気、使わせて。
でも原因はそっちじゃないんだ。
朝の準備をしつつ、なんとなくそわそわと加久田を待つ。
しかしなかなか奴は来ない。
「おはようございます」
「もう!
加久田、あと五分で遅刻だぞ!」
「別に遅刻してないからいいだろ」
美咲ちゃんに絡まれている加久田を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
目が合うと、にこっと笑われた。
ひたすら一日、昨晩のことを考えないように仕事に打ち込んだ。
……それでも。
加久田と目が合ったり、手がふれたりするだけで、どきりとしてしまう。
なぜか疲れる一日を過ごし、退社時間まで一時間を切ったところで、外回りに出していた加久田からメッセージが届いた。
【あとで、先輩の家に直帰します】
「美咲ちゃん!
加久田、直帰になったから!」
「えー。
そうなんですか?
……っていうか、篠崎さん、顔、赤いですよ?
どうしたんですか?」
「えっ?
あっ、部屋の中、なんかちょっと暑くないか?」
わざとらしく、ファイルで扇いでみたりしたけど、美咲ちゃんは不審そうだ。
「そうですか?
あ、またいつかみたいに熱でてるんじゃないですか!?」
「そんなことないよ」
「……そうですね。
おでこ、熱くないし。
ならいいんですけど」
私のおでこから手をはずして、やっと美咲ちゃんが納得してくれた。
気付かれないように小さくため息。
……うちに直帰って、どういうことだよ?
なんかちょっとむかついて、返事は返さないでおいた。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】つぎの色をさがして
蒼村 咲
恋愛
【あらすじ】
主人公・黒田友里は上司兼恋人の谷元亮介から、浮気相手の妊娠を理由に突然別れを告げられる。そしてその浮気相手はなんと同じ職場の後輩社員だった。だが友里の受難はこれでは終わらなかった──…
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
Perverse second
伊吹美香
恋愛
人生、なんの不自由もなく、のらりくらりと生きてきた。
大学三年生の就活で彼女に出会うまでは。
彼女と出会って俺の人生は大きく変化していった。
彼女と結ばれた今、やっと冷静に俺の長かった六年間を振り返ることができる……。
柴垣義人×三崎結菜
ヤキモキした二人の、もう一つの物語……。
私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。
そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。
真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。
彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。
自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。
じれながらも二人の恋が動き出す──。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる