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一.風邪――あのキス、なに?
3.たぶん気のせい。きっと気のせい。
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翌朝。
昨晩のことをぼんやり思い出す。
……加久田、私のこと、名前で呼んでいなかったか?
それにあのキス、なに?
凄く眠かったし、私の気のせい?
それとも……。
もやもやした気持ちを切り替えるようにシャワーを浴びる。
体がスッキリすると、気持ちもスッキリしてきて、あれは気のせいだったと片付けることにした。
「おはよう」
「おはようございます、篠崎さん。
もういいんですか?」
「ああ。
美咲ちゃんごめんね、休んじゃって」
出社すると、美咲ちゃんがちょっと心配そうに私の顔を見た。
ゆるくウェーブのかかったミディアムショートの、落ち着いた栗毛色の髪。
色白の肌にピンクのつやつやの唇。
ぱっちりした目に長いまつげ。
女の子らしい、パステルを基調にした服。
ちょっと背が低くてちょこまかと動き回る様は小動物みたいで、……はっきりいって可愛い。
男はみんな、こんな子が好きなんだろうと思う。
社内でもファンは多いみたいだし。
反対に私は。
女としては少し高めの身長。
長いストレートの黒髪を、めんどくさくて後ろで一つくくり。
化粧なんて、軽くファンデ塗って、ちょっと眉整えるくらいはして、あとは口紅塗っただけ。
眼鏡だって可愛い系とかじゃなくて、出社するときはシルバーフレーム。
服も黒のパンツスーツ。
……たまに。
背広着た方が似合うんじゃないか、っていわれる。
はっきりいって。
美咲ちゃんが羨ましくないかっていわれれば嘘になる。
私だって美咲ちゃんみたいに可愛く生まれていれば、って。
でも、無い物ねだりはしょうがない。
それに、美咲ちゃんは私の目から見ても可愛いので、ついついおっさんのように可愛がってしまう。
「いいですよー。
篠崎さん、働き過ぎですもん。
そういえば、聞いてくださいよー」
「どうしたー?」
美咲ちゃんはコーヒー出してくれながら話し続ける。
……ほんとは飲み物なんかは自分で入れるようになっているんだけど。
美咲ちゃんのこれ、は私に対する特別待遇らしい。
「加久田の奴、一昨日と昨日と、同じスーツにネクタイだったんですよー。
絶対お泊まりしてるのに、白状しないし」
「ぶっ、ごほっ、ごほっ」
思わず、飲んでいたコーヒーが変なとこに入った。
だって、泊まったのは……うち、だ。
「……どうかしたんですか?」
「あー、なんでもない」
怪訝そうな顔で美咲ちゃんは見ている。
平常心、平常心、っと。
「美咲ちゃん。
加久田、じゃなくて加久田先輩か、せめて加久田さん。
年上、なんだから。
まあ、加久田の奴も年頃だからいろいろあるんだろ。
深く聞いてやるな」
美咲ちゃんは加久田のふたつ下だが、何度注意したって呼び捨て。
他の人に対してはそんなことないのに加久田にだけそんな態度ってなんでだろうな?
「はーい。
あ、加久田……さん。
おはようございます」
嫌そーに加久田をさん付けで呼ぶ美咲ちゃんに、思わず吹き出しそうになった。
「おはようございます。
……もう、いいんですか?」
「……ああ」
なんとなく、加久田と顔を合わせづらい。
でも、加久田の奴は普通の顔していて、私の方が気にしていても仕方ないか、と忘れることにした。
昨晩のことをぼんやり思い出す。
……加久田、私のこと、名前で呼んでいなかったか?
それにあのキス、なに?
凄く眠かったし、私の気のせい?
それとも……。
もやもやした気持ちを切り替えるようにシャワーを浴びる。
体がスッキリすると、気持ちもスッキリしてきて、あれは気のせいだったと片付けることにした。
「おはよう」
「おはようございます、篠崎さん。
もういいんですか?」
「ああ。
美咲ちゃんごめんね、休んじゃって」
出社すると、美咲ちゃんがちょっと心配そうに私の顔を見た。
ゆるくウェーブのかかったミディアムショートの、落ち着いた栗毛色の髪。
色白の肌にピンクのつやつやの唇。
ぱっちりした目に長いまつげ。
女の子らしい、パステルを基調にした服。
ちょっと背が低くてちょこまかと動き回る様は小動物みたいで、……はっきりいって可愛い。
男はみんな、こんな子が好きなんだろうと思う。
社内でもファンは多いみたいだし。
反対に私は。
女としては少し高めの身長。
長いストレートの黒髪を、めんどくさくて後ろで一つくくり。
化粧なんて、軽くファンデ塗って、ちょっと眉整えるくらいはして、あとは口紅塗っただけ。
眼鏡だって可愛い系とかじゃなくて、出社するときはシルバーフレーム。
服も黒のパンツスーツ。
……たまに。
背広着た方が似合うんじゃないか、っていわれる。
はっきりいって。
美咲ちゃんが羨ましくないかっていわれれば嘘になる。
私だって美咲ちゃんみたいに可愛く生まれていれば、って。
でも、無い物ねだりはしょうがない。
それに、美咲ちゃんは私の目から見ても可愛いので、ついついおっさんのように可愛がってしまう。
「いいですよー。
篠崎さん、働き過ぎですもん。
そういえば、聞いてくださいよー」
「どうしたー?」
美咲ちゃんはコーヒー出してくれながら話し続ける。
……ほんとは飲み物なんかは自分で入れるようになっているんだけど。
美咲ちゃんのこれ、は私に対する特別待遇らしい。
「加久田の奴、一昨日と昨日と、同じスーツにネクタイだったんですよー。
絶対お泊まりしてるのに、白状しないし」
「ぶっ、ごほっ、ごほっ」
思わず、飲んでいたコーヒーが変なとこに入った。
だって、泊まったのは……うち、だ。
「……どうかしたんですか?」
「あー、なんでもない」
怪訝そうな顔で美咲ちゃんは見ている。
平常心、平常心、っと。
「美咲ちゃん。
加久田、じゃなくて加久田先輩か、せめて加久田さん。
年上、なんだから。
まあ、加久田の奴も年頃だからいろいろあるんだろ。
深く聞いてやるな」
美咲ちゃんは加久田のふたつ下だが、何度注意したって呼び捨て。
他の人に対してはそんなことないのに加久田にだけそんな態度ってなんでだろうな?
「はーい。
あ、加久田……さん。
おはようございます」
嫌そーに加久田をさん付けで呼ぶ美咲ちゃんに、思わず吹き出しそうになった。
「おはようございます。
……もう、いいんですか?」
「……ああ」
なんとなく、加久田と顔を合わせづらい。
でも、加久田の奴は普通の顔していて、私の方が気にしていても仕方ないか、と忘れることにした。
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