113 / 129
第17話 ごっこ遊び
2.いままでありがとう
しおりを挟む
それからさらに一週間、入院した。
「尚一郎さん。
家に、帰りたいです」
何度、同じことを願ったのかわからない。
けれど決まって、尚一郎の答えはこうなのだ。
「まだダメだよ。
まだ、ね」
泣きそうな顔で云われると、それ以上なにも云えなくなる。
「でも朋香もいい加減、外に出たいよね。
いつまでもこのまま閉じこめておきたいなんて僕の我が儘だ。
……いいよ、退院の手続きをしよう」
退院できるのは嬉しかったが、尚一郎の言葉は引っかかった。
「尚一郎さん?
それってどういう……」
「ごめんね、朋香。
いままで本当にありがとう」
「尚一郎さん?」
ぎゅっと自分を抱きしめる尚一郎の身体は震えていて不安になる。
「なんでもないよ。
今日は退院のお祝いに、大村にごちそうを作ってもらおう。
朋香はなにが食べたいかい?」
「えっと……」
笑う尚一郎に誤魔化された気がする。
それにせかされるように退院の準備をさせられ、それ以上追求させてはくれなかった。
退院して家に帰ると、今日はもう休むと尚一郎はべったり朋香にへばりついていた。
「子供はどっちだろうね。
男の子かな、女の子かな?
どっちにしても朋香に似た可愛い子供だろうね」
「尚一郎さん?」
「子供部屋も準備しなくちゃね。
あ、でも、小さいうちは一緒に寝たいから、ベッドはもっと大きいのに買い換えようか。
川の字って奴、憧れなんだよね」
「尚一郎さん?
どうしたんですか?」
いつものように朋香を膝の上に乗せ、夢を語るように話す尚一郎は不自然でしょうがない。
「もうすぐ子供が産まれるんだよ?
嬉しいに決まってるだろ?」
うっとりと笑う尚一郎に、苦笑いしかできない。
「何度も云いますけど。
まだ妊娠したって決まったわけじゃないんですよ?
それに、妊娠してたとしても生まれるのはかなり先です」
「絶対、妊娠しているよ。
そうに決まってる」
自信を持って断言する尚一郎がおかしい。
そんなに早く、子供が欲しいんだろうか。
「楽しみだな。
……本当に楽しみだ」
そっと自分のおなかを撫でる尚一郎に、朋香も妊娠していたらいいなと願っていた。
朝、目覚めると、尚一郎がじっと顔を見つめていた。
「……尚一郎、さん?」
思い詰めたような顔に、朝から不安になってくる。
朋香が目を開けたことに気付くと、尚一郎はなんでもないかのように笑った。
「朋香を鳥籠に閉じ込めて、ずっと僕だけしか見られないようにできたらいいのにね」
笑っているのに尚一郎は淋しそうで、胸がずきずきと痛む。
そっと頬にふれると、口付けされた。
けれどそれは朝の挨拶のものとは違い、深い。
「……だ、だめ。
まだ、朝だから……。
それに尚一郎さん、……お仕事……」
「少しくらい遅れたってかまわないよ」
あっという間に、尚一郎の手で下着だけにされてしまった。
尚一郎もパジャマを脱ぎ捨てると、朋香の身体に唇を這わせてくる。
激しく責め立てられる身体は悲鳴を上げ、ぐったりと疲れて横になったまま、尚一郎がネクタイを結ぶのを見ていた。
「今日は義実家に行くんだっけ?」
「……はい」
「……そう。
義父さんによろしくね」
一瞬、尚一郎が苦しそうに顔を歪ませた気がした。
けれどすぐににっこりと笑うと口付けしてきて、見間違いだったんじゃないかと思う。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
起き上がれなくてベッドから見送るのはちょっと恥ずかしい。
それでも幸せな朝だった。
「尚一郎さん。
家に、帰りたいです」
何度、同じことを願ったのかわからない。
けれど決まって、尚一郎の答えはこうなのだ。
「まだダメだよ。
まだ、ね」
泣きそうな顔で云われると、それ以上なにも云えなくなる。
「でも朋香もいい加減、外に出たいよね。
いつまでもこのまま閉じこめておきたいなんて僕の我が儘だ。
……いいよ、退院の手続きをしよう」
退院できるのは嬉しかったが、尚一郎の言葉は引っかかった。
「尚一郎さん?
それってどういう……」
「ごめんね、朋香。
いままで本当にありがとう」
「尚一郎さん?」
ぎゅっと自分を抱きしめる尚一郎の身体は震えていて不安になる。
「なんでもないよ。
今日は退院のお祝いに、大村にごちそうを作ってもらおう。
朋香はなにが食べたいかい?」
「えっと……」
笑う尚一郎に誤魔化された気がする。
それにせかされるように退院の準備をさせられ、それ以上追求させてはくれなかった。
退院して家に帰ると、今日はもう休むと尚一郎はべったり朋香にへばりついていた。
「子供はどっちだろうね。
男の子かな、女の子かな?
どっちにしても朋香に似た可愛い子供だろうね」
「尚一郎さん?」
「子供部屋も準備しなくちゃね。
あ、でも、小さいうちは一緒に寝たいから、ベッドはもっと大きいのに買い換えようか。
川の字って奴、憧れなんだよね」
「尚一郎さん?
どうしたんですか?」
いつものように朋香を膝の上に乗せ、夢を語るように話す尚一郎は不自然でしょうがない。
「もうすぐ子供が産まれるんだよ?
嬉しいに決まってるだろ?」
うっとりと笑う尚一郎に、苦笑いしかできない。
「何度も云いますけど。
まだ妊娠したって決まったわけじゃないんですよ?
それに、妊娠してたとしても生まれるのはかなり先です」
「絶対、妊娠しているよ。
そうに決まってる」
自信を持って断言する尚一郎がおかしい。
そんなに早く、子供が欲しいんだろうか。
「楽しみだな。
……本当に楽しみだ」
そっと自分のおなかを撫でる尚一郎に、朋香も妊娠していたらいいなと願っていた。
朝、目覚めると、尚一郎がじっと顔を見つめていた。
「……尚一郎、さん?」
思い詰めたような顔に、朝から不安になってくる。
朋香が目を開けたことに気付くと、尚一郎はなんでもないかのように笑った。
「朋香を鳥籠に閉じ込めて、ずっと僕だけしか見られないようにできたらいいのにね」
笑っているのに尚一郎は淋しそうで、胸がずきずきと痛む。
そっと頬にふれると、口付けされた。
けれどそれは朝の挨拶のものとは違い、深い。
「……だ、だめ。
まだ、朝だから……。
それに尚一郎さん、……お仕事……」
「少しくらい遅れたってかまわないよ」
あっという間に、尚一郎の手で下着だけにされてしまった。
尚一郎もパジャマを脱ぎ捨てると、朋香の身体に唇を這わせてくる。
激しく責め立てられる身体は悲鳴を上げ、ぐったりと疲れて横になったまま、尚一郎がネクタイを結ぶのを見ていた。
「今日は義実家に行くんだっけ?」
「……はい」
「……そう。
義父さんによろしくね」
一瞬、尚一郎が苦しそうに顔を歪ませた気がした。
けれどすぐににっこりと笑うと口付けしてきて、見間違いだったんじゃないかと思う。
「じゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい」
起き上がれなくてベッドから見送るのはちょっと恥ずかしい。
それでも幸せな朝だった。
0
お気に入りに追加
981
あなたにおすすめの小説
社長、嫌いになってもいいですか?
和泉杏咲
恋愛
ずっと連絡が取れなかった恋人が、女と二人きりで楽そうに話していた……!?
浮気なの?
私のことは捨てるの?
私は出会った頃のこと、付き合い始めた頃のことを思い出しながら走り出す。
「あなたのことを嫌いになりたい…!」
そうすれば、こんな苦しい思いをしなくて済むのに。
そんな時、思い出の紫陽花が目の前に現れる。
美しいグラデーションに隠された、花言葉が私の心を蝕んでいく……。
シングルマザーになったら執着されています。
金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。
同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。
初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。
幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。
彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。
新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。
しかし彼は、諦めてはいなかった。
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした
瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。
家も取り押さえられ、帰る場所もない。
まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。
…そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。
ヤクザの若頭でした。
*この話はフィクションです
現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます
ツッコミたくてイラつく人はお帰りください
またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*
あなたを失いたくない〜離婚してから気づく溢れる想い
ラヴ KAZU
恋愛
間宮ちづる 冴えないアラフォー
人気のない路地に連れ込まれ、襲われそうになったところを助けてくれたのが海堂コーポレーション社長。慎に契約結婚を申し込まれたちづるには、実は誰にも言えない秘密があった。
海堂 慎 海堂コーポレーション社長
彼女を自殺に追いやったと辛い過去を引きずり、人との関わりを避けて生きてきた。
しかし間宮ちづるを放っておけず、「海堂ちづるになれ」と命令する。俺様気質が強い御曹司。
仙道 充 仙道ホールディングス社長
八年前ちづると結婚の約束をしたにも関わらず、連絡を取らずにアメリカに渡米し、日本に戻って来た時にはちづるは姿を消していた。慎の良き相談相手である充はちづると再会を果たすも慎の妻になっていたことに動揺する。
間宮ちづるは襲われそうになったところを、俺様御曹司海堂慎に助けられた。
ちづるを放っておけない慎は契約結婚を申し出る。ちづるを襲った相手によって会社が倒産の危機に追い込まれる。それを救ってくれたのが仙道充。慎の良き相談相手。
実はちづるが八年前結婚を約束して騙されたと思い込み姿を消した恋人。そしてちづるには誰にも言えない秘密があった。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる