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第17話 ごっこ遊び

2.いままでありがとう

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それからさらに一週間、入院した。

「尚一郎さん。
家に、帰りたいです」

何度、同じことを願ったのかわからない。
けれど決まって、尚一郎の答えはこうなのだ。

「まだダメだよ。
まだ、ね」

泣きそうな顔で云われると、それ以上なにも云えなくなる。

「でも朋香もいい加減、外に出たいよね。
いつまでもこのまま閉じこめておきたいなんて僕の我が儘だ。
……いいよ、退院の手続きをしよう」

退院できるのは嬉しかったが、尚一郎の言葉は引っかかった。

「尚一郎さん?
それってどういう……」

「ごめんね、朋香。
いままで本当にありがとう」

「尚一郎さん?」

ぎゅっと自分を抱きしめる尚一郎の身体は震えていて不安になる。

「なんでもないよ。
今日は退院のお祝いに、大村にごちそうを作ってもらおう。
朋香はなにが食べたいかい?」

「えっと……」

笑う尚一郎に誤魔化された気がする。
それにせかされるように退院の準備をさせられ、それ以上追求させてはくれなかった。


退院して家に帰ると、今日はもう休むと尚一郎はべったり朋香にへばりついていた。

「子供はどっちだろうね。
男の子かな、女の子かな?
どっちにしても朋香に似た可愛い子供だろうね」

「尚一郎さん?」

「子供部屋も準備しなくちゃね。
あ、でも、小さいうちは一緒に寝たいから、ベッドはもっと大きいのに買い換えようか。
川の字って奴、憧れなんだよね」

「尚一郎さん?
どうしたんですか?」

いつものように朋香を膝の上に乗せ、夢を語るように話す尚一郎は不自然でしょうがない。

「もうすぐ子供が産まれるんだよ?
嬉しいに決まってるだろ?」

うっとりと笑う尚一郎に、苦笑いしかできない。

「何度も云いますけど。
まだ妊娠したって決まったわけじゃないんですよ?
それに、妊娠してたとしても生まれるのはかなり先です」

「絶対、妊娠しているよ。
そうに決まってる」

自信を持って断言する尚一郎がおかしい。
そんなに早く、子供が欲しいんだろうか。

「楽しみだな。
……本当に楽しみだ」

そっと自分のおなかを撫でる尚一郎に、朋香も妊娠していたらいいなと願っていた。


朝、目覚めると、尚一郎がじっと顔を見つめていた。

「……尚一郎、さん?」

思い詰めたような顔に、朝から不安になってくる。
朋香が目を開けたことに気付くと、尚一郎はなんでもないかのように笑った。

「朋香を鳥籠に閉じ込めて、ずっと僕だけしか見られないようにできたらいいのにね」

笑っているのに尚一郎は淋しそうで、胸がずきずきと痛む。
そっと頬にふれると、口付けされた。
けれどそれは朝の挨拶のものとは違い、深い。

「……だ、だめ。
まだ、朝だから……。
それに尚一郎さん、……お仕事……」

「少しくらい遅れたってかまわないよ」

あっという間に、尚一郎の手で下着だけにされてしまった。
尚一郎もパジャマを脱ぎ捨てると、朋香の身体に唇を這わせてくる。
激しく責め立てられる身体は悲鳴を上げ、ぐったりと疲れて横になったまま、尚一郎がネクタイを結ぶのを見ていた。

「今日は義実家に行くんだっけ?」

「……はい」

「……そう。
義父さんによろしくね」

一瞬、尚一郎が苦しそうに顔を歪ませた気がした。
けれどすぐににっこりと笑うと口付けしてきて、見間違いだったんじゃないかと思う。

「じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい」

起き上がれなくてベッドから見送るのはちょっと恥ずかしい。
それでも幸せな朝だった。
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