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9.新たなプロミス リング
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「この指環はもう、必要ない」
成紀の手が私の右手の薬指から指環を抜き取る。
……そっか。
もうこの指環、必要ないんだ。
いつかこんな日が来るんだろうと思ってた。
この指環をつけ始めて二年。
意外と長く保った、っていうか。
最近、成紀の様子がおかしくて、もしかしたらって覚悟はしてた。
急に増えた接待。
ときどきにおう、成紀のものとは違う香水。
とある会社の会長が、成紀のことをえらく気に入ってるって。
孫娘と結婚させて、跡継ぎに迎えたい、とか。
会社でそんな噂を聞くたびに、左手で指環を押さえてた。
きっとそんなことはないって信じたかった。
けどやっぱり、成紀は誘惑に勝てなかったのだ。
しかも件の孫娘は大学生とのとき、ミスキャンパスに選ばれたほどの美人。
迷わない……どころかそちらを選ばないわけがない。
絶対にそのときがきても泣かない、そう決めてたはずなのに胸が詰まる。
視界が、滲んで見える。
「おまえなんか、勘違いしてないか?」
「え?」
わけがわからなくて視線を上げると、涙がとうとう零れ落ちた。
成紀の手が伸びてきて、落ちた涙をそっと拭う。
困ったような笑顔に困惑した。
「もう、プロミスじゃないってこと」
ポケットに手を突っ込むと、成紀はなにかを取り出した。
そして蓋を開けて中身を取り出すと、私の左手をとった。
「ずっとこれを、おまえに嵌めたかった」
照れたように笑う成紀に、そっと左手を目の高さまで上げる。
薬指にはまっていたのはダイヤの指輪。
「……なんで……最近……お見合い……」
「ん?
おまえは俺が、夕海以外の奴と結婚した方がいいと思ってるのか?」
いつもよりも低い声。
座っている目。
掴まれた肩が痛い。
「だって……」
「俺は夕海を大切にして、夕海と結婚するって神に誓った。
なのにおまえは信じてなかったのか?」
信じたかった。
でも、信じ切れない自分がいた。
大切にしてくれる成紀が嬉しいと思いながら、不安で何度も何度も、指環を確認してた。
「……ごめんなさい」
「もう、俺はおまえ以外愛せない。
他の女なんて、どんなにいい条件だっていらない」
肩に置かれていた手は身体を滑り降り、ぎゅっと私を抱き締めてきた。
震えている、成紀の声。
私が信じなかったから、成紀を悲しませてる。
「ごめんなさい。
でも、不安、だったから。
成紀はきらきら輝いてるのに、私にはなにもないんだってずっと」
「夕海は俺の持ってないもの、たくさん持ってる。
もっと自信をもっていい。
それにちゃんと俺が云わなかったから、夕海を不安にさせたな」
顔を上げた成紀がじっと私の顔を見つめ、次の瞬間、軽く唇がふれていた。
「結婚式の日、神に……いや、違うな。
いま、夕海に誓う。
俺は夕海を一生大切にする。
悲しませたりしない。
今度は、信じて欲しい」
「……はい」
ぽろり、ぽろり、涙が零れていく。
成紀の唇が涙を拭い、そっと唇が重なった。
きっと、成紀は私を裏切らない。
あとでもう一度、さっき外した指環をしよう。
今度は、私が成紀を信じるっていうプロミスリングだ。
【終】
成紀の手が私の右手の薬指から指環を抜き取る。
……そっか。
もうこの指環、必要ないんだ。
いつかこんな日が来るんだろうと思ってた。
この指環をつけ始めて二年。
意外と長く保った、っていうか。
最近、成紀の様子がおかしくて、もしかしたらって覚悟はしてた。
急に増えた接待。
ときどきにおう、成紀のものとは違う香水。
とある会社の会長が、成紀のことをえらく気に入ってるって。
孫娘と結婚させて、跡継ぎに迎えたい、とか。
会社でそんな噂を聞くたびに、左手で指環を押さえてた。
きっとそんなことはないって信じたかった。
けどやっぱり、成紀は誘惑に勝てなかったのだ。
しかも件の孫娘は大学生とのとき、ミスキャンパスに選ばれたほどの美人。
迷わない……どころかそちらを選ばないわけがない。
絶対にそのときがきても泣かない、そう決めてたはずなのに胸が詰まる。
視界が、滲んで見える。
「おまえなんか、勘違いしてないか?」
「え?」
わけがわからなくて視線を上げると、涙がとうとう零れ落ちた。
成紀の手が伸びてきて、落ちた涙をそっと拭う。
困ったような笑顔に困惑した。
「もう、プロミスじゃないってこと」
ポケットに手を突っ込むと、成紀はなにかを取り出した。
そして蓋を開けて中身を取り出すと、私の左手をとった。
「ずっとこれを、おまえに嵌めたかった」
照れたように笑う成紀に、そっと左手を目の高さまで上げる。
薬指にはまっていたのはダイヤの指輪。
「……なんで……最近……お見合い……」
「ん?
おまえは俺が、夕海以外の奴と結婚した方がいいと思ってるのか?」
いつもよりも低い声。
座っている目。
掴まれた肩が痛い。
「だって……」
「俺は夕海を大切にして、夕海と結婚するって神に誓った。
なのにおまえは信じてなかったのか?」
信じたかった。
でも、信じ切れない自分がいた。
大切にしてくれる成紀が嬉しいと思いながら、不安で何度も何度も、指環を確認してた。
「……ごめんなさい」
「もう、俺はおまえ以外愛せない。
他の女なんて、どんなにいい条件だっていらない」
肩に置かれていた手は身体を滑り降り、ぎゅっと私を抱き締めてきた。
震えている、成紀の声。
私が信じなかったから、成紀を悲しませてる。
「ごめんなさい。
でも、不安、だったから。
成紀はきらきら輝いてるのに、私にはなにもないんだってずっと」
「夕海は俺の持ってないもの、たくさん持ってる。
もっと自信をもっていい。
それにちゃんと俺が云わなかったから、夕海を不安にさせたな」
顔を上げた成紀がじっと私の顔を見つめ、次の瞬間、軽く唇がふれていた。
「結婚式の日、神に……いや、違うな。
いま、夕海に誓う。
俺は夕海を一生大切にする。
悲しませたりしない。
今度は、信じて欲しい」
「……はい」
ぽろり、ぽろり、涙が零れていく。
成紀の唇が涙を拭い、そっと唇が重なった。
きっと、成紀は私を裏切らない。
あとでもう一度、さっき外した指環をしよう。
今度は、私が成紀を信じるっていうプロミスリングだ。
【終】
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