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第一章 一番にはなれない私

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そのあと、同じように何軒かのお店をはしごさせられた。
とにかく、お金使いが荒い。
でもそれが慣れていないというよりも板に付いていて、いつもこんなふうに買い物をしているんだなと感じさせた。
つくづく、部長の正体が謎になってくる。

夕食は食べて帰ろうと連れてこられたのは、高級ホテルの鉄板焼きのお店だった。
前菜のあとに出てきた、クリームソース添えのサーモングリルは驚くほど美味しい。

「富士野部長って何者なんですか……?」

あの家だって、あの車だって。
あんな買い物だって二流飲料メーカーの部長にはふさわしくない。

「ん?
FUJINOフジノ』って電機メーカー、知ってるか?」

部長は車だから、ノンアルコールワインを傾けている。

「そりゃ、まあ」

FUJINOを知らない人間のほうが珍しい。
家電大手メーカーで某有名クイズ番組のスポンサーもやっている。
私の家にだって、いくつか製品があるくらいだ。

「あそこのCEO、父なんだ」

「へー、そうなんですねー。
……はぁっ!?」

明日、晴れなんだ、くらいの感じで言われたので、聞き流して焼きアスパラを口に運ぶ。
しかし次の瞬間、衝撃の事実に気づき、フォークに刺さっていたアスパラがぽろりと落ちた。

「えっ、じゃあ、富士野部長って御曹司なんですか!?
……あ、すみません」

さすがに騒ぎすぎだと我ながら思い、椅子の上で小さくなる。
さらにくすりとおかしそうに部長から笑われ、ますます小さくなった。

「まー、そうなるな」

なんでもない顔で彼はアスパラを食べている。

「でも、なんでそんな人がこんな会社に?
あ、いえ、こんな会社っていうのはあれですが」

二流の飲料メーカーなんかに勤めるより、親の跡を継いだほうがいいんじゃないのかな。

「んー?
俺は次男だし、優秀な兄がいるから跡はきっと継げないだろうしな。
それに、二流のメーカーを俺の力で一流に押し上げるほうが面白いだろ?」

本当に楽しそうに部長が笑う。
部長が私と同じ立場なんだって知った。
上に兄姉がいて、それには敵わない。
けれどそれでも、いじけずに新たな目標を持って生きているこの人が、酷く眩しかった。

食事を終え、昼前に出た部長の家に戻ってくる。
ここで私は生活をしながら、部長からいろいろレッスンを受けるらしい。

「これから紀藤を最高の女にするべく、磨いてやるからな。
覚悟しとけよ?」

レンズの奥で、部長の目が怪しく光る。
なんかいろいろ早まった気がしたが、もう引き返せない。
こうして、私改造計画が始まった。
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