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第5章 最後のレッスン

6.「滝島は茉理乃ちゃんが好きでしょ?」

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滝島さんと連絡を取って駅で待ち合わせをした。

「いいのは買えたか?」

ぶんぶんと首を縦に振る。
滝島さんの手には食料品の袋が握られていた。

電車に乗って移動した先は、滝島さんの家だった。

「最初に着替えてねー」

「はーい」

洗面所を借りて、買ってきたスーツに着替える。
出てきたらテーブルの前に座らせられた。

「じゃあいまから、茉理乃ちゃんがより美人に見えるメイクを伝授しまーす!」

なぜか滝島さんがパチパチと拍手し、買ってきた化粧品と路さん手持ちの化粧道具が並べられた。

「こういう言い方をしたらあれだけど、茉理乃ちゃんってお化粧、ヘタね」

「……うっ」

わかっていた、そんなこと。
でもどうしていいのかわからないし、誰かに訊くこともできなくて。
ネットで調べたものの、失敗しておかしかったら?
と思うと怖くてできなかった。

「おねぇさんがちゃんとやり方を教えてあげるから大丈夫。
ね?」

路さんが鏡越しににっこりと笑う。

「……はい」

きっとこんな機会でもなければ、怖くてちゃんとメイクなんてできなかった。
いい機会なんだから、きちんと学ぼう。

クレンジングシートで化粧を落とし、基礎化粧品で肌を整えたあと、ベースメイクがはじまる。

「茉理乃ちゃんは肌が白いから……」

コンシーラーの使い方から、ファンデーションの正しい塗り方まで教えてくれた。
いかにいままで自分が、間違ったやり方をしていたのかよくわかる。

「んー、眉もちょっと、整えた方がいいかしら?」

自分ではいじれなかった眉も、路さんが綺麗にカットしてくれた。
瞼に色が乗り、頬の色が明るくなる。
最後に、自分では絶対に選ばない、赤みの強い口紅を塗った。

「髪型もいじった方がいいわねー」

あっという間に路さんが髪をほどいてしまう。

「んー、こんな感じでどうかしら?」

くるくると髪を捻っていって留めたかと思ったら、いままでよりずっと大人でエレガントな髪型になっていた。

「すごーい!
私でもできますか!?」

「大丈夫、簡単だから」

もう一度髪をほどき、今度は路さんの手ほどきを受けながら自分でやってみる。

「ほら、できたでしょ?」

「凄い、すごーい!」

化粧と髪型、さらに服が相まって、いつもよりも何倍もできる女に見えた。

「おおっ、見違えたなー」

滝島さんも腕を組んで感心している。

「これならプレゼンも絶対上手くいくし、彼氏だって土下座してより戻してくれって頼んでくるぞ」

「そ、そうですかね……」

彼氏なんて滝島さんの口から出て、ツキッと鋭く痛んだ胸の奥は気づかないふり。

「ああ、絶対だ」

目尻を下げて彼がにっこりと笑う。
そのためにいままで、滝島さんの手ほどきを受けてきた。
なのにいま、笑う彼に傷ついている自分がわからない……。

夕飯は食べていけと滝島さんが準備をしてくれていた。
路さんから化粧とヘアスタイルのレクチャーを受けている間、なにかやっているなーと思ったら料理をしていたらしい。

「滝島はほんと、マメよね」

トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ、エビときのこのアヒージョ、アサリのパエリヤとあとはアボカドのサラダ。
それにお酒はほどよく冷えた白ワインだ。

「こんくらい、誰だって作るだろ」

「少なくとも私は作んない」

くぃっと路さんがワインをあおる。
私もこんなに洒落た料理は作らない。

滝島さんの料理は美味しくて、ついつい食もお酒も進む。

「滝島はー、ほんとはー、茉理乃ちゃんが好きでしょー?」

ぐるぐるワイングラスを回している路さんは、目が据わっていた。

「丹沢姐サン、飲み過ぎ!」

目の前の瓶をそろーっと回収しようとした滝島さんだけど、路さんに奪われて失敗に終わった。

「どーなのよー。
茉理乃ちゃんが好きだから、ここまでしてあげるんでしょー?」

苦笑いでそれを聞きながら、心臓はばくばくと大きく鼓動していた。

滝島さんが私を好き?
本当に?

「そんなことあるわけないでしょ。
第一、伊深にはよりを戻したい彼氏がいるんだし」

さらっと滝島さんが流し、ずきっと胸が大きく痛んだ。

「なあ、伊深?」

笑顔のまま滝島さんが同意を促す。

「は、はい。
そうなんですよ」

「えー、そーなのー?
ぜーったいあんたたち、お似合いだと思ったのにー」

上手く笑って答えられたのか自信がない。
滝島さんにとって所詮、私は同じ中の人の後輩。
わかっていた、ことなのに。
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