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第弐譚
0003:亡命は避けきれません‼︎
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「ナラ様、今すぐこの国から逃げましょう‼︎」
「アリー、いいのよ、これで。」
「ですが、ナラ様‼︎」
「これが、天のお導きよ。……でも、あなたを私の運命に巻き込ませる訳にはいかない。……従者を呼んで、アリーはリッツ子爵家へ今すぐに帰りなさい。」
「ナラ様‼︎」
皆様、こんばんは。ルシエル公爵令嬢ナラ・ルシエル様専用侍女の、アデリア・リッツです。
本日午後の昼下がり、ナラ様の婚約者である第二皇太子のリカルド殿下から、ナラ様を魔女裁判にかけると宣言されました。開廷は、明日の夜明けから六刻後(約午前十時頃)。法廷に出頭しても、しなくても、死刑が決定されている古の悪い風習を、リカルド殿下は利用なされるのです。
リカルド殿下御一行様が去られてから、ナラ様はまず、ルシエル公爵夫妻がいらっしゃるルシエル邸へと出向き、ことの事情をお話されました。私も、同席を許されていたのですが、家長であるルシエル公爵様はカンカンに怒られており、『今すぐに婚約破棄して、魔女裁判を取り消すぞ‼︎』と一言仰ると、宮殿へと急がれました。
「…………そんなに上手くはいかないわ、アリー。(じっとアデリア嬢を見つめる)」
「な、ナラ様。(不安な表情)」
そう。……ナラ様のお言葉通り、魔女裁判を撤回されることはありませんでした。ルシエル公爵様曰く、皇帝陛下がとても乗り気で、撤回の意を強く示しても、首を縦に振られることはなかったのだとか。……何故、今まで一生懸命マテリア帝国の為に尽くしてきたナラ様が、このような仕打ちに合わなければならないのでしょう? リカルド殿下が執務を怠ってきたことを、国王陛下は、ご存じだったはずなのに…………。リカルド殿下の代わりにたくさんのお仕事を自ら進んでこなしてきたナラ様に感謝することもなく、逆に、恩を仇で返すなんて…………。私は、こんな理不尽な国の民であることが、とても恥ずかしいです。
◇ ◇ ◇
「……ナラ様。私も、ナラ様にお供致します!」
ルシエル公爵邸のナラ様の居室にて、私は、自身の決意を打ち明けました。
「…………駄目よ、アリー。……これは、私の命令です。今すぐリッツ子爵家へお帰りなさい。(ギロリ)」
「嫌です、ナラ様!……侍女になるときに、生涯ナラ様に仕えると誓いました。最後までお供します‼︎(頑固)」
「…………あなたには、生きていてほしいのよ。(お目々を真っ赤にさせて、苦しげな表情)」
「ナラ様……。(お目々ウルウル)」
わ、私だって、ナラ様に生き続けてほしいのです。最初は、クリンゲル・ホームズ先生の悪役令嬢シリーズに登場する主人公のように、清く正しく聡明なお姿に、憧れを抱いてただ遠くからお目に掛かれればよかっただけでした。しかし、ナラ様の侍女に任命されてからは、ナラ様の色々なお顔を拝見できて、更にナラ様の虜になってしまったのです!
朝が弱いところ、人の血を飲まないとやる気が出ないところ、執務室でたくさんの書類と闘うところ、私のような使用人にも優しくて、たくさんの下々のみんなから愛されているところ、……数え切れないのです。だからどうかナラ様、諦めないでください‼︎
「……ナラ様、仕方がありません。亡命しましょう‼︎」
「駄目よ、アリー、そんなことをしたら、公爵家がお取り潰しになってしまうわ。」
「ーーーー構わん。ナラ、逃げなさい。」
「お父様⁉︎」
いつのまにか、ナラ様のお部屋の扉付近で、ルシエル公爵ご夫妻様が私達のお話を聞いていたようです。ルシエル公爵様は、私の方へと近寄り、頭を下げられました。
「る、ルシエル公爵様⁉︎ あ、頭をお上げください‼︎」
「リッツの生ける宝物よ、どうか私達のナラを連れて国外へ逃げてほしい。」
ゆっくりと顔を上げたルシエル公爵様の瞳は、本気の色をしていらっしゃったのでした。
「お父様、私は、明日魔女裁判へ出頭する覚悟は出来ております。(キリッと)」
「ならん。…………ナラ、お前は地を這いずり回ってでも、生きなければならない。」
「何故なのですか? 私が逃げると、ルシエル公爵家はお取り潰しになるのですよ‼︎(憤慨)」
「私達のことは大丈夫だ。気にしなくて良い。…………それよりも、ナラ、今まで私と妻がお前に隠していた秘密をここで明らかにしたい。」
「秘密?」
「ああ。……ナラ、お前は、私達の子どもではない。」
「ーーーーっ⁉︎(衝撃)」
「大切な親友の血を引く唯一の生き残りだ。」
「お父様の、大切な親友ですか?」
「そうだ。……彼は偉大なる吸血鬼だった。……お前の吸血病は、病ではなく、吸血鬼一族の身体に染み込まれている正常なはたらきなのだ。」
「い、いきなりそのように言われましても……。」
「わかっている。……もっと早く言うべきであった。ただこれだけは、忘れないでほしい。……ナラ、血が繋がっていなくても、私達は家族だ。私も妻も、お前のことを我が子のように愛情をかけて育ててきた。それだけは、真実だ。」
「お父様、お母様……。」
「吸血鬼の血を引く者は、もうお前だけだ。私は、親友との別れの際に約束した。『ナラを必ず守る』とね。……ナラ、ずっとお前に女装をさせていたのも、吸血鬼の血を狙っている輩に、お前が男だと言うことが筒抜けだったからだ。…………もうこれからは、そのドレスを脱ぎ捨てて、自由になりなさい。」
「お父様‼︎」
「リッツの宝物よ、君がここにいてくれたおかげで、リッツ家の扉を開くことができる。……私のこの手のひらにあなたの手を重ねなさい。」
「は、はい‼︎」
私は、ルシエル公爵様が差し出された左手のひらに、自分の手のひらを重ね合わせました。
「ナラ、お前は彼女の身体に触れなさい。」
「……。(素直にアデリア嬢の肩に両手を置く)」
「宝物よ、リッツ邸の好きな場所を思い浮かべてほしい。」
「は、はい‼︎」
私は、緊張しながらも、生まれ育ってきた実家の小さな広間を一生懸命思い浮かべました。
「……相変わらずで、安心した。」
「…………?」
「ナラとリッツの宝物、……今からリッツ家へと転送する。……転送した場所には、リッツ子爵夫妻と見知らぬひとりの男性が待っているはずだ。その三人と、これからのことを話し合って行動しなさい。……ナラ、元気でな。」
「お父様ーーーー‼︎」
ルシエル公爵様がにこりと微笑むと、辺りから強い光が溢れ出て、私とナラ様を包み込みました。その途端大きな力が身体中にかかり、私とナラ様は気を失ってしまうのでした。
ーールシエル公爵夫妻の計らいによって、ナラ・ルシエルとアデリア・リッツは、リッツ子爵家へと転送される‼︎ーー
「アリー、いいのよ、これで。」
「ですが、ナラ様‼︎」
「これが、天のお導きよ。……でも、あなたを私の運命に巻き込ませる訳にはいかない。……従者を呼んで、アリーはリッツ子爵家へ今すぐに帰りなさい。」
「ナラ様‼︎」
皆様、こんばんは。ルシエル公爵令嬢ナラ・ルシエル様専用侍女の、アデリア・リッツです。
本日午後の昼下がり、ナラ様の婚約者である第二皇太子のリカルド殿下から、ナラ様を魔女裁判にかけると宣言されました。開廷は、明日の夜明けから六刻後(約午前十時頃)。法廷に出頭しても、しなくても、死刑が決定されている古の悪い風習を、リカルド殿下は利用なされるのです。
リカルド殿下御一行様が去られてから、ナラ様はまず、ルシエル公爵夫妻がいらっしゃるルシエル邸へと出向き、ことの事情をお話されました。私も、同席を許されていたのですが、家長であるルシエル公爵様はカンカンに怒られており、『今すぐに婚約破棄して、魔女裁判を取り消すぞ‼︎』と一言仰ると、宮殿へと急がれました。
「…………そんなに上手くはいかないわ、アリー。(じっとアデリア嬢を見つめる)」
「な、ナラ様。(不安な表情)」
そう。……ナラ様のお言葉通り、魔女裁判を撤回されることはありませんでした。ルシエル公爵様曰く、皇帝陛下がとても乗り気で、撤回の意を強く示しても、首を縦に振られることはなかったのだとか。……何故、今まで一生懸命マテリア帝国の為に尽くしてきたナラ様が、このような仕打ちに合わなければならないのでしょう? リカルド殿下が執務を怠ってきたことを、国王陛下は、ご存じだったはずなのに…………。リカルド殿下の代わりにたくさんのお仕事を自ら進んでこなしてきたナラ様に感謝することもなく、逆に、恩を仇で返すなんて…………。私は、こんな理不尽な国の民であることが、とても恥ずかしいです。
◇ ◇ ◇
「……ナラ様。私も、ナラ様にお供致します!」
ルシエル公爵邸のナラ様の居室にて、私は、自身の決意を打ち明けました。
「…………駄目よ、アリー。……これは、私の命令です。今すぐリッツ子爵家へお帰りなさい。(ギロリ)」
「嫌です、ナラ様!……侍女になるときに、生涯ナラ様に仕えると誓いました。最後までお供します‼︎(頑固)」
「…………あなたには、生きていてほしいのよ。(お目々を真っ赤にさせて、苦しげな表情)」
「ナラ様……。(お目々ウルウル)」
わ、私だって、ナラ様に生き続けてほしいのです。最初は、クリンゲル・ホームズ先生の悪役令嬢シリーズに登場する主人公のように、清く正しく聡明なお姿に、憧れを抱いてただ遠くからお目に掛かれればよかっただけでした。しかし、ナラ様の侍女に任命されてからは、ナラ様の色々なお顔を拝見できて、更にナラ様の虜になってしまったのです!
朝が弱いところ、人の血を飲まないとやる気が出ないところ、執務室でたくさんの書類と闘うところ、私のような使用人にも優しくて、たくさんの下々のみんなから愛されているところ、……数え切れないのです。だからどうかナラ様、諦めないでください‼︎
「……ナラ様、仕方がありません。亡命しましょう‼︎」
「駄目よ、アリー、そんなことをしたら、公爵家がお取り潰しになってしまうわ。」
「ーーーー構わん。ナラ、逃げなさい。」
「お父様⁉︎」
いつのまにか、ナラ様のお部屋の扉付近で、ルシエル公爵ご夫妻様が私達のお話を聞いていたようです。ルシエル公爵様は、私の方へと近寄り、頭を下げられました。
「る、ルシエル公爵様⁉︎ あ、頭をお上げください‼︎」
「リッツの生ける宝物よ、どうか私達のナラを連れて国外へ逃げてほしい。」
ゆっくりと顔を上げたルシエル公爵様の瞳は、本気の色をしていらっしゃったのでした。
「お父様、私は、明日魔女裁判へ出頭する覚悟は出来ております。(キリッと)」
「ならん。…………ナラ、お前は地を這いずり回ってでも、生きなければならない。」
「何故なのですか? 私が逃げると、ルシエル公爵家はお取り潰しになるのですよ‼︎(憤慨)」
「私達のことは大丈夫だ。気にしなくて良い。…………それよりも、ナラ、今まで私と妻がお前に隠していた秘密をここで明らかにしたい。」
「秘密?」
「ああ。……ナラ、お前は、私達の子どもではない。」
「ーーーーっ⁉︎(衝撃)」
「大切な親友の血を引く唯一の生き残りだ。」
「お父様の、大切な親友ですか?」
「そうだ。……彼は偉大なる吸血鬼だった。……お前の吸血病は、病ではなく、吸血鬼一族の身体に染み込まれている正常なはたらきなのだ。」
「い、いきなりそのように言われましても……。」
「わかっている。……もっと早く言うべきであった。ただこれだけは、忘れないでほしい。……ナラ、血が繋がっていなくても、私達は家族だ。私も妻も、お前のことを我が子のように愛情をかけて育ててきた。それだけは、真実だ。」
「お父様、お母様……。」
「吸血鬼の血を引く者は、もうお前だけだ。私は、親友との別れの際に約束した。『ナラを必ず守る』とね。……ナラ、ずっとお前に女装をさせていたのも、吸血鬼の血を狙っている輩に、お前が男だと言うことが筒抜けだったからだ。…………もうこれからは、そのドレスを脱ぎ捨てて、自由になりなさい。」
「お父様‼︎」
「リッツの宝物よ、君がここにいてくれたおかげで、リッツ家の扉を開くことができる。……私のこの手のひらにあなたの手を重ねなさい。」
「は、はい‼︎」
私は、ルシエル公爵様が差し出された左手のひらに、自分の手のひらを重ね合わせました。
「ナラ、お前は彼女の身体に触れなさい。」
「……。(素直にアデリア嬢の肩に両手を置く)」
「宝物よ、リッツ邸の好きな場所を思い浮かべてほしい。」
「は、はい‼︎」
私は、緊張しながらも、生まれ育ってきた実家の小さな広間を一生懸命思い浮かべました。
「……相変わらずで、安心した。」
「…………?」
「ナラとリッツの宝物、……今からリッツ家へと転送する。……転送した場所には、リッツ子爵夫妻と見知らぬひとりの男性が待っているはずだ。その三人と、これからのことを話し合って行動しなさい。……ナラ、元気でな。」
「お父様ーーーー‼︎」
ルシエル公爵様がにこりと微笑むと、辺りから強い光が溢れ出て、私とナラ様を包み込みました。その途端大きな力が身体中にかかり、私とナラ様は気を失ってしまうのでした。
ーールシエル公爵夫妻の計らいによって、ナラ・ルシエルとアデリア・リッツは、リッツ子爵家へと転送される‼︎ーー
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