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第弐譚

0001:とある侍女の早朝ルーティン♪

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「ナラ様、朝ですよ、起きてください!」

「んーー、もうちょっとだけ……。(寝ぼけてる)」

「今日は午前中に執務を終わらせた後、皇太子殿下とのお茶会が待っているのですよ‼︎」


 皆様、こんにちは! アデリア・リッツと申します。ルシエル公爵令嬢ナラ・ルシエル様の侍女になって早半年が経ちました。本日は、謎に包まれた魅惑的なナラ様の良さを皆様に知っていただきたい為、私の早朝ルーティンを書き留めてみようと思います。是非楽しんでいただければ幸いです!


「アリー、朝ごはん。(まだ寝ぼけてる)」

「先にお顔を洗って、お召し物をお着替えしてですね…………。」

「嫌よ、お腹空いて力が出ないの。」


 天蓋付きのベッドから身体を起こして、ナラ様は、近くでテキパキと動き回っている私をガッと掴み、首元に噛みつきました。


 カプッ

 んちゅ、んちゅ


「……な、ナラしゃま、い、いけましぇん。(赤面)」

「んちゅ、んちゅ、……やっぱり朝一番のアリーの血は美味しいわね。(ジト目)」


 ナラ様は、くったりした表情かおの私にはお構いなしに、さらに血を吸っていらっしゃいます。


「……んちゅ、……アリー、大丈夫?」

「な、ナラしゃま。だ、大丈夫でしゅ。(赤面)」

「…………。(ジト目)」

「…………。(赤面で恍惚な顔)」

「…………ありがとう、ご馳走様。(噛み跡を舐める)」

「は、はあい。……ナラしゃま、洗顔用のお水と容器はテーブルの上に、お召し物は、着替え室に準備しております。(やや貧血ぎみ)」

「ありがとう。……私の支度が終わるまで、ここで寝ていなさい。(ジト目)」

「あ、ありがとうごじゃいましゅ。……スピー、スピー。(寝落ち)」

「…………。(ジト目)」


 ……以上が毎朝のルーティンなのですが、これには、……深い事情があるのです。それは、私がナラ様の侍女に任命された日の夜のことでした。



 【回想 始】


「アデリア、……いや、、私はね、『』を患っているの。」

「きゅ、『吸血病』ですか?」

「そう。…………普通の食事では足らなくてね、人間のを定期的に吸わないと、衰弱していずれ死んでしまう運命にあるの。(悲しい顔)」

「そ、そんな‼︎(驚愕)」

「…………今までは、輸血用の血液を飲むようにしていたけれど、最近、アリーのように可愛らしい子を見ると、噛みつきたい衝動に駆られてしまって…………。こんな私に幻滅したかしら?(困り眉)」

「な、ナラ様…………いいえ、幻滅などしておりません‼︎(キッパリ)」

「でも、私は、男である身なのに、性別を偽って周りを騙している吸血鬼なのよ。(ウルウル)」

「そ、それは、…………ナラ様や、ルシエル公爵家の方々の深い思惑から、女性として生きられていらっしゃるのではないかと察しております!」

「…………じゃあ、これからアリーの血を吸ってもいい?(あざとさマックス)」

「ナラ様の都合の良いときにどうぞ吸ってください! ……うん? ……えっ? 毎日⁉︎」

「ありがとう、アリー! 長年の悩みがようやく晴れたわ。(にっこり)」

「い、いえいえ。(汗)」

「……味見してみても、いいかしら?(ジト目)」

「ど、どうぞどうぞ、吸ってください‼︎(脂汗)」

「じゃあ、早速いただくわね。」


 ジリジリと擦り寄ってきたナラ様は、私の首元に顔を埋めて、カプッと首筋に歯を立てました。プツンと皮膚の弾ける感覚とチクッとした痛みが走り、私は顔を少しばかり歪めたのですが、すぐにただの痛みとは別の、に苛まれたのです!


 んちゅ、んちゅ、ちゅぱ……


「ん、ナラしゃまぁっ! かゆい、かゆしゅぎましゅ!」

「アリー、……………………やっぱりやめた方がいいわね。(アデリア嬢からすぐに離れてしょんぼりする)」

「だ、大丈夫です、ナラ様! 痛みより痒みの方が勝ってるんで、なんとかいけそうです!(思っていたよりも痛くないですわ!)」

「で、でも……。(困り眉)」

「蚊に刺された感じなので気にしないで下さい‼︎ さあ!」

「え、ええ……。(私は蚊と同列なの⁉︎)」


 カプッ ちゅうちゅう……


「……ナラしゃま、痛くないでしゅからね! ただ痒いだけでしゅから‼︎ もっと、たくさん吸ってくだしゃいましぇ!(かえって痒いのが気持ちよくなってきましたわ‼︎)」


「…………ええ。(それはそれで複雑よ。)」


 【回想 終】



 ……その後、私は一度に多量の血を吸われ過ぎてしまい、貧血で倒れてしまったのですが。(苦笑)

 気づいてしまったのです! 血を吸われた後の方が、体調が良いことに‼︎

 ……実は、宮殿に出仕してから、謎の肩凝りに苛まれておりました。常に緊張しているせいか、身体が強張ってたみたいで、どうにか治そうと寝る前にストレッチしたり、食事に気をつけたりしていたのですが、悩みの肩凝りはどんどん強くなっていったのです。

 それがなんてことでしょう! ナラ様に血を吸ってもらってから、辛い肩凝りが一発で解消されたのです! あまりの快適さに、私は驚愕し、思わずナラ様にもっと血を吸ってもらうよう強請ってしまうほど。……ナラ様、最高です‼︎ あと、血を吸われた後は、ナラ様のフカフカで良い香りのするお布団で気持ちよく休ませてくださるので、至れり尽くせりといいますか、…………こんなにも、私にとって都合の良いことが起こり過ぎて、逆に恐ろしいです!(うっとり)


 ーーと、そこへ背後からルシエル公爵令嬢が現れた。ーー


「アリー、ちょっと頼み事があるのだけれど、…………何、書いてるの?(興味深々)」

「あっ、ナラ様、それは‼︎(汗)」


 私の早朝ルーティンを書き留めた日記帳を、ナラ様に取り上げられてしまいましたわ‼︎


「…………。(ペラペラとページを捲る)」

「…………。(戦々恐々)」

「……私のことを蚊と同列にするのはやめてくれない?」

「で、ではコウモリさんならどうでしょうか?(脂汗)」

「……そういう意味で言ってるわけではないのよ。身体に異変はないの?(ジト目)」

「はい、ナラ様のおかげで体調はすこぶる良いです!(部下の体調まで気を遣うなんて、ナラ様、優し過ぎますわ!)」

「そこまで嬉しがられると、調子が狂うわね。……でも、あなたが楽しそうでよかったわ。(複雑な気分)」

「ありがとうございます、ナラ様!」

「……じゃあ、親睦を深めるために、今夜は一緒のお布団で寝ましょうか。(にこり)」

「えっ⁉︎ な、ナラ様、それは駄目ですよ! ナラ様には婚約者様がいらっしゃるのに、私なんかと一緒に寝ているのが周囲に知れ渡れば、大変なことになりますよ!」

「でもアリー、私のお布団、好きでしょう?」

「グググッ、…………だ、駄目なのです!」

「そう? なら仕方ないわね。(チッ、引っ掛からなかったか。……まあいい。夜分遅くに頼み込んで血を吸って意識朦朧にさせて、さりげなく一緒に寝よう。)」


 ナラ様専用の侍女になって、初めてのことばかりですが、充実した日々をおくれて(しかもお給金アップ!)私は今、とても幸せです!


 ーーしかし、二人を貶める魔の手が着々と忍び寄っているのであった。ーー
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