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第壱譚

0005:脱出

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「……これ、本当に大丈夫なのですか、ツクヨミさん⁉」


「な、なんとかなるさー!(汗)」



 どうも、夜遅くに木登りをしている灰かぶりです。

 魔法使いツクヨミさんが言うには、急いでこのお屋敷から出ないといけないとのことで、必死に出口を探している途中なのですが、全然外に出られません。

 当のツクヨミさんは、お手上げ状態で、ヘロヘロしてばかりです。


 ――私の自由なひとときを返してください、神様ーー。(泣)






 【回想 始】



「灰かぶり姫、今すぐここから脱出するよ‼」


「お、落ち着いてください、ツクヨミさん。(汗)」



 私は、縄で椅子にくくりつけられたまま動こうとしているツクヨミさんを必死で宥めました。



「……正直な話、君を閉じ込める結界のせいで出られない可能性もあるんだ!(焦)」


「け、結界⁉(汗)」


「そう。……対象者(灰かぶり姫)に疑問や矛盾を与えない、最上級の結界がこのお屋敷に張られているんだよ。……質問だけど、灰かぶり姫が生きてきた中で、門の外まで出たことってあるの?」


「……無いですわ。(シュン)」


「そうだよねー。お庭には出れても道路には一歩たりとも出たこと無いよね?」


「ぐぬぬっ、……仰る通りです。」



 私はツクヨミさんの言う事実に強く打ちひしがれました。


 ……思い返してみれば、私の今までの世界はお屋敷の中だけで、外の世界を見たことは一度もなかったのです。


 つきつけられた現実に納得すると同時に、私は、これまで外に出たいという気持ちさえ起らなかったことに、はたと気がつきました。

 むしろお家が大好きで、『ずっと死ぬまで引きこもりたいー!』と、本気で思っていたほどです。



「気づかないのも無理はないよ。それが、結界なんだから。」



 シュパパッと椅子と胴体を縛っていた縄をほどき、ツクヨミさんは立ち上がりました。



「目隠ししたままでも僕視えるから、さあ、行こうか。」



 ……目隠しも外してください。



 【回想 終】






「ツクヨミさーーん! てっぺんまで登りましたよー!」


「了解ー! じゃあ灰かぶり姫、外に向かってジャンプだ‼」


「……それ本気で仰っているのですか⁉」


「本気本気ー。大丈夫だよー、落ちる前に受け止めるから!」


「……死んだら許しませんからね‼」



 私は目を瞑り、しなる大木から大きくジャンプしました。


 ビュンッ!


 ビリビリビリーー‼


 キシャーーーーーー‼


「へぶし‼」



 案の定、私は、謎の目に見えない壁にぶち当たりました。電気ショックのような痛みを浴びて、重力のおもむくままに下へ下へと落下していきます。


 ――会ったことないけど、お父さん(?)、お母さん(?)、今までありがとう。私は星になります。


 ドサッ

「いやいや、星になられたら僕お師匠様に殺されちゃうよー。(笑)」



 …………どうやらツクヨミさんが受け止めてくれたらしいですね。……何故でしょう。癪に障って仕方がありません。



「お姫様抱っこ、嬉しい?(♪)」


「早く降ろしてしてください、ツクヨミさん!(怒)」



 私は素早くツクヨミさんから飛び降りました。



「正門からも駄目、裏口からも駄目、じゃあ、お空ならいいかなって思ったけどそれも駄目、いやはや、お手上げだねー。(困り眉)」


「ツクヨミさん、もっと考えてください‼」


「……でもさ、これ以上いいアイデアが思い浮かばないんだよー。どうすればお外に出られるのかな?(困り眉)」


「……ツクヨミさんの魔法(?)で、なんとかならないのですか?」


「僕も出来るならしたいんだけどね、……生憎、バトルが専門だからさ、結界を解くことは難し過ぎてできないんだ。(泣)」


「な、泣かないでください、ツクヨミさん。……こんな、目に見えない壁は切り捨ててしまえばいいのです‼」




 私は、はらはらと涙を流すツクヨミさんの横で、常時腰にぶら下げている愛刀『霧雨キリサメ』を鞘から抜き、見えない壁へ向かって大きく振りかぶりました。


 ブンッ


 カッ…………パリンッ!


 すると、何かが割れる音が辺り一面に広がったのです!



「…………結界が、割れてる。(驚)」



 見えない壁を凝視していたツクヨミさんは、私に向き直って一言、言いました。



「……灰かぶり姫は、お師匠様よりも強いかもしれない。(真顔)」


「御冗談は後にして、早く外へ出ましょうよ‼」


「……本気なんだけどな。(困り眉)」



 ――井の中の蛙だった灰かぶり姫は、未知の世界へと歩み出す!――
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