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 寝室にもどると私は眠っているグスタフに謝罪した。

「騒がしくしてごめんなさい」

 私はグスタフの枕元に立つと、じーっと彼の様子を観察した。規則正しく胸が上下していた。起きている様子はない。よかった。

 本当に彼は最近、眠っていることが多い。夜は勿論のこと、昼間でも眠ってばかりいる。やはり禁術の影響があるのだろう。一度死んだ身体から離れようとする魂を無理やり死霊術で縛り付けているのだ。健康体であることのほうがおかしいだろう。ギルベルトが来たときも起きなかったのは良かった。

 だけど、普段はもっと一緒に過ごしてほしい。少し寂しく思ってしまう。彼と一緒に居られるだけで幸せなはずなのに。

 彼の隣に寝転がり、ぬくもりを感じる。

 今の彼は幸せなのだろうか。

 私のわがままで彼を蘇らせてしまった。死霊術という禁じられた術によって。

 死ぬ前の彼はいつも剣術の稽古をよくしていた。なんでそんなに熱心にするのって聞いたら、私を護るためなんて言っていたっけ。

 彼はいつも元気だった。

 それなのに、蘇ってからは体の動きも悪くなり、視力も失った。動けない彼はいつも部屋にこもりきり。話し相手は私くらい。

 一緒にいたいと願ったからこそ、蘇ってもらったけど、本当に良かったのだろうか。私だけのわがままだった?

 秘密にするためにお父様もベンノさんも殺してしまった。

 しかし、仕方なかった。あのまま帰らせてしまったら、もしかしたら死霊術を使ったことがバレてしまったかもしれないのだから。私は正しかった。

 ぐじぐじとこれまでの行いを反省してしまう。

 もうやってしまったことなのだから、振り返っても手遅れだと言うのに。

 彼がいてくれるだけで良いじゃないか。一緒に過ごせるだけで。

        ○

 昼頃、ギルベルト様の様子を確認するために物置小屋を覗いた。物置小屋の中は薄暗く、ドアから差し込む日の光が唯一の明かりだった。

「ギルベルト様目が覚めましたか」

 ギルベルトは目を覚まし、なんとか縛めを解こうと身をよじっていた。

「そんなに暴れてはロープが解けてしまいますよ」

 ギルベルトのそばにしゃがみ込むと、私はロープをさらにキツく結び直した。

「…ンッ……ンッ…!!!」

 ギルベルトはもごもごと何か言っているが、猿ぐつわのせいで言葉にならない。

「元気ですね。せっかくですから沢山お話ししたいんですけど、おそらく、ロープを解いたら大声を上げてしまいますよね。そんなことされてしまったらグスタフにあなたが来ていることがばれてしまうので、その猿ぐつわを外すことは出来ません」

 ギルベルトとグスタフを会わせてしまえば、私が禁術でグスタフを蘇らせたことがばれてしまう。

「元気そうで良かったです。息ができなくて死んでしまっていたらどうしようって少し心配してました」

 今も元気にもごもごと言っているので、しっかりと呼吸できているんだろう。

 生きたスペアパーツが手に入ったのは本当に幸運だ。

「ギルベルト様、わざわざ私のもとの来てくださってありがとうございます。貴方の身体はグスタフのために使わせてもらいますね」

 ぺこりと頭を下げる。

「死んでしまったらパーツとして利用できなくなるので、時々ご飯を持ってきますね。ただ二、三日は元気でしょうから、少しは我慢してもらいますけど。」

 声が出せなくなるくらい弱ってからじゃないとご飯はあげれない。

「それじゃ、私は戻りますね。私のグスタフのためにご飯を作らないといけませんから」

 私は立ち上がり、ギルベルトに手を振った。

「時々様子をみにきます。それまではここでゆっくりとおくつろぎください」

 私は物置小屋を出て、ドアをそっと閉めた。

 ギルベルトはあいもかわらず必死にもごもご言っていた。
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