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第九章 知識と勇気で
9.60 Epilog そして、次の冒険へ①
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『……狂信者の残党による各地の騒動や帝都内の騎士団の再編など、初期には混乱もあったが、北向の神帝リュカの治世は概ね平穏に四十四年間続いた』
本棚に落ち着いた途端脳内に流れてきた既知の事項に、小さく呻き声を上げる。
『その治世の間に帝都拡張工事は完成し、建物も環境も改善された帝都には多くの学生が集まった』
文章と同時に脳内に映し出された拡張工事完了後の帝都の銅版画に、トールは微笑みを辛うじて堪えた。
リュカが神帝の地位に就いている間、サシャはかつての約束を守り、リュカの宰相の地位を全うした。グスタフ教授とマクシム教授の許で古代法と現代法の学位を取ったサシャの、法に則った助言と、リュカの類い稀な記憶力、そして帝都の文官長としてサシャとリュカを助けたカジミールを始めとする多くの人々の努力の結果、神帝リュカの治世は後世の手本となっている。
脳内に流れてくる文章に頷きを返しながら、その頃のことを思い返す。
リュカが神帝の地位に就いた時、イジドールの怠惰と放置の所為でボロボロだった白竜騎士団は団長となったイザイアのスパルタ教育によって再生を果たした。イザイアが引退した後は、東雲の神帝候補として帝都に預けられたリーンハルトの息子ユリアンが白竜騎士団長となり、小さい頃のユリアンに剣を教えたウベルトがユリアンを支えた。黒竜騎士団の方は、暫くの間フェリクスが団長代行を務めた後、春陽の神帝候補マティアーシュが団長になっている。大怪我から奇跡的な回復を遂げたバジャルドがマティアーシュを補佐していたが、バジャルドの厳しさを考えるとウベルトとバジャルドの地位は交換した方が良いのかもしれないと、宰相になったサシャは時々心配そうに首を横に振っていた。だが、ルジェクもエルチェもピオも、黒竜騎士団員はバジャルドの厳しさについては何も言っていなかった。マティアーシュとバジャルドは意外と馬が合っていたのではないか。横で接している歴史の本から脳内に流れ込んでくる、神帝リュカの治世における八都の事件とその顛末を反芻しながら、トールは小さく頷いていた。
帝都の外で八都の平穏に携わっていた、サシャの友人達のことも思い出す。北向の王セルジュは、サシャよりも少しだけ長生きをした。セルジュの曾孫の一人が現在の神帝となっている。秋都の学生長ホセも、津都との関係改善には悩んでいたが、良い王様だったと、トールは思う。小さかったノエルは、マティアーシュの双子の兄で春陽王となったエリアーシュと契りを結び、春陽の王配となった。エルネストも、「面倒だ」と毎回の手紙でサシャに愚痴ってはいたが、南苑の王配として恙無く政を行っていた。西海に戻ったイアンは西海で文官長になった。グイドも、従弟である夏炉王リエトを支える文官長になっている。一番の驚きは、出会った頃は文字にすら興味が無かったクリストフが北向の文官長にまで出世したこと。北向王セルジュが手を焼くような文官長だったのではないか。湧いてきた笑みに、トールは首を横に振った。春陽の騎士ラドヴァンと、南苑の教授メイネは頻繁にサシャに会いに来ていた。彼らほど頻繁ではないが、『冬の国』の祭祀タトゥも、気が付くとサシャの部屋にいるという感じで時々『冬の国』のことと、タトゥが引き取ったレフィのことを伝えに来ていた。サシャがリュカを支えることができたのは、友人達のネットワークのおかげだろう。今はもうこの場所にはいない、サシャの友人全てに、トールは深く頭を下げた。
本棚に落ち着いた途端脳内に流れてきた既知の事項に、小さく呻き声を上げる。
『その治世の間に帝都拡張工事は完成し、建物も環境も改善された帝都には多くの学生が集まった』
文章と同時に脳内に映し出された拡張工事完了後の帝都の銅版画に、トールは微笑みを辛うじて堪えた。
リュカが神帝の地位に就いている間、サシャはかつての約束を守り、リュカの宰相の地位を全うした。グスタフ教授とマクシム教授の許で古代法と現代法の学位を取ったサシャの、法に則った助言と、リュカの類い稀な記憶力、そして帝都の文官長としてサシャとリュカを助けたカジミールを始めとする多くの人々の努力の結果、神帝リュカの治世は後世の手本となっている。
脳内に流れてくる文章に頷きを返しながら、その頃のことを思い返す。
リュカが神帝の地位に就いた時、イジドールの怠惰と放置の所為でボロボロだった白竜騎士団は団長となったイザイアのスパルタ教育によって再生を果たした。イザイアが引退した後は、東雲の神帝候補として帝都に預けられたリーンハルトの息子ユリアンが白竜騎士団長となり、小さい頃のユリアンに剣を教えたウベルトがユリアンを支えた。黒竜騎士団の方は、暫くの間フェリクスが団長代行を務めた後、春陽の神帝候補マティアーシュが団長になっている。大怪我から奇跡的な回復を遂げたバジャルドがマティアーシュを補佐していたが、バジャルドの厳しさを考えるとウベルトとバジャルドの地位は交換した方が良いのかもしれないと、宰相になったサシャは時々心配そうに首を横に振っていた。だが、ルジェクもエルチェもピオも、黒竜騎士団員はバジャルドの厳しさについては何も言っていなかった。マティアーシュとバジャルドは意外と馬が合っていたのではないか。横で接している歴史の本から脳内に流れ込んでくる、神帝リュカの治世における八都の事件とその顛末を反芻しながら、トールは小さく頷いていた。
帝都の外で八都の平穏に携わっていた、サシャの友人達のことも思い出す。北向の王セルジュは、サシャよりも少しだけ長生きをした。セルジュの曾孫の一人が現在の神帝となっている。秋都の学生長ホセも、津都との関係改善には悩んでいたが、良い王様だったと、トールは思う。小さかったノエルは、マティアーシュの双子の兄で春陽王となったエリアーシュと契りを結び、春陽の王配となった。エルネストも、「面倒だ」と毎回の手紙でサシャに愚痴ってはいたが、南苑の王配として恙無く政を行っていた。西海に戻ったイアンは西海で文官長になった。グイドも、従弟である夏炉王リエトを支える文官長になっている。一番の驚きは、出会った頃は文字にすら興味が無かったクリストフが北向の文官長にまで出世したこと。北向王セルジュが手を焼くような文官長だったのではないか。湧いてきた笑みに、トールは首を横に振った。春陽の騎士ラドヴァンと、南苑の教授メイネは頻繁にサシャに会いに来ていた。彼らほど頻繁ではないが、『冬の国』の祭祀タトゥも、気が付くとサシャの部屋にいるという感じで時々『冬の国』のことと、タトゥが引き取ったレフィのことを伝えに来ていた。サシャがリュカを支えることができたのは、友人達のネットワークのおかげだろう。今はもうこの場所にはいない、サシャの友人全てに、トールは深く頭を下げた。
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