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第九章 知識と勇気で
9.50 レフィの告白②
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目の前に現れた、暗殺者であるはずの少年に戸惑うサシャに、レフィが笑みを浮かべる。
「あの」
「座って」
目を瞬かせたサシャの前で石壁の残骸の一つに腰を下ろすと、レフィは自分の隣に座るよう、サシャを手招きした。
「話、長くなるから」
おずおずと、サシャがレフィの横に座る。
「何回も命を狙って、ごめん」
そのサシャに、レフィは唐突に頭を下げた。
「転生者だと、ずっと思っていたから」
「何故、転生者、を?」
レフィの言葉に違和感を覚え、サシャとトールは同時に首を傾げる。サシャの疑問に、レフィは短く答えた。
「僕の一族を、皆殺しにしたから」
レフィは、唯一神への信仰を『冬の国』に伝導しようとした南苑出身の修道士を父に、『冬の国』で小さな一族を率いていたまだ若い長老を母に持つ、一人っ子。優しい一族に囲まれて幸せに暮らしていたが、突然現れて一族が所有する土地と塩鉱山を要求した男に、父を除いた一族全てを殺された。その男が、母を塩鉱山に突き落として殺すところも、塩鉱山の横にあった古代の神殿跡に呼び出した叔父を突き飛ばして『消す』ところも、レフィは全て見ていた。古代神殿で相手を『消す』ことができるのは『転生者』が二人揃ったときであることに気付いたのは、父と共に避難した夏炉で、狂信者の長クラウディオが、一族を滅ぼした敵と同じように、古代神殿で『転生者』を消していたとき。その時から、この世界に居る転生者を全て滅することが、レフィの目標になった。
「ティツィアーノ猊下に拾われたときに」
レフィの言葉に、木々のざわめきが増す。
「約束したんだ。『転生者と、ティツィアーノ猊下が命じた人物だけを殺す』って」
父から仕込まれた武術と、生まれたときから身についている身軽さと『気配を消す術』を見込まれ、レフィはティツィアーノの間者になった。津都の太守ロレンシオを射殺したのは、ティツィアーノに命じられたから。ティツィアーノの宰相ガストーネの背に針のような短刀を刺したのは、サシャを消そうとしたガストーネが『転生者』だと分かったから。
「ティツィアーノ猊下の命なら、誰でも殺す。そう思ってたんだ、けど」
不意に沈んだ、レフィの言葉に、胸騒ぎを覚える。
レフィの言葉に口を挟まないサシャに習い、トールも、開きかけた口を何とか閉じた。
「あの、時」
今から五日ほど前のこと。ティツィアーノは、神帝公邸の奥にある自分の私室にディーデを呼び出した。ディーデと直接話し、その経過によってはディーデの神帝候補位を剥奪する。ディーデ呼び出しの理由をそう聞いていたレフィは、短刀を手に、ティツィアーノの私室の死角に隠れていた。
「あなたに神帝の資格がないことを黙っていろと言うつもりですか」
部屋に現れた途端発せられたディーデの不穏な台詞に、思わず飛び出す。まだティツィアーノからの合図が無いにも拘わらず、レフィは細身の短刀で、ディーデの背を刺し貫いた。だが。
「ふふっ」
心臓を刺したはずのディーデの身体が、ふらりとティツィアーノの方に倒れる。危ない! レフィがディーデとティツィアーノの間に割って入る前に、黒い靄がディーデとティツィアーノを覆った。そして。
「これで、良いでしょう」
倒れて動かないディーデの身体を、ティツィアーノが蹴る。
「この死体は、地下墓所に放っておけば、誰にも見つからないでしょう」
レフィがティツィアーノに違和感を覚えたのは、この時。
「あの」
「座って」
目を瞬かせたサシャの前で石壁の残骸の一つに腰を下ろすと、レフィは自分の隣に座るよう、サシャを手招きした。
「話、長くなるから」
おずおずと、サシャがレフィの横に座る。
「何回も命を狙って、ごめん」
そのサシャに、レフィは唐突に頭を下げた。
「転生者だと、ずっと思っていたから」
「何故、転生者、を?」
レフィの言葉に違和感を覚え、サシャとトールは同時に首を傾げる。サシャの疑問に、レフィは短く答えた。
「僕の一族を、皆殺しにしたから」
レフィは、唯一神への信仰を『冬の国』に伝導しようとした南苑出身の修道士を父に、『冬の国』で小さな一族を率いていたまだ若い長老を母に持つ、一人っ子。優しい一族に囲まれて幸せに暮らしていたが、突然現れて一族が所有する土地と塩鉱山を要求した男に、父を除いた一族全てを殺された。その男が、母を塩鉱山に突き落として殺すところも、塩鉱山の横にあった古代の神殿跡に呼び出した叔父を突き飛ばして『消す』ところも、レフィは全て見ていた。古代神殿で相手を『消す』ことができるのは『転生者』が二人揃ったときであることに気付いたのは、父と共に避難した夏炉で、狂信者の長クラウディオが、一族を滅ぼした敵と同じように、古代神殿で『転生者』を消していたとき。その時から、この世界に居る転生者を全て滅することが、レフィの目標になった。
「ティツィアーノ猊下に拾われたときに」
レフィの言葉に、木々のざわめきが増す。
「約束したんだ。『転生者と、ティツィアーノ猊下が命じた人物だけを殺す』って」
父から仕込まれた武術と、生まれたときから身についている身軽さと『気配を消す術』を見込まれ、レフィはティツィアーノの間者になった。津都の太守ロレンシオを射殺したのは、ティツィアーノに命じられたから。ティツィアーノの宰相ガストーネの背に針のような短刀を刺したのは、サシャを消そうとしたガストーネが『転生者』だと分かったから。
「ティツィアーノ猊下の命なら、誰でも殺す。そう思ってたんだ、けど」
不意に沈んだ、レフィの言葉に、胸騒ぎを覚える。
レフィの言葉に口を挟まないサシャに習い、トールも、開きかけた口を何とか閉じた。
「あの、時」
今から五日ほど前のこと。ティツィアーノは、神帝公邸の奥にある自分の私室にディーデを呼び出した。ディーデと直接話し、その経過によってはディーデの神帝候補位を剥奪する。ディーデ呼び出しの理由をそう聞いていたレフィは、短刀を手に、ティツィアーノの私室の死角に隠れていた。
「あなたに神帝の資格がないことを黙っていろと言うつもりですか」
部屋に現れた途端発せられたディーデの不穏な台詞に、思わず飛び出す。まだティツィアーノからの合図が無いにも拘わらず、レフィは細身の短刀で、ディーデの背を刺し貫いた。だが。
「ふふっ」
心臓を刺したはずのディーデの身体が、ふらりとティツィアーノの方に倒れる。危ない! レフィがディーデとティツィアーノの間に割って入る前に、黒い靄がディーデとティツィアーノを覆った。そして。
「これで、良いでしょう」
倒れて動かないディーデの身体を、ティツィアーノが蹴る。
「この死体は、地下墓所に放っておけば、誰にも見つからないでしょう」
レフィがティツィアーノに違和感を覚えたのは、この時。
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