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第九章 知識と勇気で

9.20 黒竜騎士団の現状

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 そのまま、夕刻の通りを、真っ直ぐ西に向かう。

 帝都ていとの象徴である、神帝じんてい公邸と大聖堂が並ぶ南門前の広場を通り過ぎた先にある黒竜こくりゅう騎士団の館は、いつになくひっそりと沈んでいるようにトールには思えた。

「……サシャ?」

 サシャとウォルター、イアンが黒竜騎士団の館の通用門に辿り着く前に、通用門から出てきたピオの細い影がサシャを認めて声をかける。

「何か用か?」

「黒竜騎士団領で疫病が発生した、って、聞いて」

「ああ」

 震えるサシャの言葉に、ピオは唇を横に引き結び、そして首を横に振った。

「帝都にいる奴らは大丈夫なんだけど、騎士団領で休んでいた人達は皆寝込んでる」

 心配するだろうから黙ってた。俯いて頭を掻くピオにサシャが首を横に振る。ピオの話では、黒竜騎士団副団長であるフェリクスほか、黒竜騎士団の主立った騎士の殆どが動けない状態であるらしい。

「ま、アラン教授のおかげで大部分回復してるって話だから、大丈夫、だと思う」

 震えるサシャの肩に置いたピオの手も、微かに震えていた。

「送っていこうか?」

 サシャの肩から手を下ろし、サシャの両腕を掴む小さな影二つを見下ろしたピオが、明るい声を出す。

「もう夕方だし」

「あ、ありがとう」

 けど、大丈夫。首を横に振ったサシャに、ピオも首を横に振る。

「そうかなぁ」

 子供さらいが出たら、一人で二人を守れるのか? 意外に的確なピオの言葉に、トールの背に緊張が走った。墓荒らしの被害は無くなったが、子供さらいが捕まったという情報は聞いていない。ピオの言う通り、ここは、ピオの手を借りた方が良さそうだ。

「俺、白竜はくりゅう騎士団長に挨拶に行かないといけないし」

 次に響いた、ピオの意外な言葉に、思わず目が丸くなる。

「『人手が足りないから、白竜に移れ』って、さ」

 確かに、白竜騎士団に寄宿しているだけの北向きたむくの神帝候補サシャが白竜騎士団長イジドールの服を洗濯しないといけないのだから、白竜騎士団の人手は足りていないのだろう。だが、疫病で大変なことになっている黒竜騎士団の人手を借りるのは、……どうなのだろう。サシャの先に立って歩き始めたピオの、サシャよりも少しだけ大きい背中に、トールは無意識に首を傾げていた。
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