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第九章 知識と勇気で
9.10 洗濯する少年③
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「あのね、サシャ」
洗濯物を干し終わり、盥や石鹸を片付けるサシャのエプロンを、ノエルが掴んだ。
「お母様のところ、案内してあげる」
服を着てから。そこまで言ったノエルがあっと言う顔をして洗濯紐に掛けられた洗濯物を見上げる。洗濯をしていて濡らしてしまった服も洗ってしまったから、着る服が無くなった。そう、トールが推測するより速く、サシャはエプロンの前後を元に戻しながら自分の部屋へと戻り、下着にする予定だった布地と裁縫箱、そして自分の上着を手にすると、呆然と突っ立ったままのノエルがいる洗濯用の土間へと取って返した。
「少しだけ待ってくださいね」
下着用の布地をノエルの身体に当てて寸法を確かめたサシャが、慣れた調子で布を裁つ。その布は、サシャの叔父ユーグが、サシャのために最後に織った布。その布を惜しげもなくノエルの下着にするサシャに、トールは無意識に首を横に振っていた。サシャは、そういう人物。
「これで、大丈夫?」
あっという間に作成された下穿きと襦袢は、ノエルの身体より少し大きめ。大きめの方が、すぐに成長する子供には良いだろう。トールがそう思っている間に、サシャは裾を上げた自分のズボンをノエルに穿かせ、ノエルが羽織ったサシャの上着の丈をベルトで調節した。
「ありがとう、サシャ!」
袖はまくっただけだが、他は特に違和感はない。
サシャの服を着たノエルは、自分を確かめるためにくるりと一周し、そしてサシャに大きく頷いた。
「これで、お母様のところ、一緒に行ける」
そう言いながらサシャの腕を引っ張るノエルに、笑い声を飲み込む。
同時に思い出したのは、最近の帝都を騒がせている『墓荒らし』と『子供さらい』のこと。サシャのエプロンのポケットの中で聞いた星読み達の話によると、墓荒らしは夜の墓地に現れ、埋葬したばかりの遺体を掘り出してどこかに持ち去る。そして子供さらいは、夕刻の路地に現れ、一人で遊んでいる子供を連れ去るらしい。土間から見える中庭の空は、僅かに黄みを帯びている。帝都の墓地は、この白竜騎士団の館から、北東門と南門を繋ぐ大通りを渡ってすぐのところにある。今から行けば、墓荒らしには遭わなくて済むかもしれないが、子供さらいの方は。
「行こう、サシャ」
ここからほど近い場所に向かうのだから、夕刻までには戻ってくることができるだろう。トールが楽観的な推測をする前に、ノエルに手を引かれたサシャは、白竜騎士団の通用口まで進んでいた。
洗濯物を干し終わり、盥や石鹸を片付けるサシャのエプロンを、ノエルが掴んだ。
「お母様のところ、案内してあげる」
服を着てから。そこまで言ったノエルがあっと言う顔をして洗濯紐に掛けられた洗濯物を見上げる。洗濯をしていて濡らしてしまった服も洗ってしまったから、着る服が無くなった。そう、トールが推測するより速く、サシャはエプロンの前後を元に戻しながら自分の部屋へと戻り、下着にする予定だった布地と裁縫箱、そして自分の上着を手にすると、呆然と突っ立ったままのノエルがいる洗濯用の土間へと取って返した。
「少しだけ待ってくださいね」
下着用の布地をノエルの身体に当てて寸法を確かめたサシャが、慣れた調子で布を裁つ。その布は、サシャの叔父ユーグが、サシャのために最後に織った布。その布を惜しげもなくノエルの下着にするサシャに、トールは無意識に首を横に振っていた。サシャは、そういう人物。
「これで、大丈夫?」
あっという間に作成された下穿きと襦袢は、ノエルの身体より少し大きめ。大きめの方が、すぐに成長する子供には良いだろう。トールがそう思っている間に、サシャは裾を上げた自分のズボンをノエルに穿かせ、ノエルが羽織ったサシャの上着の丈をベルトで調節した。
「ありがとう、サシャ!」
袖はまくっただけだが、他は特に違和感はない。
サシャの服を着たノエルは、自分を確かめるためにくるりと一周し、そしてサシャに大きく頷いた。
「これで、お母様のところ、一緒に行ける」
そう言いながらサシャの腕を引っ張るノエルに、笑い声を飲み込む。
同時に思い出したのは、最近の帝都を騒がせている『墓荒らし』と『子供さらい』のこと。サシャのエプロンのポケットの中で聞いた星読み達の話によると、墓荒らしは夜の墓地に現れ、埋葬したばかりの遺体を掘り出してどこかに持ち去る。そして子供さらいは、夕刻の路地に現れ、一人で遊んでいる子供を連れ去るらしい。土間から見える中庭の空は、僅かに黄みを帯びている。帝都の墓地は、この白竜騎士団の館から、北東門と南門を繋ぐ大通りを渡ってすぐのところにある。今から行けば、墓荒らしには遭わなくて済むかもしれないが、子供さらいの方は。
「行こう、サシャ」
ここからほど近い場所に向かうのだから、夕刻までには戻ってくることができるだろう。トールが楽観的な推測をする前に、ノエルに手を引かれたサシャは、白竜騎士団の通用口まで進んでいた。
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